ポンドは政権交代の織り込みに注意せよ
利下げを急ぐ環境ではない
13日に発表された最新の英雇用統計は、市場の想定以上に労働需給が引き締まっており、賃金上昇圧力が根強い可能性を示唆した。
10-12月の週平均賃金(除賞与)の前年比は+6.2%と前期(+6.7%)から減速したものの、市場予想(+6.0%)からは上振れた。
同期間の失業率も3.8%と市場予想(4.0%)に反して前期(3.9%)から低下し、1月の有給従業員数も市場予想に反して前月比増加となった。
総じて、労働需給の引き締まりおよび賃金上昇圧力は市場の想定以上だった。
14日発表の英1月CPIは、総合・コアとも市場予想から下振れたものの、サービス価格を中心とした物価上昇圧力は引続き根強いことを示唆した。
注目されていたコアCPI(除く食料品・アルコール・タバコ・エネルギー)の前年比は、+5.1%と前月から横ばいとなり、市場予想(+5.2%)を小幅に下回った。
下振れの主因はサービスであり、1月の前年比は+6.5%と前月(+6.4%)からは、加速したものの、市場予想(+6.8%)には届かなかった。
もっとも、サービス価格の下振れは振れの大きい航空運賃と宿泊代が主因とみられ、全体としては昨年のベース効果もあって前月から前年比伸び率を拡大させた品目が多くなっている。
賃金上昇を背景としたサービスインフレの根強さは継続していると言えよう。
15日発表の昨年10-12月期英国実質GDPは前期比▼0.3%と、市場予想(▼0.1%)から下振れ、英国経済が昨年下期にテクニカルリセッションに陥っていたことが示された。
もっとも、マイナス成長の主因は純輸出で、それを除いた内需は総固定資本形成を中心に前期比+0.3%となっており、内容は悪くない。
総合的に英国経済は冴えないものの、最悪期は脱しており、当面の先行きは個人消費を中心に緩やかな回復に向かうと予想される。
最近のPMI(購買担当者景気指数)が改善していることや、16日に発表された1月英国小売売上高が市場予想から、上振れて前月から大きく増加したことも、こうした見通しをフォローしている。
BOE(中央銀行)は1月31日のMPC(金融政策委員会)で政策金利を4会合連続の据え置きを決定した。
BOEの最新の金融政策レポートにおける経済見通しでは、市場の想定する政策金利の推移を辿る場合、2027年まで2%のインフレ目標に達成しないとの見方が示された。
これは、市場の利下げ期待が過剰であるとのBOEの警告にも取れる。
MPC後にOIS市場(翌日物金利先物市場)における利下げ見通しは後退したものの、6月を裏付ける根拠があるわけではなく、8月利下げもありうる。
「ポンド通貨は上昇を再開し、今年最も好調な通貨の一つとなる、金利が長期にわたって高止まりする可能性が高いからだ」(2月19日、BofA・クレディアグリコルのトレーダー)との声もある。
テクニカル的には1.28ドルを抜けられるかどうかが当面のポイントとなりそう。
年後半に労働党政権へ交代
しかし、ここで年後半にポンドが大きく売られるリスクに言及しておかねばなるまい。
英国では任期満了に伴う総選挙が来年1月28日まで行われる予定だが、スナク首相(保守党)は1月4日に「今年後半に実施を想定している」と発言。
スケジュール的には今秋の可能性が高まった。現時点で有権者は保守党政権に対して厳しい評価を下している。
そのため、次期総選挙の結果は2010年5月以来14年ぶりに労働党政権が成立する展開が予想される。
中道左派の労働党は「大きな政府」志向が強いため、粘着性を強めているインフレをさらに粘着的にさせ、スタグフレーション(高インフレ下の景気減速)に陥る懸念がある。
英国政府の歳出は、これまで、基本的に労働党政権下で拡張し、保守党政権下で縮小する循環を描いている。
2020年のコロナショックの際は、未曾有の需要ショックが生じたため、保守党政権の下でも歳出は拡大したがその後は縮小している。
そのため労働党が政権を担った時期は、インフレが高まりやすいという傾向がある。
2022年から23年にかけて生じた歴史的な高インフレは、ロシア発のエネルギーショックという供給サイドの問題によって生じた現象だった。
したがって、この高インフレを安定させるためには、需要を抑制してインフレ期待を弱めつつ、供給を刺激するという難しい経済運営が必要となる。
しかし、「大きな政府」志向の労働党は需要の刺激を重視する。
次期総選挙を見据えて掲げた公約も、当初よりはバラマキ色を弱めているとはいえ、依然として政府が手動して財政拡張を伴う政策(大学授業料の引き下げや一部鉄道の国有化など)が多い。
こうした経済運営は、ただでさえ粘着性を強めているインフレをさらに粘着的にすると懸念される。
英国では、1970年代に中東発のエネルギーショック(オイルショック)を受けて、スタグフレーションに直面した際も、当時の労働党政権が需要の刺激を重視したため、高インフレが定着してしまった過去がある。
次期の総選挙で労働党政権が誕生し、需要刺激路線を歩むなら英国経済は同じ轍を踏みかねない。
・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/2/26の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
関連記事
https://real-int.jp/articles/2469/
https://real-int.jp/articles/2464/