米国経済のハードランディングは回避可能
米国の中長期的インフレ期待の安定
FRBは大幅な利上げが米国経済を過度に悪化させてしまうオーバーキルのリスクに配慮して、利下げ幅の縮小を進めている。
12月FOMCでは利上げ幅をそれまでの75bpから50bpへ縮小した。次の2月・3月のFOMCでは少なくとも25bpの利上げ、もしくは利上げを停止することが見込まれる。
一方で、FRBは現在の物価高が定着してしまうことを回避するため、高水準の政策金利を一定期間持続する考えである。
そのため、金融市場が予想している年後半の利下げ観測を強く牽制している。
しかし、企業、家計、金融市場の中長期予想物価上昇率(インフレ期待)を見る限り、現在の物価の高騰は一時的な現象であって、それが定着してしまうことは想定されていない。
また、金融市場の中長期予想物価上昇率が安定を維持しているのであれば、物価上昇懸念から長期利回りが大幅に上昇し、それが金融市場全体を混乱に陥れるようなリスクもまた限られよう。
ようするに、現在は企業、家計、金融市場とFRBの間には先行きの物価見通しに差があり、その差こそが最終的に米国経済の下振れリスクにつながる可能性がある。
10年物物価連動債から計算される金融市場の10年予想物価上昇率(BEI)は、現在2.2%程度である。
これはFRBのインフレ目標2%をわずかに上回る程度の水準だ。
実際のCPI(物価上昇率)が1980年代初め以来、40年ぶりの高水準にある中では、異例なほどに低い水準と言える。
FRBが昨年3月に利上げを開始した時点から、その水準が低下したことを踏まえれば、FRBの利上げが金融市場の予想インフレ率(インフレ期待)の安定に寄与しているとも言える。
FRBは利上げ実施が遅れてしまった(ビハインド・ザ・カーブ)との認識のもと、昨年11月まで4回連続で75bpの大幅利上げを実施したが、実際のところ、金融市場はFRBの利上げが遅れることで物価高騰が持続してしまうとは考えていないのである。
金融市場の中長期インフレ期待値が安定を維持する中で、FRBが政策金利を急速に引き上げてきたということは、経済に影響を与えると考えられる実質政策金利(名目政策金利-インフレ期待値)もまた、急速に上昇してきたことを意味する。
政策金利の引き上げが、金融市場のインフレ期待の上昇、インフレ懸念の広がりを後追いする形となる場合には、このようにはならずに政策金利の引上げが景気・物価上昇率の抑制に効果を発揮しない。
実質政策金利は今年3月末時点で3.0%程度に達することが見込まれる。
前回利上げ局では2.0%にも満たなかったことを踏まえると、これはかなりの引き締め効果を発揮することが予想される。
となると、この先の2月、3月の利上げ幅を抑えなければ、本格的な景気後退を生じさせる可能性が高まる。
今年3月末時点で3.0%という実質政策金利の水準は、2008年のリーマンショック前の水準にほぼ等しいものだ。
実質政策金利の上昇ペースについては今回の方が明らかに速い。
この点から、今回のFRBの急速な利上げは、金融市場の動揺を誘発するような、本格的景気後退を生じさせる「限界的局面」に入っているのではないか。
明白化したインフレ率の鈍化
12月のCPI(消費者物価上昇率)は前月比マイナス0.1%。
燃料
燃料費が前月比マイナス16.6%と大幅下落したことが全体の指数を押し下げている。前年同月比では+6.5%と昨年6月の+9.1%から6ヵ月連続の低下となった。
食料・エネルギーを除くコアCPI
食料・エネルギーを除くコアCPIは前月比+0.3%、前年同月比+5.7%。前年同月比の低下は3ヵ月連続となり、物価上昇率の低下傾向が明らかになっている。
自動車
中古自動車価格が前月比マイナス2.5%と大幅下落の傾向が続く一方、新車価格も前月比マイナス0.1%と下げに転じた。
食料・エネルギーを除く財のコア指数は前月比マイナス0.3%と、基調的な財の価格は全体としては既に下落傾向に転じている。
・・・
続きは「イーグルフライ」の掲示板でお読みいただけます。
(この記事は 2023年1月17日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/1947/
https://real-int.jp/articles/1946/