イスラエルのネタニヤフ新政権のしたたかな対外政策
1月29日、ブリンケン米国務長官は、パレスチナとイスラエルの軍事的緊張が高まる中、エジプトに立ち寄った。
翌30日からはイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバス大統領と会談し、和平交渉の行き詰まりの打開に努めようとしている。
今回のバイデン政権の中東外交が動く直前の28日深夜(23時30分頃)、イラン国営通信が、中部イスファハンの軍事工場が3機の無人機による攻撃を受けたと報じた。
被害状況については、工場の屋根に軽微な損害が出たものの人的被害はなかったとされる。
また、シリア領内では、翌29日、シリアとイラク両国の許可を得て物資を運んでいたイランのトラックの車列(30台)が所属不明の航空機により攻撃され、30日には、イランの民兵が乗るピックアップ・トラックの車列が、やはり所属不明の無人機で攻撃されている。
これらの軍事攻撃について犯行声明は出ていないが、米政府の複数の高官はイスラエルの犯行と語ったと米国のメディアが報じている。
そこからは、ブリンケン国務長官がパレスチナ自治政府との交渉の進展を迫るだろうと考えたネタニヤフ政権が、米国が関心を寄せるロシアとの軍事協力を進めているイランに軍事攻撃を実施したと推察できる。
仮に、そうだとすれば、ネタニヤフ政権の意図は何だろうか。
この問いについて考えるあたり、以下では、3つの点を検討する。
(1)ネタニヤフ首相の新右派政権とパレスチナ人との緊張
(2)バイデン大統領とネタニヤフ首相の関係
(3)イラン・ロシア関係
結論を先取りすれば、自らの汚職裁判を抱えるネタニヤフ氏は、
首相の座にとどまり続ける必要がある。
しかし、ネタニヤフ政権は、発足早々、裁判所に対する国会の優位を打ち出そうとしたことへのイスラエル国民からの大きな反発、法相が辞任に追いやられるなど、政権基盤が揺らいでいるため、対米関係を利用して政権のかじ取りを安定させようとしていると考えられる。
ネタニヤフ新政権のパレスチナ人との緊張
2022年11月に国会選挙で、ネタニヤフ氏率いるリクード党が第1党(32議席)となった。
その後の連立協議は難航したが、12月21日に合意に至り、29日に国会による承認を受けてネタニヤフ政権が成立した。
これにより、ネタニヤフ氏は3度目(通算15年)となる首相職に就いた。
この新政権は「イスラエル史上最も右寄り」と形容されており、極右政治家のベン・グヴィル氏(ユダヤの力)が国家安全保障相に、スモトリッチ氏(宗教シオニズム)が財相に、マオズ氏(ノアム党)が首相府付き副大臣に就任している。
ベン・グヴィル氏の国家安全保障相は新設ポストで、従来、公共治安相が管轄していた警察に加え、国防相の管轄下にあった占領地の治安維持を担当する「国境警備隊」も管轄下に置き、占領地の治安維持を一手に担うことになる。
これまでのイスラエルによるパレスチナの占領状況については、最近も国際社会から批判されている。
例えば、国連人道問題調整事務所(OCHA)は、2022年の死者が230人(過去17年間で最大)、負傷者が9335人、逮捕者が6500人に達したと報告している。
また、12月30日には、アラブ諸国が中心になって国連総会で、イスラエルの占領に関し、国際司法裁判所(ICJ)に法的見解を求める決議が採択された。
しかし、こうした批判を意に介さず、ベン・グヴィル国家安全保障相は1月3日、イスラムの聖地の神殿の丘にあるアルアクサ・モスクを訪問した。
同訪問に国連安保理は懸念を表明したが、ネタニヤフ政権は、パレスチナ側への一方的な強硬策をとり続けている。
例えば、1月8日には、イスラエルがパレスチナ自治政府の代理徴収をしているパレスチナの税金の一部(約52億円)を凍結し、9日には公共空間からパレスチナ国旗を撤去した。
さらに、26日には、イスラエル軍がヨルダン川西岸地域のパレスチナ自治区のジェニンで、「テロ対策」として急襲作戦を実施し、パレスチナ人9人を殺害した(このうち61歳の女性を含む2人が民間人)。
これらのイスラエルの行動に対し、パレスチナ自治政府は、イスラエルとの安全保障面での協調を停止すると表明した。
また、27日未明には、ガザ地区から「イスラム聖戦」がイスラエル領にロケット弾5発を撃ち込み、これに、イスラエル側はイスラム聖戦の軍事拠点に空爆を行うかたちで応じている。
同日、軍事衝突の拡大を防ぐため、米国、国連、アラブ諸国が関係者協議を行っていたが、さらに事態は悪化していく。
この同じ日に、パレスチナの若者が、超正統派ユダヤ人が多く住むエルサレム北部で、礼拝施設(シナゴーク)から出てきた人々を銃撃し、死者7人、負傷者3人が出る事件が発生している。
イスラエル・パレスチナ間で暴力の負の連鎖が続く中、28日にネタニヤフ政権は次のような「テロ対策強化」を発表した。
(1)イスラエル人民の銃取得条件を緩和する。
(2)テロ容疑者の家族の社会保障の権利を剝奪する。
(3)移動制限を適用する。
強硬姿勢を崩さないイスラエルの対応により、両者間の緊張は、今後さらに高まると考えられる。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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(この記事は 2023年1月31日に書かれたものです)
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