パレスチナ武装勢力ハマスのイスラエル攻撃
10月4日、米国のエネルギー情報局(EIA)がガソリンの在庫量が前週比で648万バレル増加したと発表したことを受け、ニューヨーク先物市場でWTI原油価格が前日比5.01ドル安の1バレル84.22ドルに急落した。
原油価格については、一時、1バレル100ドルになる日も近いと予測されていたが、燃料需要の後退と国際的な景気後退の懸念から下振れの観測が強まっている。
その中、10月7日早朝、パレスチナ自治地区のガザを実効支配しているハマスが、イスラエルに対し大規模な軍事作戦「アル・アクサの洪水」を実施した。
一部のメディアでは、今回の攻撃は、イスラエル・パレスチナ間で50年前の1973年10月6日に起きた第4次中東戦争を想起させるものとの見方も出ている。
同戦争では、アラブ産油国とイランがイスラエル支援国への石油輸出禁止や原油価格の大幅値上げを断行したことで、第一次石油危機が引き起こされた。
今回の事態の展開次第では、国際経済や米国と中東諸国との関係にも影響を与える可能性がある。
以下では、現時点でのハマスとイスラエル間の軍事衝突について概観し、今後の展開および影響について考察する。
軍事衝突の経緯
10月7日、ハマスの軍事部門のトップであるムハンマド・デイフ氏は「アル・アクサの洪水」作戦を開始し、イスラエルに5000発のロケット弾攻撃を行ったと公式的な声明を出した。
また、同声明で、「われわれはもう我慢の限界だ」と述べ、パレスチナの人びとに対し、イスラエルとの対決を呼びかけた。
パレスチナ・サマー通信によると、ハマスの政治指導者ハニヤ氏は、作戦実施の理由として、イスラエル側による
(1)アル・アクサ・モスクへの侵入、
(2)エルサレムのパレスチナ人への迫害、
(3)パレスチナ人捕虜への迫害
という継続的行為を挙げている。
さらに、ハニヤ氏は、アル・アクサ・モスクでのユダヤ教の仮庵祭(シムハット・トーラ)に関係した儀式の実施は、イスラエルによる聖地支配への前兆だとして、イスラム教徒に聖地を守る正義の戦いに参加するよう呼びかけてもいる。
今回の作戦で、ハマスは、従来のイスラエルのテルアビブなど主要都市へのロケット弾とミサイルによる攻撃に加え、イスラエル領内の施設や軍事拠点を急襲している。
イスラエル領内への侵攻では、ガザ地区を取り囲んでいる分離壁(コンクリートまたは金網のフェンス)を突破した以外に、ボートで海から、パラグライダーにより空からというルートが使われている。
侵攻先は27カ所で、ネゲブ、ベエリなどの地区では、イスラエル軍兵士や民間人の身柄を拘束し、ガザに連行している。
今回のよく練られた大規模なハマスの奇襲作戦は、イスラエルの人々に衝撃を与え、2001年の「米国同時多発テロ」と同じだという言説が広がりはじめている。
これに対し、イスラエルのネタニヤフ首相は、安全保障閣僚会議を開催し、その冒頭、「われわれは戦争状態にある」と述べ、イスラエル全国民の団結を求めた。
また、同首相は、治安当局の幹部を招集し、
(1)領土に侵入した敵対勢力の掃討、
(2)ガザ地区で敵から代償を引き出すこと(報復攻撃)、
(3)他の前戦を強化し、他の武装勢力の参戦を阻止するよう指示している。
イスラエル空軍は7日、数十機の戦闘機でガザ地区の病院2カ所を含む17カ所以上を空爆し、応戦を開始した。
また、7日夜には、イスラエル国営電力会社がガザ地区への電力供給を停止した(1日4時間程度の通電となった)。
さらに、ネタニヤフ首相は、ガザ地区への燃料、医薬品を含む物資の供給を停止させ、封鎖状態にした。
翌8日、イスラエルは基本法40条により、ハマスに対し正式に宣戦布告を行い、9日には過去最高となる30万人の予備役を招集し、ガザ地区での市街戦も辞さない姿勢を示している。
今回の衝突での現時点の死者は、ロイター(9日18時16分付け)によると、イスラエル側700人、パレスチナ側493人に上っている。
今後の展開
今回のハマスによる攻撃開始の2週間余り前となる9月21日、パレスチナ自治政府のアッバス大統領は、国連総会で一般討論演説を行い、イスラエルによる占領は国際法と国際的正統性の原則に違反していると訴えた。
そして、パレスチナ人が合法的で民族的な権利を享受することなしに、中東の平和がもたらされると考えるのは妄想だと述べた。
このアッバス大統領の演説は、米国のバイデン政権が、2020年8月のアブラハム合意に基づきイスラエルとアラブ諸国との和平条約および国交正常化を進める一方、パレスチナ問題への取り組みは不十分なままであることへの批判でもある。
現在、バイデン政権は、2024年秋の大統領選挙を見据えて、サウジアラビアと防衛条約の締結などを見返りに、同国とイスラエルとの国交正常化を積極的に進めている。
この動きに関し、10月8日のロイターは、パレスチナ当局者の話として、「イスラエルが安全保障を望むならば、パレスチナ人を無視できない。サウジとのいかなる合意も、イランとの緊張緩和が崩れることになる」と述べたと報じた。
10月8日、米国のブリンケン国務長官はCNNのインタビューで、今回のハマスによるイスラエルに対する攻撃について、サウジとイスラエルの関係正常化に向けた動きを阻止する狙いもあった可能性があると述べている。
一方で、アッバス大統領の国連演説後も、パレスチナ人の怒りを増幅する事件が続いた。
9月24日には、イスラエルの入植者350人以上が治安部隊の警護を受けつつアル・アクサ・モスクに侵入し、イスラム諸国協力機構、サウジ、カタル、ヨルダン、エジプト、UAEなどが非難声明を出すという出来事が起きている。
また、10月3日にはヨルダン川西岸のナブルスで、イスラエル人入植者とパレスチナ人との武力衝突が発生し、70人以上のパレスチナ人が負傷した。
ハマスの「アル・アクサの洪水」作戦は、こうした状況の中で実施された。
以上を踏まえると、次のようなシナリオが考えられる。
・シナリオ1
外部の調停者による一時停戦。仲介役はパレスチナ自治政府やアラブ連盟
・シナリオ2
反イスラエル戦線のヒズボラなどが参戦し、短期的には戦闘が拡大
・シナリオ3
イスラエル国内でのアラブ系イスラエル人が蜂起し、イスラエル国内が混乱
・シナリオ4
イスラエルの攻撃により、ハマスの戦闘能力は大幅に劣化し、
ガザ地区が大きく破壊される
これらのうち、アラブ連盟とロシアの協議が進んでいることもあり、現在のところ、シナリオ1の蓋然性が高いと考えられる。
いずれにしても、・・・
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2023年10月9日に書かれたものです)