外為市場は中東マターに極度に弱い
中東問題に弱い市場関係者たち
7日、パレスチナ自治区(イスラエル領内)ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対して4千発を越えるロケット弾攻撃などを仕掛けた。
これに対し、イスラエル軍も猛攻で応戦。すでに双方の死者は10日現在で1900人を超えた。1973年の第4次中東戦争から、ちょうど50年目の「大戦闘」である。
しかし、主要国の金融外為市場の反応は鈍い。
目立ったのは、米国債利回りの低下と、原油価格や金価格のそれなりの下落ぐらいなもので、米ドルも株価も特にインパクトがなかった。
ましてや、原油をほとんど中東に依存している日本では、「原油上昇でエネルギーセクターは買いだ」とし、日経平均株価(10日)が大きく上昇するなど、首を傾げたくなる不可解な反応を見せた。
外為市場でもドルは総合的に反応なく、各国通貨に対しマチマチの動きにとどまった(9日)。結局のところ、市場は全体像を読み切れていないのである。無理もない。
中東有事は、これまで100%、大国が深く関与し、複雑な利害関係が右往左往しながら「それなりの中途半端な決着もどき」を重ねてきただけに、今回も先読みが出来ない。
ただ、事態の変化に連れて市場に大きなインパクト(ドル、米国金利、主要国株価、原油価格)を、与える局面が何回も予想されるだけに、市場参加者は、これを機会に中東情勢(歴史を含む)について、集中的に学んでおく必要がある。
というのも、実はそれなりに中東に詳しいと自負していた筆者が、まるで読みを間違えていた今年3月時点での原油価格の見通し(秋口に向けWTI先物は1バレル50ドルあたりまで下落する)。
イランと米国が核開発見通し協議で合意し、イランが日量200万バレル以上の原油輸出増加に至るとの読みがベースにあったわけだが、実際はすでに当時からイランがハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦といった、反イスラエルのパレスチナ武装勢力とイスラエルへの多面的脅威行動への謀議を重ねていたことを知った米国がイランとの協議を停滞させていた。
そのうえで8月、イラン革命防衛隊(イラン最強の軍)が、ハマスとイスラエル侵入・攻撃方針を決定した。
原油価格が8月から一気に60ドル台から9月下旬の95ドル台まで急上昇したのは、この情報を入手した筋(欧州)が仕掛けたのである。
筆者は全く気付かなかった。つまり、これほど中東情勢について日本から知り得ることは限界だらけだった、ということなり。
それでも最低限の情報は頭に入っていなければ、ニュースもチンプンカンプンで終わってしまうのである。
米国発の中東レジーム転換構想
今回のハマスによる猛攻はイランの指示によるものだが、イランと共に舞台の主役を演じているのはサウジと米国である。
バイデン大統領は、サウジとの安全保障を強化した上で、サウジとイスラエルとの国交正常化を急ぐ構想を描いている。
中国やロシアが影響力を強める中東地域でのイニシアティブを再興させる狙いだ。実際、バイデン政権はサウジとの間で、安全保障条約の締結を水面下で協議している。
サウジの権力者ムハンマド皇太子もイスラエルとの国交正常化に向けた、「最も重要な要素」と位置付けている。
NYタイムズ紙記者は7月27日付コラムで「米国とサウジの安保構想はサウジと、イスラエルの関係正常化と合わせ、ユダヤ教国家とイスラム教世界全体との平和への道を開く」と指摘。「エジプトとイスラエルとの平和条約(1979年)よりも、大きな中東のゲームチェンジャーとなる」と断言した。
今回のハマスによるイスラエル猛攻は、このタイミングで起きたのだから、やはり市場の初期反応は完全にズレている。そうした大構想を胸にバイデン大統領は9月20日、イスラエル・ネタニヤフ首相との会談に臨んだ。
占領地ヨルダン川西岸でユダヤ人入植地建設を推進するネタニヤフ首相は、米国が30年前の「オスロ合意」を起点に主導したイスラエルと、パレスチナの「2国家共存」に逆行する動きを強めている。
バイデン氏は「イスラエルがパレスチナ併合を押し切れば、サウジとの和平の機会を逸する」と伝え、パレスチナ問題で意味のある譲歩を迫った。
イラクでの対テロ戦争の終結や国産石油の増産により、米国の中東への関与は弱まった。
その空白を埋めるように中国とロシアが経済・軍事両面で影響力を強め、3月にはその中国の仲介でサウジとイランが外交関係を正常化させた。
中国の介入を抑制させることも念頭に置く「米・サウジ・イスラエルの新連合」だが、サウジにとってみれば、対イラン包囲網に等しく、いくらイランと外交正常化しても、状況次第ではイランからの攻撃対象になる。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2023/10/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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