電力大手の腐敗し切った体質
電力自由化と真逆の業界カルテル
2018年後半に関西電力を要とした事業用電気の販売を巡るカルテルに合意。
2020年10月まで不当な価格維持が行われたが、関西電力が公取委(公正取引委員会)の勧告に沿って「違反申告」(事実上の司法取引)をしたことによって全体像が明らかとなった。
そして今年3月、公取委は総額1010億円の課徴金納付を命令した。
「電気料金の抑制や選択肢の拡大という、電力自由化の理念をないがしろにする行為だ」と、3月30日の記者会見で公取委は語気を強めた。
それでも課徴金納付を命ぜられた中部電力の社長は、「事実認定と法解釈について見解の相違がある。営業活動を制限する合意はしていない司法の公正な判断を求めたい」と訴訟の提起を表明し、中国電力もその意向のようだが、関西電力の詳細にわたる内容開示文があるゆえ覆すことは難しい。
国内の電力供給は戦後長く、東電や関電など大手10電力がエリアを部活して独占していた。
だが、2000年の事業用電気の小売り自由化から徐々に規制が緩和され、16年4月に全面自由化が実現。現在、事業に参入した「新電力」は実に722業者に上る。
今回、カルテルの関与が認定された関電も完全自由化後の1年半で、家庭用電力の顧客を100万件以上失った。
しかし、17年春の高浜原発の再稼働(この件は筆者が以前、執拗に暴露し、その不当性を記したが、結局、政府がGOサインを出した)で、電気料金の大幅値下げが可能になると「攻勢の好機」とみて中部電力、中国電力、九州電力のエリアに進出。大口販売で利益が見込める「特別高圧」「高圧」の営業を強めた。
だが、激化する価格競争と顧客の奪い合いで4電力の収益は悪化。早くも18年6月頃からは共倒れを防ぐための「手打ち」を模索し、同年10月には関電と九電が、翌11月には関電と中部電・中国電が、いわば「相互不可侵協定」を結び、自由化前のエリアを越えた顧客獲得の制限に合意した。
関係者によると合意を主導したのは、当時関電の副社長だった森本前社長ら各社のトップ級で、相互に訪問し合うなどして協議を進めたという。役員クラスや部課長クラスも含め、カルテルには多数が関与していた。
大手各社でつくる「電気事業連合会」(電事連)の会合の際に協議が行われたこともあり、公取委は電事連に対し、競争の徹底と再発防止を求める異例の申し入れも行った。
公取委幹部は、「本来、コンプライアンスの徹底を社員に訴えるべき幹部が、自ら違法行為を主導した、質の高い商品を届けるための経営努力を放棄し、安値で契約できたはずの顧客に損害を与えた」と指摘する。
消費者は置き去りにされた。
「他地域の電力会社の営業が突然来なくなり、地元の電力会社には、これ以上の値下げはしないと通告された」と。
「過度な値下げ競争をする必要はないが、企業にとって電気代は大きな負担。カルテルで高止まりしていたとすれば納得できない」(物流会社)。
重なっていた顧客情報不正閲覧
4月17日、経産省は関電・九電・関西電力送配電・九州電力送配電・中国電力ネットワークの5社に対し業務改善命令を出した。
関係者の厳正な処分のほか、小売り部門の社員が、送配電子会社が持つ新電力の顧客情報を閲覧できなくするといった対応を求めた。
不正閲覧は昨年12月、関電の社員が新電力の顧客情報を閲覧できることに気付き、関電が送配電子会社に照会して判明した。
ここで少し、解説が必要だろう。
電力大手は小売り部門(営業)と送電部門である送配電子会社に分けられている。送配電子会社は数多く設立された新電力外車(充電に特化)に電力を供給するわけだが、供給先の顧客情報は当然保有している。
この情報を電力大手の営業部門が不正閲覧誌、自らの充電契約に変更させようとしたのである。
時期は2019年11月~22年12月の間で不正閲覧は7社、75万8千件にのぼるが、実際は2017年あたりから始めていたと思われる。
となると電力カルテルの期間(2018年秋~20年10月)も重なるわけで悪質そのものといえる。この問題でも悪質さが際立っているのが関電だ。
小売り部門の社員らは、約15万件の顧客の氏名・住所・毎月の電力使用量などの情報を閲覧。このうち社員35人は営業活動で利用するために4332件を閲覧し、47件で契約が切り替わっていた。つまり、新電力側は47件の顧客を失ったことになる。
表側では「契約切り替えや引っ越しなどの事務作業時の名義確認などに使っていた」と、説明しているが、本当は契約奪還のためだった。顧客情報の閲覧は、電気事業法で禁止されている。
電力小売り全面自由化で、新電力の参入は電力大手の地域独占を崩し、料金の引き下げや、サービスの充実につなげるため、電力大手の小売り部門と送配電部門の情報共有を禁じた。2020年には送電部門の分社化が義務づけられた。
しかし、実際には情報供給が可能になっていたのである。
各電力の小売り部門の社員は送配電子会社と共有するシステムで、閲覧できるようになっていたり、送配電子会社の社員が閲覧に必要なID、パスワードを小売り部門の社員に貸したりといったケースが確認された。
モラルハザードの典型である。小売自由化と発送電分離は、電力システム改革の柱であった。
しかし大手電力は、カルテルと情報漏洩によりこれらを拒否した。地域独占と発送電一貫に象徴される、旧来のシステムを維持したいのであろう。経産省は看板製作に泥を塗られた形になるが、実は責任の一端を負っている。
そもそも経産省の競争促進政策は不十分で、大手電力に対して寛容な規制が目立つ。法的分離は厳しい行為規制とセットでなければならいないが、社屋の分離や、情報システムの不完全分割といった、欧州で一般的な行為規制は義務付けられなかった。
「非常災害対応」の場合には、小売部門による送配電子会社への応援が認められていることも今回の不正閲覧の一因になったが、これは欧州では禁止されている。
電気事業法の罰則は限定的で、今回初めて業務改善命令が出されたが、これに従いさえすれば罰金は発生しない。
それは、違法行為を見抜けなかった監視体制の脆弱さにも現れている。
カルテルは公取に摘発され、小売事業者を監視していたはずの電取委は蚊帳の外だった。
情報漏洩についても電取委は定期的に送配電事業者を関ししたが見抜けず、関西電力からの通報(これも裏に何かの思惑が隠されているが)によって、ようやく発覚したものだ。
電取委の5名の委員はすべて非常勤であり、事務局の職員数も100名強と、他国と比べて少ない。
そもそも、2012年12月の電力システム改革専門委員会の段階で経産省自体が、これ以上の改革を望んでいなかったことは明らかだった。
つまり、天下り先でもある大手電力への脇の甘さが結局、こうした大手電力のズサンな体質をつくり上げてしまったのである。
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2023/05/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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