露・ウクライナ戦争でのトルコとサウジの仲介
9月30日、ロシアのプーチン大統領がウクライナの占領下にある東・南部4州の併合を宣言し、条約に署名し、ロシア・ウクライナ戦争は政治的に大きな局面をむかえた。
プーチン大統領は署名に先立つ演説で、「全力を尽くして我々の土地を守る」と述べ、ウクライナのゼレンスキー政権に、「敵対行為を直ちに停止し、交渉のテーブルにつくよう」求めた。
これに対し、ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領がロシア政権にいる限りいかなる交渉もしないと明言し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟手続きを行う意向を表明した。
ロシア・ウクライナ戦争では、トルコのエルドアン政権が外交的解決に向けて動き、8月にはウクライナからの穀物輸出の再開、南東部ザポロジエ原子力発電所の安全確保に貢献した。
エルドアン大統領は、9月20日の国連総会の場でも、この戦争について、「双方にとって尊厳をともなう外交解決が必要」と訴え、引き続き仲介役を担う意欲を示している。
そして、9月にはウクライナ兵士215人と親ロシア政党の指導者など55人との捕虜交換でも成果を上げた。
ロシア・ウクライナ戦争に関する捕虜解放では、サウジアラビアも貢献している。
サウジは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国で構成される「OPECプラス」のメンバーとして、ウクライナ侵攻後もロシアとの良好な関係を維持している。
そのサウジのムハンマド皇太子は、4月頃からプーチン大統領と連絡を取り合い、9月21日に、ロシアに拘束されていたイギリス人5人、米国人2人、クロアチア人、モロッコ人、スウェーデン人各1人の合計10人の解放に成功した。
しかし、米国やEUが、ロシアへの経済制裁、ウクライナへの軍事支援を強めるなかで、この戦争は長期化の様相を呈している。
報道では、ウクライナ軍がロシアから奪還した黒海に浮かぶスネーク島への戦術核兵器使用の可能性も流されている。
エルドアン大統領、ムハンマド皇太子の動きは、戦争の政治的解決にわずかな希望をつなぐものともいえるが、事態が好転する兆しは見えてこない。
以下では、これら中東2カ国の仲介努力を改めて検討し、今後の国際社会への影響について考察する。
トルコの立場の変化
これまでトルコは、ロシアに対する経済制裁には参加せず、中立の立場で仲介役を果たそうとしてきた。
しかし、米国やEUが、トルコがロシアとの経済関係を拡大することに懸念を高めるなか、その軸足を移す動きもみられている。
エルドアン大統領は、ロシアによるウクライナの4州での住民投票の終了後、9月28日にゼレンスキー大統領、翌29日にプーチン大統領と電話会談を行っている。
トルコ紙ヒュリエット(9月28日付)によると、両者との会談内容の要点は次の3点である。
- エルドアン大統領は捕虜交換の成功を喜ばしく感じている。
- ザポロジエ原子力発電所の周辺を武装解除地域にするために、
トルコが仲介役を果たすとの提案は今も有効である。 - ウクライナの4州でのロシアによる一方的住民投票は外交折衝を困難にしたものの、
トルコは和平交渉に貢献する準備ができている。
トルコは、2014年のロシアのクリミア半島併合を認めておらず、今回の4州併合についても反対を表明している。
エルドアン大統領は、9月29日のプーチン大統領との電話会談でもそのことを伝え、翌30日には、トルコ外務省が「国際法の原則に対する重大な違反だ」との声明を出している。
9月29日、トルコのネバディ財務相は、国営のハルク銀行、ヴァクフ銀行、シラッド銀行、民営のデニズなどがロシア独自の決済システム「MIR(ミール)」の利用停止を明らかにした。
トルコは、通貨リラの下落にともない長らく経済が低迷しているが、コロナ後の欧州からのクルーズ船の運航再開や、欧州への農業生産品の輸出拡大で下支えされている。
ロシアのウクライナの4州併合の動きは、NATOの一員であり、EU加盟申請中のトルコの立場が改めて問われる契機になったといえる。
そして、来年の大統領選挙を控えているエルドアン大統領は、この情勢変化に機敏に反応したと考えられる。
サウジの捕虜解放仲介の動機
近年のサウジと欧米との関係は、あまり良好とはいえない。サウジのムハンマド皇太子とトランプ前米大統領との蜜月関係とは異なり、バイデン政権誕生後のサウジ・米国関係は冷え込んでいる。
バイデン政権は、ムハンマド皇太子に対し、カショギ記者暗殺事件への関与や、イエメンでの民間人への空爆など、人道的観点から不信感を抱いており、イギリス、欧州諸国も同様の見方といえる。
・・・
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方はイーグルフライをご覧ください。
(この記事は 2022年10月02日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/1784/
https://real-int.jp/articles/1771/