イランがイスラエルへの報復攻撃を実施
4月13日、イランのイスラム革命防衛隊が、被占領パレスチナ地域のイスラエルの陣地に向けて数十発の無人機とミサイルの発射を開始したと発表した。
イスラエル側も、軍報道官がイランからミサイル、無人機が発射されたことを確認し、ミサイル迎撃システムを警戒態勢に置いたと述べている。
今回のイランの攻撃は、4月1日にシリアのダマスカスのイラン大使館の施設が空爆されたことへの報復として実施されている。
この大使館空爆では13人が死亡し、その中に、イランの革命防衛隊のクドゥス部隊のモハンマド・レザ・ザヘディ司令官、ハディ・ハジ・ラヒミ司令官および5人の士官が含まれていた。
空爆の実行者は確定できていないが、ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエル政府の4人が同国による攻撃を認めたと報じている。
イランの攻撃対象
イランのイスラエルへの報復攻撃(「真の約束」作戦)は、複数の段階に分けて実施されると報じられている。
4月14日の革命防衛隊の発表では、攻撃対象は「占領地内の特定の標的」と言及されており、イスラエルが占領しているシリアのゴラン高原やレバノンのシェバ農地などのイスラエル軍の拠点、ヨルダン川西岸地区の南のネゲブ砂漠の北部で人口密度の低いイスラエル軍基地が候補となっていると考えられる。
したがって、CNNなどが報じているイスラエルの国会や人口密集都市が攻撃される蓋然性は低い。
イランは、4月2日の国連安保理の緊急会合でも、ダマスカスの大使館空爆に対し「断固とした対応を取る」と述べる一方、国際法を尊重すると書簡で安保理に提出している。
例えば標的として考えられるシリア領のゴラン高原(約1150平方キロメートル)は、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した地である。
同国は、1981年12月にこれを併合したが、12月17日の国連総会でこの併合を認めた国は、イスラエル以外に米国のみで、併合は「無効」となっている。
その後、1991年のマドリード中東和平会議を経て、当時のイスラエルのラビン首相、バラク首相がコラン高原からの撤退(1964年6月4日ライン)について、米国を介してシリアと協議を行っていた。
協議内容は、以下の内容などであった。
(1)水(イスラエルの需要の3分の1に当たる水源)、
(2)安全保障および国交正常化、
(3)国境線の画定
しかし、バラク首相(当時)は、国境線画定についてイスラエル国内で合意を取り付けられず、米国にそのことを通告した。
それ以降、ゴラン高原のイスラエルの占領は継続され、入植地も拡大している。また、ネゲブ砂漠の北部にはイスラエルを代表するネバティム空軍基地がある。
イランが主張する攻撃の正当性
今回のイランによる報復攻撃が、イスラエルによるシリアの主権とイラン大使館の財産の不可侵性の侵害への対応だとすれば、占領地ゴラン高原のイスラエル軍の拠点への攻撃は論理的に説明がつく。
4月2日の国連安保理事会で、ロシア、中国、アルジェリアなども、イスラエルの攻撃について、国連憲章の規程と安保理及び総会の関連決議だけでなく、ウィーン条約の基本原則を無視した行為だと非難している。
イラン国連代表部は、4月14日、今回の軍事行動は、国連憲章51条にもとづいていると述べた。
また、イラン国連代表部の声明は、国連安保理がシリア領土の外交施設に対する侵略行為の審議を十分にせず、イスラエルへの非難声明さえ発出できなかったことは残念であり、仮にそれができていればイラン自身がイスラエルを罰する必要がなかっただろうと述べている。
なお、声明発出の阻止に努めたのは、米国、イギリス、フランスである。
イスラエルの対応
注目されるのは、同代表部が声明で、この紛争はイランとイスラエル間のものであり、米国に関与を控えるよう警告し、イスラエルが反撃すればイランはもっと厳しく対応すると述べていることである。
今後、イスラエルと米国がこのメッセージをどう読み、対応するかが重要となる。
イスラエルのネタニヤフ首相が置かれている状況は、
(1)ガザ地区へのイスラエルの軍事行動に対する国際的非難の高まり、
(2)休戦・身柄拘束者の間接交渉の行き詰まり、
(3)退陣を求める国内の市民運動、
(4)ユダヤ教超正統派の男性の徴兵免除をめぐる連立政権内の対立
などで苦しい立場にある。
今回のイランの攻撃で、ネタニヤフ政権は「外国からの脅威」を利用し、国内外の政権批判をかわす機会を得たといえる。
イスラエルがダマスカスのイラン大使館の施設を空爆した4月1日は、イマーム・アリーの殉教記念日である。その日に空爆を実施したイスラエルの目的は、単にイラン革命防衛隊幹部の殺害だけだったのだろうか。
当時、ガザ地区の問題では、ラファへのイスラエル軍の地上侵攻が国内外で議論される状況にあり、同日、慈善団体「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)がイスラエル軍の攻撃で7人のメンバーが死亡している。
今後のシナリオ
イラン国連代表部は、X(旧ツイッター)への投稿で、4月1日のイラン外交施設空爆に対するイランのイスラエルへの報復攻撃について、「問題は終結したとみなすことができる」と述べている。
これは、イランは軍事的エスカレートを望んでいないとのメッセージとみることができるだろう。
これを踏まえると、次のようなシナリオが考えられる。
1.今回の攻撃に関し、国連安保理での協議が中心となる。
2.イスラエルがシリア領内のイラン関連施設への空爆を激化させる。
3.イスラエルが米国と事前協議を行い、イランの領土を単独で攻撃する。
4.イスラエルと米国が共同作戦でイランの領土への攻撃を行う。
紛争のエスカレートを招く上記の2、3、4のシナリオを避けるためには、ネタニヤフ首相が国内の極右勢力を抑えられるかが課題となる。
イスラエルは、現在、ガザ地区での戦闘に加え、レバノンのヒズボラをはじめとする親イラン武装勢力とも戦闘状態にあり、さらに戦局を拡大する余裕はないと考えられる。
一方、ホルムズ海峡付近でイスラエルに関係する船舶が革命防衛隊に拿捕された問題は、未解決となっている。
今後、紅海に次いでホルムズ海峡での船舶の航行の自由の問題が生じた場合、物流に加え、エネルギー供給面でも世界経済に悪影響を与えることになる。
仮に、そうした事態になれば、米国が何らかの武力行使に踏み切る可能性が出てくるだろう。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年4月14日に書かれたものです)