日銀植田体制 重要度と期待
日銀新体制は事実上、植田体制(副総裁は内田日銀理事と氷見元金融庁長官)に決定した。
経済学者を総裁とし、日銀と財務省出身者がフォローするという、均衡の取れた体制となったようだ。
ただ、10年間続けられた異次元緩和が変更されるのかどうか、日本の金融政策上の節目とみる金融市場・メディアだけに、当面の注目度は極めて高い。
1.軌道修正
第一に、異次元緩和が安倍政権(当時)の意向を強く受けたものであったうえ、近年はその弊害も取りざたされるようになっている。
デフレ脱却が最優先の10年前とは日本全体の政策課題も異なるのだから、新体制への移行はおのずから軌道修正をイメージさせる。
2. 緩和の出口への模索
第二に、2%物価目標達成の可能性がわずかではあるが出てきている。消費者物価の上昇率は41年ぶりの4%台に達している。
理由は輸入物価の高騰なので今後は低下が見込まれるが、それでもここまで高まった以上、2%近辺で下げ止まる可能性も無いとは言えなくなっている。
緩和の出口への模索(賃上げの状況次第だが)が始まるとの見方が一部に出てきても、おかしくはない。
3. YCCの弊害
第三に、イールドカーブ・コントロール(YCC)の弊害は既に明白である。
YCCは今の金融政策の基本的な政策手段であり、日銀が短期金利だけでなく長期金利まで決めてしまう特殊なやり方である。
現在日銀は10年物国債(指標銘柄)の金利上限を0.5%と決めているが、市場実勢はそれを上回っている。
その差を日銀が国債の「爆買い」で抑え込んでいるが、それによって国債市場に様々な歪みが生じている。
YCC撤廃が緊急の課題なり
このうち緊急性が高いのは、第三点目に挙げたYCC問題である。
国債市場への副作用が明らかであるうえに、YCCが存在する限り日銀と市場の対話がうまくいかないからである。
「中央銀行と市場との対話」とは、中央銀行と市場が金融政策の先行きについて、ある程度のイメージを共有することである。
米欧の中央銀行は昨年から利上げ局面で、先行きの利上げのペースや程度について、不確実性の度合いも含めて自分たちの見方を市場に語ってきた。
長期金利、株価、為替などの市場は、どっちみち金融政策を予想しながら動くものであり、ならばそれが中央銀行自身の予想とあまりずれない方が市場の安定に資するからである。
ところが、長期金利まで日銀が決めてしまうYCCという手法だと、政策の先行きを日銀が正直に語ることはできない。
将来の引き上げの可能性を示唆した瞬間に長期金利には大きな上昇圧力がかかり、そのコントロールが難しくなってしまうからである。
コントロールしやすくすることを優先する日銀は、市場に対して「長期金利は動かさない」と常に言い続けることになる。
だから実際に長期金利を動かす時は必ずサプライズになる。
昨年12月の長期金利の上限引き上げ(0.25%→0.50%)も、市場にはサプライズとなった。サプライズが絶対ダメとは言わないが、日銀の言葉が信用されにくくなるというコストは生じる。
12月の引き上げに際しても、日銀は「今回限りでもう引き上げない」と強調したが、その日にサプライズで裏切られた市場にしてみれば、もはや日銀を信じる理由がなかった。
日銀の意図に反して長期金利の上昇圧力がさらに強まったのは必然であり、それが国債市場の機能回復を遅らせる原因になった。
日銀はこの「市場との対話」問題に早晩ケリをつけないといけない。
新体制になって最初の4月決定会合は、YCCの撤廃ないし事実上の撤廃を行う良い機会である。最初の会合で、それを貫徹することができれば、残り5年間(任期が1期として)は市場との建設的な対話が可能になる。
逆にYCCを引きずってしまった場合、「新体制もどこかでサプライズを起こすのではないか」という市場の疑心暗鬼が消えず、日銀の言葉への信用は回復しない。
ただし、YCC撤廃の際に長期金利の急上昇を避けることは重要である。
そのためには、
- 緩和の手法は変えるが、緩和の継続に揺らぎはないというスタンスを明確にする
- 短期金利(▼0.1%)について「2%物価目標の達成が確実になるまで維持する」
- 国債の買い入れ機能により市場への安心感を与える
といったことなどが考えられる。
それでも長期金利の多少の上昇は起きるだろう。
その景気への影響が軽微であることや、金融市場の機能維持も中央銀行の大事な仕事であることを、日銀は国民や政治家に理解してもらう必要がある。
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(2023/03/01の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。)
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