FOMC・BOJ会合の結果
2月FOMCは5月~6月の利下げ示唆
FOMCでは予想通り3月の利下げ可能性を低下させ、ややタカ派的なスタンスとなった。ただ、明確な方針としたわけでもない。
この辺の背景として3つを挙げておこう。
(1) インフレ率減速を評価
FRBは利上げバイアスを声明文から除去して利下げ開始の政策運営に大きくシフトしたが、この最大の理由はインフレ率が順調に低下していることが大きい。
FRBが最重要視しているコアPCEデフレータをみると、FRB高官たちが参考にしている3ヵ月、もしくは6ヵ月前対比年率換算の伸び率は、2%以下まで低下し減速が明らかだ。
インフレ率が順調に減速し、実質FFレート(FFレートからコアPCEデフレータを減じた値)は、2.4%まで上昇している。これは12月のFOMC時のメンバーの予想中央値2.2%を20bp上回る。
インフレ減速の中で、実質金利の水準が物価に対して、過度に引き締め的とならないようにする調整利下げ実施に、一歩前進したことは間違いない。
パウエル議長も、現在の状況は順調であり、今後もう少しデータの蓄積をみることで確信を得られる可能性が高いとまで言及した。
(2)一方でインフレ再加速も懸念
にもかかわらず、パウエル議長は、3月利下げ開始可能性は低いと明言した点はタカ派の印象を与えた。記者会見ではこの点について多くの質問がなされた。
議長は、3・6ヵ月の前対比ではなく12ヵ月前(前年比)がまだ2%を超えており、目標に近づきつつあるものの今後の保証はないとした。
そのため、今は目標達成の勝利宣言はできず、リスク管理型の政策運営(データ次第)が重要とした。こうした発言の背景には、インフレ再燃リスクがもう一段後退するまで待つ必要があるためとみられる。
インフレリスク再燃の契機となりうるのは、
(A)労働供給拡大の頓挫、
(B)緩和的な金融環境、
(C)想定以上の強い景気
の3つであろう。
(A)については、議長は原状の労働需給正常化による賃金減速に自信を深めている。
議長が重要視するスーパーコア(家賃を除くサービス価格)に最も影響を及ぼすのは、賃金・労働需給だが、労働市場のバランスは進んでおり、雇用コスト指数や、アトランタ連銀賃金トラッカー(追跡)等の各種賃金統計は景気が堅調の中でも緩やかに減速している。
その主因は移民。コロナ禍の収束やバイデン政権の政策効果もあって外国生まれ労働人口が大きく増加している。労働意欲の高い移民労働者の流入により、労働参加率全体を引き上げている。
ただ、振れの大きいデータとはいえ、足下移民増にはやや陰りもみられる。
また、バイデン政権の移民政策には不満の声が高まっていることもあり、その持続性は大統領選を見据えて疑問符も付く。
労働供給拡大が突然頓挫すれば、インフレ減速テンポが落ちるリスクは残る。
(B)については、FRBが算出するFCI-G(金融環境による今後1年間のGDPへの影響を測る指標)をみると、現状の環境ではGDPに対する影響は緩和的(成長を下支え)であり、むしろ景気をサポートしている。
信用スプレッドの縮小(金融界への信用増大)や株高などに加えて、12月FOMC後に実質長期金利も低下しており、金融環境が個人消費などを下支えしている。
そのため、これ以上の金融環境緩和はFRBも望んでいないと思われる。
(C)については、(A)・(B)の要因に加え、インフレ率低下による実質所得の改善もあり、個人消費を中心に景気は堅調だ。
この点に関しては筆者を含め、エコノミストの大勢が予測を真逆的に間違えてしまった。
コロナ禍での政府からの4.5兆ドル超の補助金が底を突くだの、学生ローン返済復活で家計の負担が増えるだのとの理屈を並べていたが、株高や賃金の大幅上昇、堅調な雇用などがリカバーし、懸念は空振りに終わった。
それでも「年末商戦はさすがに弱くなる」との予測もあったが前年比+3%弱と堅調だった。
FOMC低下後の議長記者会見で「消費者信頼感指数が、ここ数ヵ月楽観的な見方になっているがインフレ減速が主因ではないか?」(消費増を促し、物価を再び押し上げるのでは、との見方)に対し、議長は「インフレに対する消費者の不満はまだ根強い、だからこそ物価安定が必要」と答えた。
FRBは、あくまで物価上昇が持続的な安定推移を望んでいることを示したといえる。
(3)流れを利下げ方向にシフト
こうした状況をみる限り、FRBが利下げを急ぐ理由はなく、むしろ金融市場からの3月利下げ催促に対して、強い牽制があったとみる。
しかし、少なくともFRBが利下げに方向転換したことは間違いない。
以前からお伝えしているように、そのベースには不動産苦境に喘ぐ中国経済へのフォローがベースにある。加えて、米労働市場の急変への懸念がある。
労働市場の多くの統計は景気の遅行指数のため、景気後退前は良好にみえても、突如崩れる。実際、労働市場の統計からネガティブな兆しも出始めている。
例えば、求人率の低下や家計調査ベースの雇用者数の急減などが挙げられる。また、景気後退に遅行的だが、ISMの雇用系列が急低下している。
労働市場に対するリスクからもFRBは利下げ政策へとシフトを明白にしたと言える。
したがって、我々としては現段階で、5月もしくは6月からの利下げ開始というシナリオでドル相場の見通しをするしかない。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/2/6の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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