豪州・カナダ中銀のサプライズ利上げの意味
世界の主要中央銀行はインフレとの闘いで重大な岐路に差し掛かっており、彼らが最終的に選ぶ経路はこの先何十年も経済に影響を及ぼすことになる。
物価圧力が和らぎ始めたばかりの状況で、過去40年で最も積極的な金融引き締めが、物価鎮静化に十分と信じるか、2%のインフレ目標が、過去のものという不安を予防するため対応を続けるのか、各国・地域中銀は二者択一を迫られている。
金利のピークに最も近いと考えられるFRBは13・14日に開FOMC、ECBは15日の政策委員会、BOEは22日のMPC(金融政策委員会)で、さらにどこまで踏み込むか判断する必要がある。
金融刺激の解除に動く時期が近づいているとの憶測が絶えない日銀も15・16日に、金融政策決定会合を開く。
こうした分岐点的環境の中、先週のRBA(豪州準備銀行)とBOC(カナダ銀行)による、予想外の金融引き締め決定は、物価を抑制する闘いが継続する状況を浮き彫りにした。
RBAは6日の政策決定会合で、5月に続いて25bp(0.25%)の利上げを決め、RBA総裁は、雇用の伸びを維持したいからといって、政策委員会が物価圧力の長期化を容認することを意味しないと警告した。
BOCも景気過熱を理由に2会合連続で停止していた政策金利引き上げを再開した。
両中銀の動きを受け、トレーダーの間では追加の金融引き締め期待が高まり、債券投資家は各国・地域中銀が経済をリセッション(景気後退)に導く可能性が高まると予想。
逆イールド(長短金利差逆転)が進行し、yieldカーブは米英独とカナダでフラット化しつつある。なぜ、豪州とカナダが予想外の追加利上げをしたのか。豪ドル、加ドルの行くえも含め、概説する。
RBAの動揺は止むを得まい
昨年来の豪州経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも追い風に、内・外需双方で、コロナ禍からの景気回復が促される展開が続いてきた。
しかし、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇や、国際金融市場における米ドル高を受けた豪ドル安に伴う輸入インフレに加え、景気回復も追い風に幅広くインフレ圧力が強まる事態に直面。
また、RBAはコロナ禍からの景気回復を促すべく、利下げや量的緩和に加え、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入など異例の金融緩和に舵を切ったものの、インフレが顕在化するとともに、景気回復の動きやコロナ禍による生活様式の変化を受けた、住宅需要の活性化を反映して不動産市況が急騰する事態を招いた。
よって、RBAは一昨年から金融政策の正常化に動くとともに、昨年5月、約11年ぶりの利上げに舵を切ったほか、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅な利上げを余儀なくされた。
こうした対応にも拘らず、インフレ率は昨年末を境に頭打ちに転じるも、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続くなど物価高と、金利高が共存して実質購買力を下押しするとともに、断続利上げを受けて急騰した不動産市況は一転頭打ちの動きを強めるなど逆資産効果が家計消費の足かせとなる懸念が高まった。
さらに、同国の銀行セクターは資産の3分の2を住宅ローンが占めるため、不動産市況の低迷は貸出態度の悪化を通じて幅広い経済活動に悪影響を与えるほか、金利上昇も投資活動の重石となることが懸念される。
他方、同国経済は財輸出の約3割、コロナ禍前には、外国人観光客の約2割を中国(含む香港・マカオ)が占めるなど経済活動の正常化が進むことは、景気の追い風になることが期待された。
なお、中国景気は年明け直後こそ底入れの動きを強めたものの、足下においては早くも息切れを示唆する動きが確認され、足下の豪州経済を巡っては悪材料の方が勝る展開という捉え方が大勢を占めていた。
ただ、国境再開による移民流入を追い風に住宅需要は堅調な推移を見せる一方、RBAによる断続利上げによる累積効果の影響で住宅供給は先細りの様相を強めている。
不動産価格は需給の逼迫が再び強まっていることを反映して今年3月を底に上昇に転じており、足下では上昇ペースを強める動きが確認されている。
さらに足下のインフレ率は中銀目標を大きく上回る推移が続くなか、労使裁定機関(FWC)は昨年来の商品高に伴う生活費高騰に対応して、7月からの新年度(2023~24年度)の最低賃金を一律5.75%引き上げるとともに、分類変更に伴い労働力全体の0.7%に相当する最低賃金労働者が直面する賃上げ率は、8.6%に上るなど、新たな賃金インフレに繋がる可能性も高まっている。
景気減速懸念の高まりを受け、RBAは今年4月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動いたものの、その後もインフレが高止まりするなかで翌5月に再利上げに動いたほか、予想外に6月6日も利上げを決定し、さらなる利上げにも含みを持たせるなど難しい対応を迫られた。
ただ、最低賃金の大幅引き上げに伴い幅広く賃金上昇圧力が強まり、インフレ率が押し上げられる事態も十分に考えられる一方、一段の利上げによる住宅供給の減少が需給逼迫を招いて住宅価格を押し上げるなど、新たなインフレ圧力に繋がることも懸念される。
他方、足下では中国景気の成長鈍化傾向を受け、商品価格に大きく下押し圧力が掛かる動きが出ており、交易条件の悪化が国民所得を下押しすることが予想されるなか、先行きについては物価高と金利高の共存による悪影響が一段と深刻化することも考えられる。
よって、先行きは景気に一段と下押し圧力が掛かる懸念が高まっているにも拘らず、物価高の長期化によるスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。
国際金融市場においてはRBAによる利上げ決定やそのタカ派姿勢を反映して、豪ドルの対ドル相場が押し上げられているものの、実体経済を巡る不透明さを勘案すれば息の長い動きとなる可能性は低いと思われる。
0.6805ドルのレジスタンスを上方ブレイクするのは難しく、結局は0.6560を下限としたボックス相場が当面の動きとみる。
BOCの判断は正しいのか
BOCは7日、政策金利を25bp引き上げて4.7%とした。利上げは1月以来の3会合ぶり。
エコノミストの8割近くが据え置き予想だったゆえ、相当のサプライズとなった。
利上げ再開の最大の契機となったのは・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2023/06/14の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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