植田日銀の次の一手
1月会合=「現状維持」の狙い
日銀は1月17・18日の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めた。YCCにおける長期金利をゼロ%程度に維持し、「ゼロ%程度」の具体的な幅も±0.5%に拡大。
その理由を日銀は「国債市場の機能低下への対応」と説明していた。
機能の低下というのは、以下のような実態のことだ。
- 各年限間の金利の相対関係が歪んでいる
- 現物の先物の裁定が働きにくい
- 国債金利の実勢がわかりにくくなり、
それをベースとした社債の発行条件(表面利率)も決めにくい
これらの問題は1月会合の時点で、さらに悪化していたのだから、1月会合ではもう一段の対応が必要だったはずである。
国債市場の機能低下は「日銀が遠くないうちに利上げを始める」という市場の予想と、YCCで長期金利を抑える日銀の力が、ガチンコにぶつかり合ったことで生じた。
2つ力のどちらかが弱まれば問題は和らぐので、日銀がとりうるアプローチは、
(1)日銀が長期金利のコントロールを弱める
(2)市場に金利上昇予想を弱めてもらう
のいずれかしかない。
つまり、日銀は12月会合で(1)を、1月会合では(2)の手法に変更したのであろう。12月のアプローチは失敗に終わった。
長期金利をもう少し自由にしてやれば、市場は満足しておとなしくなると考えたのだろうが結果は逆だった。
市場は12月の日銀の措置を「異次元緩和が出口に向かう合図」と受け止め、「ならばもっと金利が上がるはずだ」と、ますます色めき立った。
(1)のアプローチが成功するためには、「1回限りの技術的な修正であり、金融緩和を、しばらく変えるつもりはない」という日銀の意図が、市場に正確に伝わらなければならない。
しかし、問題は、12月の措置が日銀のこれまでの情報発信から予見できないサプライズであったため、未来に向けての言葉も信用を失ってしまったことである。
黒田総裁が緩和継続を強調しても、市場はもはや信じる構えには程遠くなってしまっていた。
それどころか、短期利益狙いの“力ずくの機関投機筋”には、「日銀の手持ち玉には限界があるゆえ、何回でも勝負できる」と豪語する向きも出てきた。
かくして長期金利の上昇圧力はさらに強まり、国債市場の機能はますます壊れて、日銀は1月会合を迎えたわけである。
そこで(2)の「市場の金利予想を押さえるアプローチ」に軸足を移した。ただ、その手段として国債買い入れの増強はもはや有効ではなかった。
そこで1月会合で打ち出したのが、「共通担保資金供給オペ(共担オペ)の拡充」なる新兵器だった。
但し、この新兵器の概要は相当、専門的な内容であり当リポートでは割愛させていただく。
現段階までのところ、利回り曲線は相応になだらかになってはいるが歪みそのものは続いている。とにかく、それでも全力を尽くして金利の上昇を抑えたい日銀の姿勢は理解しうる。
2%の物価目標が安定的に達成できるかどうかは定かでないし、景気の先行きには不透明感がある。政府・経済界による賃上げキャンペーンの最中に、金利の上昇で景気に水を差すわけにはいかない。
「利上げで賃上げが進まなかった」などと後から言いがかりをつけられては、日銀もたまったものではない。
しかし、金利上昇の負の側面を重視するのであれば、日銀はなぜ12月に長期金利の上昇を許容したのか。
国債市場の機能が問題なら、最初から1月会合と同じアプローチで、長期金利の当時の上限(±0.25%)を守る姿勢を示すこともできたはず。
それで実際に市場機能が改善したかどうかはわからないが、少なくとも日銀のコミュニケーションの一貫性は保たれ、その後の金利上昇予想もあれほど高まらなかった可能性が十分にある。
実は日銀が市場の反応を甘く見積もりすぎていたのではないか。
12月会合の後、市場が日銀の想定を超えて暴走したため、1月会合で慌ててそれを止めにいっただけのことなのではないのかとの見方もできる。
さらに違う見方もある。12月会合での決定内容には市場機能とは別の隠れた動機があったという。
つまり、あの時点では一定の「柔軟性」を示すことが政治的にプラスと日銀が判断したとの見方だ。
振り返ると昨年の夏から秋にかけて、円安と物価上昇が急速に進み、「かたくなに動かない日銀」として批判の嵐となり、政府との関係がギクシャクしたとの報道もあった。
そこで日銀が敢えて「柔軟性のアピール」に出たという訳だ。
確かに12月の決定後、円安はピタリと止まり一気に20円幅も円が上昇するに至り、少なくとも円安関連での日銀批判は消え失せた。
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2023/02/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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