エネルギーシフト下のUAE、カタール、サウジとガザ紛争
2月にエネルギー関連で2つの注目する報道があった。
(1) 液化天然ガス(LNG)に関する年次報告書
ひとつ目は、イギリスのエネルギー企業シェルが、2月14日に公表した液化天然ガス(LNG)に関する年次報告書である。
この報告書で気になる点は、2024年のLNGに関し、供給不足により価格が高止まりし、世界経済の抑制要因のひとつになると予想していることである。
この報告では、中国の石炭からガスへのエネルギーシフトが今後10年続き、LNGの需要を牽引すると指摘されている。また、南アジアでも、ガス火力発電所や産業等の燃料向けにLNGの需要が一増増加する可能性があるとも述べている。
現在のアジアスポット市場のLNG価格は、2022年につけた100万英国熱量単位(BTU)当たり70ドルの過去最高値を28ドル以上下回っており、2022年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻時のような天然ガス購入契約争いは見られていない。
しかし、欧州諸国や東南アジア諸国でも着実にLNGの需要は伸びており、今後の価格動向が注目される。
(2) 石油大手各社の状況
二つ目は、2月14日付ロイターが、シェル、エクソンモービル、シェブロンなどの石油大手各社は石油価格が1バレル当たり30ドルに下落しても利益を生みだせる油田を標準にして資産の再編や事業の集中を行っていると報じたことである。
同報道によると、2023年にエクソンモービルとシェルがカリフォルニア州の生産拠点(100年ほど前から稼働)を売却し、シェブロンはインドネシアからの撤退を、BPはカナダ、アラスカ、北海の資産の売却を、トタルエネジーズはナイジェリア事業からの撤退を検討している。
ロイターは、これらの石油大手企業は、10年前の損益分岐点の半分程度(1バレル当たり25~30ドル)に抑えるコスト抑制策を取っていると指摘している。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界的なクリーンエネルギー・シフトにより、石油需要が2030年までにピークに達すると予想しており、石油大手各社の経営戦略には妥当性がある。
一方、石油輸出国機構(OPEC)は、今後20年は石油の利用が増え続けるとの見通しを示しており、石油需要は上振れする可能性があるとも指摘している。
以下では、こうした国際エネルギー事情の変化の中、UAE、カタール、サウジが、どのような経済政策を取り始めているのかを概観した上で、10月7日以降、国際社会の焦点の1つであるガザ紛争への、この3国の関与のあり方にどのような影響を与えているかについて検討する。
湾岸アラブのエネルギー3大国の注目される経済政策
まず、UAE、カタール、サウジの近年の注目される経済政策について概観する。
UAE
UAEは、1月31日のロシアとウクライナの捕虜交換の仲介役で外交力を発揮するだけでなく、経済連携に関する外交でも注目されている。
とりわけ、対インド外交が活発化しており、2024年に入り、1月にムハンマド大統領がインド西部グジャラート州で開催された投資に関する「第10回バイブラント・グジャラート・グローバル・サミット」(VGGS)に主賓として参加、2月にはインドのモディ首相がアブダビを公式訪問し、新たな2国間投資協定を締結している。
両国間では、すでに2013年12月に投資協定が署名(2014年9月発行)されており、2022年2月には包括的経済連携協定(CEPA)を締結している。
今回の新投資協定では、これらの実績を踏まえ、中東・欧州経済回廊(IMEEC)に関する政府間枠組みを織り込み、物流と金融での関係強化を打ち出している。
このほか、UAEは域内経済協力も進めており、バーレーン、ヨルダン、エジプトとの産業統合連合(Integrated Industrial Coalition)に、2024年1月にモロッコが参加し、域内投資機会の創出、資源・食料・エネルギーなどの経済分野で連携をはかりながら経済構造改革を着実に進めている。
特に対外投資では、インドに加え、アラブの人口大国であるエジプトに対するものが注目される。
UAEは、2024年2月23日にエジプトが受けた過去最大の海外投資額となる350億ドルの投資を行い、エジプト北西部の地中海沿岸(中心はラス・アルへクマ)の地域総合開発計画を支援すると発表した。
なお、この投資は、地域開発に加え、スエズ運河の航行の減少、観光産業の不振などにより外貨準備が大きく減少しているエジプト経済自体への支援にもなっている。
以上のように、UAEは、2国間貿易や対外投資などを推進することで、収入源の強化に取り組んでおり、2023年の非石油貿易額は、前年比で12.6%増の3兆5000億ディルハム(9529億3000万ドル)と過去最高額を記録している。
カタール
ガザ紛争でハマス等との交渉役として存在感を示しているカタールは、LNGの生産大国である。
2月25日にカアビ・エネルギー担当国務相が年間生産能力を1600万トン上積みする計画を明らかにし、今回の増産を含め、2030年までに生産能力を現時点から85%高め、年間1億4200万トンとする計画を示している。
また、2月13日、タミム首長は、同国を初めて公式訪問したカザフスタンのトカエフ大統領と「戦略的パートナーシップ」を結んだ。
これにより、カタールは、総額176億ドル(12の合意文書)に達するエネルギー・電力分野、金融分野などの対カザフスタン投資事業を行うことになる。
これまでのカタールの対カザフスタン直接投資の累積が7600万ドルであったことから見て、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に引き上げたことがいかに重要かがわかる。
サウジ
1月30日、サウジのエネルギー省は、持続的最大生産能力(MSC)に関し、2020年に2027年までの達成目標として掲げた日量1300万バレルを1200万バレルまで減産するよう、国営石油会社アラムコに指示した。
翌31日には、サウジ統計庁が、2023年の実質GDP 成長率はマイナス0.9%だったと公表した。
同国は、石油依存体質からの脱却を進める「ビジョン2030」計画を実施中であるが、主要な経済動向は、下記の通りである。
(1)アラムコの株式売却
(2)国内の鉱物資源開発(金、レアアース、銅など)
(3)ロシアとの石油価格調整
しかし、原油の減産や価格下落により、年次目標を下回る状況にある。
なお、サウジについては、2月26日、アブダビでの世界貿易機関(WTO)会議の場で、カサビ商業相がイスラエルのバルカト経済産業省と交流したことが話題となった。
3カ国のガザ紛争への関与の相違点と共通点
エネルギー大国であるUAE、カタール、サウジのガザ紛争へのかかわり方には違いが見られている。
UAEとサウジは、イスラム主義の政治理念(公正・公平など)で民衆レベルの草の根支援を実施するエジプトのムスリム同胞団に強い警戒感を示している。
UAEが、ムスリム同胞団を弾圧するエジプトのシシ政権への支援を強めているのもこうした背景がある。
このムスリム同胞団を母体としているのがパレスチナ自治区のガザ地区を実効支配してきたハマスである。
サウジには、パレスチナ人を受け入れた歴史があり、国内には反イスラエル住民も多くいる。
一方、カタールは、エジプトのムスリム同胞団との関係もよく、パレスチナ問題ではガザ地区への経済支援の積極的に行っている。また、ハマスの政治局長のハニヤ氏をはじめ幹部が同国で居住することを許可している。
以上のような3カ国の個別事情は、現在のガザ紛争への関与に違いをもたらしている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年3月4日に書かれたものです)
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