FRBの失策をどう挽回しうるか
崖っぷちに立った米国金融業界
サマーズ元米財務長官(4月8日)
「米経済がりセッション(景気後退)に陥る可能性が高まっており、米国の利上げ局面が終わりに近づいている。
5月FOMCについては、最後まで予断を持つべきではない。3月雇用統計は1-3月の景気の強さを反映したもので、今後の参考にはならない。FRBは極めて難しい決断を迫られている」
FRB(4月10日)
「米商業銀行の融資が2週連続で急減した、3月29日終了週マイナス450億ドル、その前週はマイナス596億ドルと2週間としては、統計開始以来最大の落ち込みとなっている、尚、預金は10週連続で減少している」
米銀行協会(4月6日)
「米国の消費者と企業の信用条件は向こう半年間に悪化し、パンデミック以降で最悪の水準になる見通し」
金融システムを巡る混乱がリセッションの早期化に拍車をかけそうになってきたので、手短に警告を発しておきたい。
もちろん、ドル円は120円もしくは114円方向に向かうであろうが、金融・証券市場のボラティリティーが高まるゆえ、全体を冷厳に見定める必要がある。
SVB(シリコンバレー銀行)の経営破綻と、それに続いたCS(クレディスイス銀行)発行の、ATI債(劣後債)の無価値化に対応して、当局はSVB株主の損失を容認する一方で、債権者の一部である預金者の預金は全額保護するという異例の対応を決めた。
預金保険制度上、預金保護の上限は25万ドルだが、預金保険の対象外の預金を含めて預金の全額保護を決めた。
SVB預金者に限っては、これで一安心ということだが、既に波及的に他の銀行からの預金流出につながってきた。
仮にSNS発で「A銀行が巨額の保有資産評価損失を抱え込んでいるらしい」などの情報が拡散すると、パニッキーな預金流出になる。
バイデン大統領は「銀行の破綻処理で国民には負担が発生しない」と伝えてはいる。確かに、FDIC(米連邦預金保険公社)の預金保険基金が底をつくまでは表面上、国民負担は生じない。
だが、基金残高は昨年末時点で1282億ドル(17兆円)にすぎず、預金保険の対象となる預金=10兆680億ドル(約130兆円)の1.3%でしかない。
中小の米銀行は特に債券(米国債・MBS=住宅ローン担保債券・商業不動産ファンドなど)の保有資産ウェイトが高いことから、今後、次々に破綻や懸念が広がる可能性が高いだけに、政府の対応が注目される。
預金保険基金残高の対象預金に対する比率は貸出の不良債権の比率に反比例する関係にある。現在、貸出の不良債権比率は低いが、不良債権と同様、債券の含み損も資本の棄損につながるという点で、不良債権に類似する。
現在、不良債権貸出と債券含み損の合計額(対応資金比率)は、過去のピーク時(リーマンショック時)を超える水準まで高まっている(意外に、この事実を把握しているエコノミストは少ない)。
つまり、現在の状況は銀行破綻が増加して預金保険基金残高は底をついてもおかしくない状態と言える。
預金保険基金が底をつけば、破綻した銀行の預金者保護のコストを銀行全体で負担するか、さもなくば税金での負担で預金者を保護しなければならなくなり、(共和党が認めるはずはないだろう)、すべてのケースで預金の全額保護を約束することはできなくなるだろう。
止むを得ず「全額保護」を再び「25万ドル保護」に切り替えれば、預金者は再び警戒感を強め、預金の流出に拍車がかかる恐れがある。
一方、FRBは預金流出によって資金繰りが悪化した銀行への流動性供給を拡充することによって、金融不安を鎮めようとしている。
流動性の面において、潤沢な資金供給姿勢を表明し、金融市場に安心感を与えようとするものだ。
通常の連銀貸出の加えて、期間の長いBTFP(バンク・ターム・ファンディングプログラム)も導入した。
FRBの貸出総額は3000億ドルを超え、リーマンショック時の最大金額(約4000億ドル)に近づいている。ただ、FRBといえども、できることには限界がある。
FRBは預金流出などによって資金繰りが悪化した銀行に対する一時的な流動性供給はできるが、債務超過に陥った銀行を流動性供給によって救済することはできない。
いわゆるソルベンシーの問題(支払い能力の問題、債務超過かそうでないかの問題)は、預金流出などによる流動性の問題とは別問題である。
もし、債券投資による含み損などによって銀行が債務超過状態になっているとすれば、いくら流動性を供給したとしてもその銀行を救済することはできない。
ところで、銀行への規制に関してバイデン大統領は規制の最強化を議会に要請すると表明している。
バイデン氏は2010年に民主党オバマ政権のもとで、副大統領として、リーマンショックの再発防止を目的とするドットフランク法(金融規制改革法)の成立に尽力したが、その後のトランプ政権のもとで18年に同法が改正され、規制が甘くなったと主張する。
ただ、今回の金融不安が起きたのは、トランプ政権による法改正というより、現行の銀行監督体制がそもそも銀行の健全性を判断するものになっていないからだと言える。
FRBは昨年6月にも、大手金融機関33行を対象にしたストレステストの実施結果を発表し、2021年に続き、FRBが定めた基準を全行がクリアしたことを明らかにした。
ストレステストは2008年に起きたリーマンショックを契機に導入され、金融危機など深刻な不況に陥った際に金融機関がそれに耐えうるだけの資本などを備えているかを点検するものだ。
厳しい条件下での算定だけに有効なテストではあるが、少なくても昨年実施のストレステストではインフレによる金利上昇のリスクが勘案されていなかった。
銀行全体で実際に巨額の債券含み損(昨年末時点で6250億ドル)が発生している以上、
FRB自体に甘さがあったということだ。
5月・6月のFOMCは極めて重要
3月22日のFOMCでの追加利上げ(25bp)が政策ミスであったと筆者は、当リポートでお伝えした。
https://real-int.jp/articles/2046/
声明文では「米国の銀行システムは健全で強靭だ、最近の動向は家計と企業の信用状況を引き締め、経済活動や雇用、インフレに影響を及ぼす公算が大きい、こうした影響の度合いは不確かだ、委員会は引き続き、インフレリスクに細心の注意を払っている」との文言が追加されている。
つまり、金融不安は景気や物価にも影響する可能性はあるが、影響度合いは不確かであるため、今はインフレ抑制に注力する、ということだ。
・・・
2023/04/13の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
関連記事
https://real-int.jp/articles/2066/
https://real-int.jp/articles/2067/