見極めにくいユーロドルの行くえ
揺れるユーロ圏経済
ユーロ圏経済は足踏みしている。
ユーロ圏の23年3Q(7-9月期)の実質GDP成長率は前期比マイナス0.1%となり、3四半期ぶりのマイナスだった。
ここ1年を振り返ると、22年4Q(10-12月)から23年2Q(4-6月)にかけ、マイナス0.1%~+0.1%の狭いレンジを推移しており、景気はほぼ横ばいに推移してきたといえる。
しかも、この低迷した状態から抜け出す兆しはまだ見えていない。むしろ、23年4Qにも2四半期連続のマイナス成長になり、簡便的に景気後退局面入りと見なされる可能性も残っている。
一方、消費者物価上昇率は12月に前年同月比+2.9%、コア指数が同+3.4%といずれも市場予想と一致。ただ、総合指数は前月の+2.4%から加速し、インフレ率低下が一服したように見えるが、これはドイツのエネルギー政策の影響が大きい。
同国では22年12月のエネルギー支援策によりエネルギー価格が低下しており、そのベース効果により23年12月のインフレ率が押し上げられた。1月の物価は再び低下することになろう。
しかし、ユーロ圏の経済成長とインフレ率の双方をソフトランディングさせる手法は難しい。
例えば4日に発表されたユーロ圏の23年12月PMI(改定値)は、製造業が44.4、サービス業が48.8と速報値(それぞれ44.2、48.1)から上方修正された。
特にサービス業に関しては、速報値が11月の48.7を下回ったことが、ネガティブサプライズとなっていただけに、改定値の修正により発表直後はユーロ買いが強まる場面も見られた。
製造業PMIは依然として低位ではあるものの、昨年の夏以降底打ち感が見られているほか、サービス業PMIは節目の50近辺でとどまっており、ユーロ圏の景況感は比較的底堅い。
10月の鉱工業生産は前年比マイナス6.6%と市場予測を大きく下回り悪化するなど、実体経済の冷え込みは目立つものの、インフレ率の低下が欧州経済への見通しを明るくしているとの見方も出来る。
こうした状況では、ECBは政策効果を見極めたいと思うだろう。実際、ECBは12月の理事会で、2会合連続で政策金利を据え置いた。
その一方で、議論となっていたパンデミック緊急プログラム(PEPP)の保有資産の再投資を、24年7月から75億ユーロ縮小し、24年末に終了することを決めた。PEPPの保有資産は約1.7兆ユーロの規模でこれまで維持されてきた。
また、再投資について、依然実施していた資産購入プログラム(APP)では、各国の経済規模に応じて定められてきたECBへの出資比率を債券購入額に反映させる条件があったり、購入資産にギリシャ国債が含まれていなかったりした一方で、PEPPでは経済・金融状況に応じて、例えばドイツ国債が償還されたときに、他国の国債を購入してもよかったし、ギリシャ国債も買入れ対象になったりしていた。
そうした緊急時の対応が平時に戻ることになる。
米国景気も減速し、中国景気が冴えない中で、ユーロの景気が持ちこたえられるかは心もとないというのも事実だ。
物価高騰や海外景気の減速、金融引き締めの影響、中東情勢の緊迫化やエネルギー問題など下振れリスクが山積していることも挙げられる。また、けん引後のドイツ経済の停滞の影響が大きいこともある。
ブリューゲル紙(昨年6月)によると、21年9月のエネルギー危機以降、ドイツはエネルギー対策に1580億ユーロ(約25兆円)を投入してきたという。
現在の苦境を踏まえると、その巨額の支援がどこまで効果を発揮したのかという疑問もある。安価なエネルギーをロシアから購入して、加工した製品を中国に輸出する経済成長モデルが崩れてしまった影響が大きいのだろう。
そうであったならば、新たな成長モデルを構築できなければ、ドイツ経済の苦境が長引く恐れがあるだけでなくユーロ圏経済の柱としてのレーゾンデートルが問われよう。
どうするのかECB!
ユーロ圏1月のセンティックス投資家信頼感指数は3ヵ月連続で前月から改善した。
だが、発表内容をみると現況指数、期待指数はそろって改善したものの、いまだ景況感の改善を宣言するには至らないとの評価であった。
その要因として、センティックスはドイツ経済の弱さを挙げている。そのドイツについて、今週には1月ZEW景況指数が発表される。
先月まで5ヵ月連続して前月比で改善しており、1月もドイツ経済持ち直し期待が続くかが焦点となる。改善基調の継続が確認されれば、ユーロ相場の支援材料となろう。
このほかにも、ECBの消費者期待調査(16日)や12月理事会の議事要旨の発表、ダボス会議中のECB高官発表など、ECBの金融政策の先行きをみるうえでの手掛かりとなりそうなイベントが多く予定されている。
1月第2週のECB高官発言を振り返ると目を引いたのはクロアチア中銀ブイチッチ総裁が、「現状の金融政策スタンスに満足している」としたうえで、利下げを開始した後は25bp刻みでの利下げを選好すると述べたことだ。
タカ派と目されるブイチッチ総裁が利下げに踏み込む発言をしたことから、ECB内で利下げに前向きな空気が醸成されつつあるとみている。
実際にラガルド総裁も、新たなショックがない限り、ECBの利上げはピークを迎えた可能性があるとしたうえで、データによってインフレが、2%近辺の目標に向かっていく道筋が確認されれば、利下げ開始は可能と述べている。
ラガルド総裁は、利下げ開始時期は明言できないとも付け加えたものの、「利下げについては全く議論しなかった」としていた12月理事会後の会見からは、姿勢に変化がみられた。その点については、12月理事会での議論の詳細を議事要旨で確認したい。
また、ラガルド総裁、ブイチッチ総裁はどちらも賃金データを注目材料として挙げている。
サービス価格を中心とした国内物価、そのドライバーとなる賃金増加率に注目する姿勢を明確にしつつある。
特にECBが重視しているとみられる妥結賃金の伸び率は足元でも依然として高止まりしており、当該指標の明確な減速が確認できるまでは、ECBは政策金利を据え置く公算が大きい。
ユーロ圏全体の妥結賃金のデータは四半期単位でしか更新されないため、先行きは主要各国の月次の賃金指標を丹念にみていく必要があるだろう。
ECBが賃金とサービス価格の伸び率の減速を確認し、初回の利下げに踏み切るのは、今年6月と想定したい。
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2024/1/17の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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