植田日銀を甘く見てはならない
ジワリと市場に浸透
9月9日付け読売新聞の日銀植田総裁インタビュー記事が、日本の企業証券市場や外為市場に影響を及ぼし始めている。
要旨は以下の通り。
(1)物価目標の実現にはまだ距離があり、粘り強い金融緩和を続ける
(2)経済・物価情勢が上振れした場合、いろいろな手段について選択肢はある
(3)マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば(解除を)やる
(4)利上げ時期について、「到底決め打ちできる段階ではない」としたものの、
来春の賃上げ動向を含め
「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」とした
(5)今後の政策修正について「いろいろなオプションがある」。
インタビュー全体としては、粘り強く金融緩和を続ける、というこれまでの見解が維持されたが、マイナス金利撤廃に関して、「年末」という具体的時期に言及したことは驚きであった。
利上げ時期の文脈における「年末」というのは、最タカ派で知られる田村委員が8月30日に示した時期よりも早い。
同委員は、「2%の物価目標の持続的・安定的な実現がもう既にはっきりと、視界にとらえられる状況になったと考えているが、物価見通しは上方向にも下方向にも、不確実性があって、状況の見極めにはもう少し時間が必要であると考えている。
こうした中で来年の1~3月頃になれば春闘に向けた労使のスタンスが、明確になってくると考えられること、また、当面CPIはプラス幅を縮小していくとみられるが、そのCPIが実際にどのような経緯を辿っているかも確認することができる」と発言し、特に1-3月頃が市場関係者の注目を浴びていた。
もちろん、今回のインタビューは為替相場に向けた「口先引き締め」の意図を有していた面もある。確信犯的に市場参加者の過剰反応を狙うため敢えて「年末」に言及した面もあろう。
ただし、それでも僅か3カ月後に迫っている年末(12月会合は19日)に、マイナス金利撤廃の議論が俎上に上ることに含みをもたせた意味は大きい。
植田総裁以下、中枢メンバーは既にマイナス金利撤廃に向けた準備を進めている可能性がある。そうなると、一段と重要性を増してくるのは日銀が最重視する賃金である。
一人当たり賃金を捕捉する毎月勤労統計によると7月の名目賃金は、前年比+1.3%と6月(+2.3%)から減速したものの、賃金の根幹である所定内給与(基本給)は+1.6%と加速した。
一般労働者(正社員)に限定すると+1.9%であり、春闘賃上げ率に整合的な値となっている。一人当たり賃金は依然として消費者物価上昇率を大幅に下回るとはいえ、マイナス金利+YCCという強力な金融緩和を解除するには、十分な伸びとみることもできる。
年末利上げへの条件
9月のインタビュー記事掲載直後の11日、市場は即座に反応し、長期金利(10年国債)は2014年以来の0.7%台へと上昇した。
特に、「来年の賃金上昇につながるか見極める段階だ。十分だと思える情報やデータが年末までに揃う可能性もゼロではない」との言い方が、マイナス金利を解除するタイミングについて述べたと捉えられた。
市場は、「安定的に2%を上回る物価上昇が見通せるという条件がクリアーできれば、それはマイナス金利解除を意味する、いよいよ本格的な出口政策だ」という解釈になりつつある。
インタビューの中では、「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になればいろいろなオプションがある」とも語っている。
これは、マイナス金利を解除したときは、YCC(イールドカーブ・コントロール政策)の枠組みを単に撤廃する以外に、連続指値オペの発動ライン(これ以上の長期金利上昇は、阻止するとの意志を示すための債券買いオペレーションのこと、現状は1.00%)を、引き上げるなど多様な選択肢があり得ることを説明したものだ。
市場の思惑先行に対して、長期金利の跳ね上がりを抑止できる仕掛けを設ける可能性を示唆していると言えよう。
そして、「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すればやる」と、
締めくくっている。
つまり、マイナス金利解除は、かなり大きなインパクトを巻き起こすことを織り込んだうえで、そのショックを制御して、物価・景気が腰折れすることがないと約束しようとしている。
ただ、このインタビュー記事が掲載された時、多くの市場関係者は、「年末までに、とはあまりに唐突すぎる」と思ったはずだ。
年末までに揃う物価・賃金のデータと言えば、毎月勤労統計が8、9、10月分、消費者物価が8、9月分しか発表されない。11月の消費者物価の発表は12月22日ゆえ間に合わない。
この5つのデータだけで物価目標の決定的な達成を宣言するのは無理だ。可能性はゼロではないが、かなりゼロに近いと思える。
現在、消費者物価は、その内訳のサービス価格が7月に前年比+2.0%に達した。これが8、9月に3~4%に跳ね上がったとして、それを達成の根拠にはできないだろう。しかも、7月の名目賃金は前年比+1.3%と物価上昇率もカバーできていない。
だから植田総裁は、本気で年末利上げを考えている訳ではなかろう。
むしろ、・・・
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2023/09/20の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。