NZドル堅調の賞味期限はいつか
スタグフレーションの様相
NZドルの堅調が目立つ。特に5月22日以降が顕著である。
わかりやすい尺度としてAドル(豪ドル)とのクロスレートでチェックしてみると、5月21日の1Aドル=1.0869NZドルが6月3日には1.0806NZドルとNZドルが0.58%高くなっている。
対米ドルでは同期間に1.38%高くなっている。米ドルの全面高基調が続く中では小国通貨と言えども、一応主要通貨の一角だけにマークしておく必要があろう。
では、ナゼ5月22日以降、NZドルが上昇歩調を強めているかと言えば、明らかにRBNZ(NZ準備銀行)の政策委員会が原因となっている。
利上げを決定したわけでもなく量的引き締めの方針を据え置いただけにもかかわらず、反応したのである。
ニュージーランド(以下NZとする)では過去3年以上にわたって、インフレ率がRBNZの定めるインフレ目標(2%中央値)の上限を上回る推移が続くなど、インフレが長期化している。
直近数年の商品市場価格上昇の動きや、国際金融市場における米ドル全面高を受けたNZドル安による輸入インフレに加え、コロナ禍一巡による景気回復の動きも追い風にインフレが上振れ。
さらにRBNZはコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和政策を英断したものの、インフレに加えて金融市場でのカネ余りも追い風として不動産市況が急上昇するなど、バブルの様相を呈し始めたため、2021年10月以降は断続利上げへとスタンスを修正した。
だが、その後もインフレが高止まりしたためRBNZは累計で525bp(5.25%)もの利上げを断行。一応、不動産市況は沈静化したが、商品高や米ドル高がインフレ昂進を促す展開が続いた。
なお、一昨年以降の商品高と米ドル高の一服を受けて、一時は30年ぶりの水準(7%台)まで上昇したインフレ率は頭打ちに転じたものの、直近1-3月も前年同期比+4.0%、コアインフレ率も同+4.1%と、ともにRBNZの目標を上回る推移が続いている。
また、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品のみならず、非貿易財やサービス物価に上昇圧力が続くなど、インフレの粘着度の高さを示唆する動きが確認されており、インフレが沈静化していると判断する状況には至っていないと捉えられている。
その後の物価を巡っても、異常気象の頻発による農業生産の低迷が長期化するなかで、食料インフレ圧力が掛かる展開が続いているほか、昨年後半以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格を中心とした、エネルギー価格の上昇など、生活必需品を柱とした物価上昇の動きが続いている。
他方、昨年後半のNZ経済は物価高と金利高のダブルパンチに加え、世界経済、とりわけ最大の輸出先である中国経済を巡る懸念(不動産不況をベースとした成長鈍化)も、重なって2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るなど、景気低迷の中の物価上昇というスタグフレーションの様相を呈している。
こうしたなか、足下の雇用は拡大ペースが鈍化するなど底入れの動きに陰りが出るとともに、民間部門における賃金上昇ペースも鈍るなど労働需給の逼迫緩和を示唆する動きが出ている。
こうした流れの中で5月22日、RBNZの定例会合が行われたのである。
タカ派色を強めたRBNZ
RBNZは7会合連続で政策金利を5.5%に据え置く決定をした。
会合後の声明文では、足下の物価について、「輸入インフレ圧力の後退やサービス物価の緩やかな鈍化を反映している」一方、「サービス物価の鈍化ペースは緩やかなものに留まるなかで利下げ期待は後退している」とした上で、労働市場を巡って、「圧力は緩和しており、賃金の伸びと国内支出は、インフレ目標に一段と一致する水準に緩和しつつある」との見方を示した。
ただし、物価動向については、「金融政策の動向を受けにくい分野(家賃、保険料、地方税など)が、インフレ期待へのリスクとなっている」とし、政策運営について、「適切な期間のうちにインフレが確実に目標域に回帰すべく引き続き抑制的な水準に、留める必要がある」と引き締め姿勢を維持した理由を挙げた。
尚、同時に公表した議事要旨においては、「インフレの粘着度や生産性の低迷、賃金と価格設定行動の正常化に関する不確実性を理由に、今回の会合での利上げの可能性を議論した」と記したほか、政策運営については、「理事会はインフレ目標の実現には2月会合時点の想定に比べて、より長期にわたって政策金利を抑制的な水準に維持する必要がある可能性に同意した」として、引き締めスタンスの長期化を示唆する考えを示した。
会合後に記者会見に臨んだRBNZの総裁も、「物価が予想外に上振れする余地は限られている」としつつ、「インフレ期待の低下は望ましいがさらなる低下が必要」、「インフレの低下には時間を要する」とした上で、「今回の会合では利上げを真剣に議論した」と、タカ派姿勢をあらためて強調した。
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2024/6/6の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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