SVB破綻の真の意味
追い込まれた中堅以下の銀行
結局、FRBの1年間で8回の政策金利引き上げ(0.25%→4.75%)による金融業界へのダメージが遂にSVB(シリコンバレーバンク)に破綻として一気に浮上したということになった。
ただ、FRBには多くの銀行検査官が日常的に個々の金融機関の健全性と、リスク程度をチェックしていたわけで、何も把握してなかったということではない。
法(2010年成立の金融規制法=ドット・フランク法)的には、総資産2500億ドル以上の13行でなかったがゆえ、査察や指示等の介入対象でないことも一理ある。
しかし一方で、FRBが金融規制強化を強めることにより、「リセッションなきインフレ率低下」の実効性を高めようと、敢えて座視していたとの見方もある。
SVBはテック系スタートアップ企業向けのエクスポージャー(リスク資産勘定)が多い中規模行(全米16位)。
機関投資家の大口預金口座を通じた資金調達比率が突出して高く、ポートフォリオに多額の国債およびMBS(住宅ローン担保証券)の含み損を抱えており、預金の払い戻しに充てる資金の確保で資産を売却し、損失の確定を余儀なくされた。
SVBの保有証券の含み損は普通株式等Tier1の資本(中核的資本)よりも大きく、預金者は1750億ドル(22年末現在)にのぼる預金の返済能力を疑問視し始めた。
預金の大半はFDIC(米連邦預金保険)でカバーされてはいない。
その結果、預金者は3月9日に420億ドルの預金を引き出し、10日にはカリフォルニア州規制当局が同行を閉鎖し、FDICを管財人に選任することとしたのである。
FDICのデータ
ここで、米国の銀行の状況をFDICのデータから概観しておこう。
小規模行で経営環境の変化等から経営統合が進んでいることもあり減少傾向が続いている。
● FDIC加盟銀行(2022年12月末): 4706行
● うち資産規模が100億ドル(約1.3兆円)を超える銀行: 158行
● さらに資産規模2500億ドル(約33兆円)を超える大規模行: 13行
そして、この13行で全銀行資産の55.5%を占め、100億ドルを超える158行で実に85.5%を占めている。預金は19兆2150億ドル。(約2520兆円)
コロナ禍での大規模財政出動もあり2020年から残高が急増したものの、足元では減少に転じ前年比でも1993年3Q(7-9月)以来のマイナスになっている。
貸付金等についても順調に拡大を続けているものの、預金の伸びを下回る伸びに留まっているため所謂預貸ギャップ(預金-貸付金)は、拡大を続けている。
結果、預貸率は全体では61%も、資産規模2500億ドル超の大規模行は51.2%。
100億ドル~2500億ドル行では75.7%となっている。
規模が大きい銀行ほど大きな預貸ギャップを抱え、有価証券運用に頼らざるを得ない状況になっている。有価証券は5兆8840億ドル(約777兆円)。
預貸ギャップの拡大に合わせて拡大を続けてきたが足元では減少に転じている。
有価証券は会計上、評価方法の違いから売却可能証券と満期保有証券に分かれる。
前者は時価評価、後者は簿価評価である。
2020年以降の有価証券拡大の中で、どちらも大幅に残高が拡大したが、2022年のFRBによる金融引締めを受けて、債券利回りが急激に上昇(価格は大きく下落)したことから売却可能証券は売却を進め残高を削減しているが、満期保有証券は積み上げが続いている。
米国の銀行の有価証券は米国債とMBSで80%を超えており、満期保有証券にMBSが大量に組み込まれているとみられる。
MBSを組み入れたポートフォリオは金利リスクのコントロールが複雑でリスク管理の難易度が高い。
まさしく今回のSVBの経営破綻も流動性の高い預金ポートフォリオに対し、リスク管理の難易度の高いMBSを満期保有証券の形で保有していた
ALM(資産・負債の総合管理)のミスが原因の一つと言われている。
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(この記事は 2023年3月19日に書かれたものです)
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