米国の覇権的深謀に嵌まる岸田政権
日米核共有への道
イーグルフライでの当レポート「北朝鮮のミサイルが台湾方向に」について、筆者がなぜ、そのように分析したのかを、ロジカルに解説しよう。
実はその背後に米国の「日米韓核共有協議体」発足を急ぐ動きがあり、岸田首相が、「来年9月までの自民党総裁任期中に憲法改正実現を目指す」と、突如、表明したことも、そうした流れの一環である。
一般的にG7首脳会議は、実務レベルで周到に煮詰めた上での総括の場であり、現場的ニュース性、インパクトは高くないが、今回の「広島サミット」は、明らかに米国の「尽速な安全保障体制強化」に向けた鋭い狙いがある。
したがって、今年に入って以降の日米韓の動きが考えられないほど集中的に、積み上がってきたのは必然の流れだった。
5月19~21日、広島でG7サミット(議長=岸田首相)が開催される。
主要議題は、G7諸国がウクライナ支援強化を意思統一化すること、特にロシア制裁に距離を置くグローバルサウス諸国(南側の発展途上国)をいかに取り込むかが、重要な議題になる。
しかし人類初の被爆地・広島で開催されるこのサミットの重要なもう一つの狙いは「核問題」だ。一般的には核廃絶に向けてどのようなメッセージが出されるかということだが、実際は真逆の事態が進行している。
ロバーツ元米国防次官補代理(CFR=外交問題評議会のメンバー)は、「G7広島サミットではロシアの核の脅威を強く非難しなければならない」としながら(2月15日付読売)「岸田首相は、核兵器が存在する限り核抑止力を効果的に保つというアプローチを明確にすべきだ」と語った。
要するに、核廃絶の議論より「核抑止力の強化」のための具体的アプローチを日本が明確にすること、これが米国の要求だということだ。
石破元防衛相も、「核抑止力強化のための議論を詰めないまま、“核なき世界”を唱えても世界の理解を得られない」(3月プライム・ニュース)と断言している。
つまり、このサミットを核抑止力強化の議論の場とする、そしてその矛先を「非核」を国是とする日本の岸田政権に定める、というのがG7の要=米国の最大の狙いであろう。
では、米国が岸田政権に求める「核抑止力を効果的に保つというアプローチ」とはどのような内容なのか。
前記したロバーツ氏は次の通りに明言している。
不十分な核態勢
第一はアジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分である。
これは日本の非核三原則(核を作らず、持たず、持ち込まず)を見直し、せめて日本への核配備「核持ち込み」を容認せよという日本への圧力だ。
協議システムの必要性
第二はNATOのような核使用に関する協議システム=日米核協議の枠組みが必要だということ。
NATOと同様に米国と日本との核共有システム、有事には自衛隊も核使用を可能にするシステムが必要だ。
つまり、米国の核抑止力の一端を自衛隊も担え、自衛隊に核攻撃能力を持たせよという要求だ。核持ち込み容認と核共有を認める議論の必要性を強調した。
だが、いずれも現状の日本の政治体制下では至難の道に等しい。にもかかわらず平然とCFRメンバーが要求する狙いはどこにあるのか。
日米韓・核共有協議体
昨年末に閣議決定された安保三文書では、「反撃能力保有」の目玉として陸上自衛隊に、「スタンドオフミサイル部隊」の新設が決められた。
この一般には馴染みのない英語を正しい日本語に翻訳すれば、地上発射型の「中距離ミサイル部隊」が自衛隊に誕生するということだ。
このことと、G7広島サミット以降、「核抑止力強化」の議論で浮上するであろう「核持ち込み容認」「核共有」論議とを考え合わせてみれば、ここから導き出せる答えは、「自衛隊のスタンドオフミサイルに核搭載を可能にする」であろう。
「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めて来るだろう」(昨年のバイデン訪日時に河野元統合幕僚長が発言)との自衛隊サイドの見解があったが、当初、これは「在日米軍基地への配備」かのように受けとめられてきた。
しかし、実際はそうではなかった。
「(米政府が)日本への地上発射型中距離ミサイルについて在日軍基地への配備を見送る方針を固めた」(1月23日付読売)。
その理由は「日本が長射程のミサイルを保有すれば(対中)抑止力が強化される」と米政府が判断したからだ。何のことはない。
新設される陸自のスタンドオフミサイル部隊を核搭載可能な中距離ミサイル部隊にする。これこそが当初からの米国の狙いだったということだ。
日本が核戦争国家になるための“アプローチ義務”がG7広島サミットで明確にされる。日本の大手紙で最も自民党政権情報に強い読売新聞は3月8日付一面トップで、「米政府が“核の傘”日米韓協議体創設を打診」と伝えた。
そこでは、「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示しているが、問題は日本政府だとして岸田首相に有事に備えた核使用、すなわち日米核共有の議論に踏み込むことを暗に求めてきている」との解説がある。
「”核の傘“日米韓協議体」の目指すものが、岸田政権に日米「核共有」を認めさせることにあることは明白だ。
しかし壁は厚い。ゆえにそれを後押しする役割を、「北朝鮮の核」に対処する米韓「核共有」に積極的な韓国、尹錫悦政権が担うことになる。
これこそが「”核の傘“日米韓協議体」創設の目的である。
尹大統領は反対世論が多数という「政治的リスク」を負ってまでも、元徴用工問題解決で日本側に譲歩し日韓関係正常化に踏みだして、日韓シャトル外交(定期的に首脳が往来)を復活。
3月16日には12年ぶりに韓国大統領として単独訪日を果たした。これを受けての米政府の素早い「”核の傘“日米韓協議体」創設打診は、日韓正常化が米国の強い要求から出たものであることを示している。
尹大統領は、今度は4月26日に訪米。異例の「国賓待遇」を受け、晩餐会、議会演説まで用意された。明らかに大きな狙いが背後にあることの証左だ。
尹大統領の性急な動きは、いかに米国が日米「核共有」を焦っているかを表しているとしか思えない。しかも尹大統領はG7広島サミットに特別招待されている(米国の指示以外に考えられない)。
ようするに「核持ち込み容認」と「日米”核共有“」、その終着点としての対中・対北有事における自衛隊スタンドオフミサイル部隊の核武装化が、G7広島サミットを出発点に本格的に進められていくことになる。
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(この記事は2023年5月6日に書かれたものです)
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