1ドル160円が円の底値なのか
日銀介入を待ちわびる投機筋
1ドル160円の大台をアッサリと抜けてきた。こうなるとIMM投機筋と日銀による「大仕手戦」前夜という状況だ。
恐らく、投機筋が勝利し、荒いジグザグを形成しながら、次のポイントである170円方向となるのであろう。
ただし、巨大なポジションで勝負してくる投機筋に対して個人や日本の機関投資家が、「提灯」持ち的に順張りすると、大ヤケドを負う確率が高いゆえ、様子見に徹した方がよい。ある日、ある時間帯に全く真逆の動きに襲われてしまい、大損失に至るリスクがあるからだ。
日銀とて過去の事例からすると、決して介入手法はまずくないし、関係各国との情報交換・根回しもキチンとやってきた。
だが、世界的ドル高、米国金利の再上昇、米政権のインフレ抑制の側面としてのドル高容認スタンスというマクロの流れに日銀が孤軍奮闘しても自と限界が見えてくるのが今回の環境と言えよう。
28日付けのブルンバーグ・ニュースで流れてきた関係者の見方は以下の通り。
◎世界のマクロ経済的な背景はさらなる円安を示唆しており、そのため介入を成功させるのは難しいかもしれない。
堅調な成長、緩やかな政策調整、フォワード金利の上昇リスクという当社の基本見通しは、円にとって非常にネガティブな組み合わせだ。
唯一の問題は日本の政策当局が円安にどの程度強く対抗するかだが、その手段は限られていると思われる。
それでも円相場が26日のように他の資産をアンダーパフォームし続ければ、介入のリスクは大幅に高まるだろう(GSグループのストラテジスト)
◎当局(財務省・日銀)は、水準自体を目標にしないと言うかもしれないが、トレンドと変化率に細心の注意を払っている。
外国為替市場は、かつての債券自警団のように日本当局に挑戦している(ペッパーストーングループのチーフ・アナリスト)
◎円安はインフレの問題を引き起こしておらず、日本の投資家が保有する海外資産の価値を押し上げている。
日本は穏やかな円安政策をとっている。
市場が無秩序な動きになれば介入の可能性を排除できないが、植田総裁が26日の記者会見で円安の重要性を軽く扱ったことと、利上げの緊急性はないと示唆したことは、注目に値する(ドイツ銀・為替チーフ・アナリスト)
◎現在の水準で円をショートするのはリスクが高いが、円に弱気の投機筋は、当局が動いたら今より低い水準でドルを買おうと計画している可能性が高い。
ヘッジファンドが介入の動きを捉えるために、スポットから400~500ピップス下の指し値注文でアルゴリズムを設定することは想像できる。
ドルが急落してもすぐに戻ると考えているからだ(ペッパーストーングループのチーフ・アナリスト)
◎市場は引き続き財務省の介入の本気度を試しているが、財務省も今週のFOMCを前に準備金を無駄遣いしたくないだろう(クレディ・アグリコルのシニア外為ストラテジスト)
アジア時間4月26日午前に1ドル160円20銭台まで円は下落したが、このレベルから4時間余りで一気に155円20銭あたりまで戻した。
神田財務官は「1ヵ月前から10円幅の円高となった時点が介入のポイント」と伝えていたことからすれば、正にその通りの状況であり、まずは介入の第一弾であった可能性が高い。
もちろん、だからと言って、160円でピーク・アウトということは断言できまい。円安の日本経済に対する影響は、現状の水準でも恐らく差し引きプラスである。
事実、円安を背影にグローバル企業の業績が好調だったことが株価大幅上昇の一因だった。
家計にとって円安は、輸入物価の上昇を通じ直接的にマイナスに働くが、円安で業績が改善した企業が賃上げで家計に還元することで相殺される。
実際、そうした流れができつつあり、今年は賃金の上昇率が物価上昇率を上回る可能性が濃厚である。
現段階では足元で輸入物価が大きく上昇しているわけではない。川下での商品・サービス価格の値上げも一段落している。
財務省も計算上、1ドル160円までなら、実質賃金の上昇分が消費者物価上昇分をカバーするが、170円となると半年後にはカバー不可能となることを知っている。
ゆえに、1ドル160円までなら口先介入にとどめる意向であったのだろう。ところが4月29日に160円台に突入してきたので「介入出動」となったと見る。
一方、日本の報道各社・各局は日銀の介入について表面的な動向を述べるにすぎないが、実際は相当、難易度が高く、最大限の効果を狙うテクニックは、一流の外為ディーラー以上の分析と度量が必要とされる。
まず円買い介入は外貨準備を充てるが、その規模は有限である。
3月末時点での外貨準備高は1兆2900億ドル(約200兆円)。
このうち、保有外貨証券(大半は米国債)の0.99兆ドル、外貨預金の0.16兆ドル(約25兆円)で大半を占めている。
一般的に為替介入に即時利用されるのが外貨預金であり、2022年の介入規模(9兆円強)を前提とすれば、その3倍程度が限界である。
もっとも、2022年度の為替介入(円買いドル売り)は、その原資が外貨預金ではなく、外貨証券だったことが注目された。
外貨証券の大半は米国債とみられているため、米国債の売却によって資金を捻出したと見られている。
いざとなったら米国債を売ってでも介入する、としたスタンスを見せつけることで投機筋らに対し、「介入余力は十分にあるぞ」との脅威につながる意図があったとみられる。
IMM投機筋が、こうした経緯を熟知してでも立ち向かう覚悟があるのなら、今回の様な「日本の休日、且つ薄商いのアジア市場での日銀介入」で後ずさりすることはなかろう。
米国高金利プラス日銀の限界的利上げ姿勢という基本的構図を最大の武器にして、巧みなディーリングを重ねてくるはずだ。
仮に日本の財務省・日銀が1ドル170円を防衛ラインと定めて(今年中)、腰の入った介入を続けるならば、さすがに介入原資の残高が意識され、投機筋の餌食になりかねない。
したがって日銀介入で円相場をUターンさせることは至難の業なのであり、結局、米国の景況悪化やインフレ率の再低下なる局面を待つか、米財務省のフォローを願望するしかないのである。
4月16日のFRB議長発言=「利下げ見送り示唆」は、やはり円先高論にとって超ド級のショックだったと言えよう。
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2024/5/2の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。