膠着続くドル円はどこへ行く?
日銀は3月から動く可能性
円の独歩安が続いている。
低金利通貨の円を売って相対的に金利の高い通貨や金融資産に投資するという、基本ディールが定着しているからだ。
そして「日銀がたとえ、ゼロ金利政策を解除しても、金融緩和スタンスは続きそうだし、米国は利下げ開始の時期が年央あたりまで先延ばししそうだ」とした見方が大勢になりつつある。
となれば「当面、ドル円もナローレンジ(値幅の小さい往来相場)になりそうだ」との見通しになるが果たしてどうか。
以下、日銀とFRBの直近の動きを追ってみた。
3月入りとともに日銀は、具体的なマイナス金利解除に動く態勢に入った。その打ち上げ花火は2月29日、高田審議委員が演じた。
「2%の物価安定の目標実現が漸く見通せる状態になってきた」と、まさに市場関係者へのGOサイン・シグナルだ。
2月8日に内田副総裁が「緩和的な金融環境は継続する」ことへの念入りな説明をしたのに続き、高田委員も市場に織り込ませる役割を担っているのである。
では、高田委員が2%達成の論拠をどう説明しているのか。それは2つの論理で組み立てられている。
一つは、企業部門が健全化していて「金融政策の出口における金利上昇に対して、マクロ的にみて従前と比べて耐性を持った状況にある」ことだという。
もう一つは規範の転換。デフレ下で定着していた企業の保守的な資金・価格設定行動が変わり、好循環が始まるという。
また、人々の資金・物価は上がらないものという固定観念の変化も挙げている。それを踏まえて、「昨春に続いて高めの賃上げ率が実現すれば、持続的な所得増加期待も高まりやすい」と述べている。
昨春の賃上げ率(3.58%連合発表)が、3月13日の集中回答日に明らかになる集計で、4%前後の高い賃上げ率が実現すれば、2%達成に至るとの想いがある。
高田委員は、そのときには「YCC(利回り曲線管理政策)の枠組みの解除、マイナス金利の解除、オーバーシュート型コミットメントの在り方」などの検討を必要とするとしている。
つまり、結構、全体に及ぶ大枠変更を意識していることがわかる。
緩和的な金融環境は変えないが、従来の枠組みは大幅に変えるということならば、何か矛盾を感じさせる。政府・市場の意向を考慮した「合成形成」を実行しようということなのだろう。
しかし、多くのエコノミストには疑問があるはずだ。1月のコアCPI前年比が2%まで鈍化してきた点だ。
それまで2%を大きく上回ってきたコアCPIが、ようやく2%にタッチしただけであり、「安定的に2%を上回る」との条件には達していない。
どうやら日銀は安定的2%物価が得られるとのシミュレーションを重視する方針に、変えたようである。
こうしたロジックの重視は、植田総裁になってからの変化と言える。
就任後の植田総裁は、常に賃金・物価をセットにして捉えて物価上昇圧力を「第一の力」(輸入物価上昇)と「第二の力」(循環メカニズム)の2種類に分けて考えてきた。
従来は「第二の力」がまだ十分に作動していなかったが、今春闘でそれが動き出すとみている。高田委員の発言もその考え方と完全に一致している。
しかし、日銀のコンセンサスが正しいかは異論も当然ある。賃金上昇は本当に規範を変えたと言い切れるのか、という点である。
7割を占めている中小企業の賃上げは、昨春闘では不発であった。今春もその図式が劇的に変わることは難しいとみる。
日銀サイドは「中小企業の不確実性は構造問題でもあるので、それにこだわると、ビハインド・ザ・カーブ(遅きに先す)に陥る」との反論に出るだろう。
マイナス金利の副作用を是正して、イールドカーブの自然な形成を徐々に回復していく方が、金融仲介機能にとって好ましいとするはずだ。
確かに、緩和的な金融環境を維持するのならば、賃上げが遅れている中小企業の活動を縛ることはなかろう。
おそらく、日銀が従来よりも中小企業の不確実性を重視しなくなっている背景には、政府全体の考え方がある。
それと軌を一にしているのだろう。今年4月まではゼロゼロ融資の返済開始が集中する。
しかし、政府はどこまでも低利融資でそうした賃金ニーズを救済しようとは考えず、早晩、適正な金利水準を負担してもらおうと考えているようだ。
もう一方で、ゾンビ企業を温存したままで健全な中小企業が、人手不足に苦しみ続けるのはおかしいという意見もある。
今年は、そうしたレジーム転換が求められるタイミングと多くの人が考えているので、日銀政策委員たちもまた、中小企業の不確実性に拘泥することがなくなっているのだと思われる。
結論を急ごう。
日銀ウォッチャー(日銀の政策推移を継続的にチェックしているエコノミストたち)の間では、4月のマイナス金利解除が有力視されている。
植田総裁は3月解除もありだという見方も存在していることを承知の上で、敢えて4月解除を選ぶことでハト派の印象を演出しようとしているだけだ、との分析の上での「4月説」というわけだが、実際のところ3月解除は十分にあると思われる。
やはり賃上げの機運が最高に盛り上がるのは3月13日の集中回答日である。そのマインド高揚を逸するのは、もったいないと考えるのは日銀として当然だ。
敢えて4月まで機が熟すのを待つ状況ではないからこその高田発言だったはず。現在、政局は流動化(政治改革を巡る自民党内のドタバタ)していて、日銀の緩和解除に待ったをかける力は弱い。
むしろ、賃上げによって求心力を高めたいというのが岸田政権の主眼になっている。日銀はそうした上げ潮のムードを利用して、前向きにデフレ脱却の機運を強調するつもりだ。
筆者は3月19日の日銀会合でのマイナス金利解除等を予測する。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/3/8の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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