米国連邦債務上限問題のトリセツ
米国のデフォルトとは
米国の債務上限問題が喧しくなってきた。米国がデフォルト(債務不履行))に陥るのではないか、との見方も出てきた。
しかし、結論から先に言及するが、デフォルトはあり得ず必ず妥協して、6月危機を乗り越えることになるだろう。
ただ、「妥協」には相当の金融市場の混乱が必要であり、実際、そうなるのは目に見えている。
ただでさえ、米国では中堅以下の銀行が債券の巨額含み損を抱え、経営危機のリスクが高い。議会協議が難航を深めるごとに米国の債券・株式・外為市場は大きく揺れ動くことになる。この「市場の大混乱」が一番怖いのである。
言ってみればプロレスで双方が血みどろの乱闘になって、とんでもない事態となり観客が総立ちして悲鳴をあげる場面がやってくるわけである。そして試合は、ひとまずドローというシナリオだ。
国家の財政は国民の代表で構成される議会の議決によって決められる。この財政民主主義は日本でも米国でも憲法で規定されているが、米国では議会の権限が、非常に大きいため日本では起こり得ない「政府閉鎖」や「デフォルト」の危機が発生する。
本予算も、つなぎ予算も成立しないため、政府は国民に対するサービス活動を停止し、国防など必須部門以外では職員の一時帰休も起こる。トランプ政権下では「米墨国境の壁建設」を巡って政府と議会が対立し、政府閉鎖は2018年末から史上最長の35日間も続いた。
一方、政府は予算が枯渇してデフォルトに陥れば国内のみならず、国外にも重大な影響が及ぶため、手段を尽くしてデフォルトを回避する。米国は建国以来一度もデフォルトになったことはないが、野党はデフォルト危機を武器にして政策の実行を政府与党に迫る。
この時使われるのが、米国特有の債務上限の引き上げである。
米国の国家予算は、日本などのようにひとつのパッケージとして、歳入と歳出が同時に決定されるわけではない。歳出も歳入を想定する税制も国債の発行額も議会が決定する。
歳出は政府の裁量的経費と、法律によって政府に支払いが義務付けられる義務的経費からなるが、政府は歳出予算を執行し続け、歳出総額が議会の定めた債務上限額を越えそうになると、政府は議会に対して債務上限の引き上げ、または債務上限の停止を求める。
議会が政府の求めに応じて直ちに債務上限の引き上げまたは停止を実行しない場合、財務省は、州・地方政府に対する国債発行の停止、公務員退職障害年金基金等に対する新規国債発行の停止などの特例措置を発動して資金を捻出して国債発行を続ける。
しかし、これも限界となったら政府はデフォルトに陥るしかなくなる。これが「米国のデフォルト」である。
デフォルト回避策の一長一短
イエレン財務長官は、「最近の連邦政府の税収を検証した結果、6月上旬までに政府債務のすべてを履行することは不可能になる見通しが強まった、デフォルトは6月1日にも訪れる可能性がある」と指摘した(5月1日)。
米議会は2021年12月に、政府の法定債務上限を約31兆4000億ドルに引き上げたが、それから1年後の今年1月19日、すでに法定上限に到達したのである。
財務省は資金繰りのため様々な特別措置を講じて今もデフォルトを回避し続けているが、資金繰りも底を突くのは時間の問題だ。
マッカーシー下院議長(共和)は、歳出削減策を盛り込んだ独自の期限付きの上限引き上げ法案を既に下院で可決している(4月26日)。
同法案では歳出削減(EV率の販売支援廃止、インフレ抑制法としての気候変動対策の撤廃、学生ローン免除措置・自社株買いへの課税強化の撤回など)を伴うだけに、上院では絶対に通らないし、24年での再選を狙うバイデン大統領も受け入れる余地はゼロである。
ならばデフォルト回避に向けての施策(妥協案)は何か。以下の事象が考えらえる。
(1)国債の元利払いを他の支払いに優先
(2)修正憲法第14条の発動
(3)プラチナコインの発行
(4)FRBの常設レポファシリティの活用
(5)会計年度末(9月末)までの短期間の上限枠拡大か上限撤廃
(1)国債の元利払いを他の支払いに優先
財務省が過去に検討したことがある。
米国民向けの行政サービスの提供や社会保障給付などを凍結し、非居住者を含む投資家を保護する債務返済を優先することを部分的なデフォルトと、見做す可能性が高い。
しばらくは凌げるが中長期的解決策とはならない。
(2)修正憲法第14条の発動
ジェフリーズ下院院内総務の方針。委員会審議を得ずに、いきなり本会議で可決するという強考案。「合衆国の公的債務は、その有効性を問うことができないとの記載を利用するもの。
但し、裁判訴訟に持ち込まれ、収拾がつかなくなることも。
(3)プラチナコインの発行
額面1兆ドルのプラチナコインを鋳造し、それをFRBが引き受け、そこから資金を引き出して債務返済に充てる案。
イエレン財務長官が前FRB議長だった視点から、「FRBが引き受けることはない」と一蹴している。
(4)FRBの常設レポファシリティの活用
常設レポファシリティは、短期金利の急上昇時に米国債などを担保に、プライマリーディーラー(大手米銀など)への資金供給を拡大し、短期金融市場の安定を図る仕組みだ。
Xデー周辺に満期償還を迎える国債をFRBが引き受け、デフォルトリスクを封じ込めることができる。
市場安定を目的とした短期的な資金供給は可能だが、恒久的な措置とはなり得ない。
(5)会計年度末(9月末)までの短期間の上限枠拡大か上限撤廃
一番可能性が高い。
9月末まで先送りし、その上で秋に与野党で再度衝突して、24年大統領選挙後まで、再延長(短期間の上限増額か一時的な上限設定の解除)とする手法だ。
妥協には金融市場大混乱が必須に
いずれにせよ、議会両党が歩み寄れるかどうかの鍵を握るのは世論の行方である。
95年~96年にかけて、さらに2013年、19年に起きた政府機関の閉鎖や、2011年の債務上限問題の際には、世論は概して共和党に批判的だった。
世論は今回も、問題の解決を阻む与野共和党への批判を次第に高めていくことが予想される。
それは・・・
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2023/05/16の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。