米・欧市場での気になる2つの事項
米国7月CPIの見方
8月10日発表の米7月物価上昇率は予想に反して伸び率が鈍化した。市場では早速、「FRBは利上げペースを緩める」との見方に修正したようだか、そう単純な内容でもない。
予測通り、原油価格は下げトレンドになるとしても、まだまだ楽観的できる事態ではない。「9月FOMCでは50bpの利上げとなる」との市場予測も、あくまで「現段階で」というリマーク付きで捉えるべきである。
7月CPIは「ヘッドライン(総合CPI)はピークアウト、コア(コアCPI)は高止まり」という結果。
ヘッドラインは前月比0%(6月=+1.3%)前年比+8.5%(6月=+9.1%)と、6月対比で明確に減速。
ガソリン価格が前月比マイナス7.7%(6月=+11.2%)など、エネルギー価格が前月比マイナス4.6%(6月=+7.5%)となったことがヘッドラインの物価上昇率を鈍化させた主因だ。
エネルギー価格は前年比+32.9%(6月=+41.6%)と依然として高い伸びにあるものの、原油価格の下振れ予想やガソリン価格の一段の下落(サマーシーズン終了で)見込みから判断すると8月も下落は必至とみる。
ただ、食品価格は前月比+1.1%(前年比+10.9%)と高い上昇率を続けていて、エネルギー価格の下落分を食い止めていることも事実だ。輸入価格の上昇率や生産コスト、物流コスト、人件費上昇(人手不足)らがすべて反映されているからだ。
コアCPIは前月比0.3%上昇、前年比5.9%上昇。もっとも、3ヵ月前比年率の3ヵ月平均(トレンドが明白に出る)では+7%と加速基調にあり、インフレ終息が一筋縄ではいかないことが示唆された。
主要品目に目を向けると、中古車価格は前月比マイナス0.4%(6月=+1.6%)と3ヵ月ぶりに低下し、マンハイム中古車価格指数と同じ動きとなった。
また、ホテル等の宿泊設備は前月比マイナスと2カ月連続で低下した。反対に消費者物価指数において3割のウェイトを有する家賃は前月比+0.5%、前年比+5.7%と加速基調にある。
手ごろな住宅在庫の不足などから(アパート等の)賃貸向けの住宅需要が強まったことで賃料が上昇傾向を強めている。関連指標のケースシラー住宅価格指数の高止まりなどから判断すると、こうした傾向は当分の間続くと考えられる。
こうしたコアCPIの上昇を背景に、アトランタ連銀が算出する粘着CPI(価格変動の鈍い品目に絞って算出した消費した消費者物価)は前年比+5.4%となった。
通常時において価格変動の鈍い品目が押し並べて上昇している(コロナ禍前までは大体、2%台前半の上昇で推移してきた)のは、労働コスト増を価格転嫁する動きが広範な品目に及んでいることを示唆する。
雇用統計によれば7月の平均の時給は前年比+5.2%と高止まりしており、これが消費者段階のインフレに波及する可能性は高い。
総括
米国7月CPIはエネルギー価格低下によってピークアウト感が漂い、ひとまず市場参加者は安堵した。
もっとも、デイリー・サンフランシスコ連銀総裁が「前年比のデータでは消費者や企業の負担が幾分和らいでいるという朗報もあるが、インフレ率は依然として高すぎる上、われわれの物価安定の目標には近づいていない(程遠い)」と言っているように、インフレは尚残存したままだ。
FRBのハト派傾斜を勝手に推測するのはいいが、まだ時期尚早であろう。
インフレのしつこさ、という点でも、今後FRB高官の注目がコアCPI、コアPCE(個人消費)デフレーターの高止まりに移り、それが「インフレの勝利宣言には程遠い」と言った見解の根拠になるのではないか。
今回の7月CPI発表直後に、ハト派の象徴とされてきたミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が「2023年末のFF金利は4.4%になる」と市場にブレーキをかける発言をした。
つまり、市場が金融ハト派的考えに傾き、株価が上昇に転じ、債券が買われるとFOMCメンバーが、その考えを打ち消し株価に下押し圧力をかけてくる。
資産価格上昇がインフレ終息の阻害要因になっているとの認識が内部で共有されている可能性がある。
インフレは鈍化する、しかし大幅利上げは続けると、「オーバーキル」的対策も十分にあり得る。もうすこし様子を見よう。
ECBの「TPI」導入の狙い
6月21日、ECB理事会後の記者会見で、ラガルド総裁は金融市場に対しても、ユーロ圏の財政政策を担う人々(各国の政権)に対しても、これまでよりはるかに強気の姿勢に転じた。
ECBは、かなり前から自分たちが問題に対処できる唯一の存在とみられてきたことに、明らかに不満を抱いてきた。金融政策を限界まで総動員して総需要を維持することがECBに期待されるようになって久しい。
加えて、ユーロ通貨に対する信用を脅かすような投機的な攻撃を合法的に阻止する完璧な措置を考え出し、且つユーロ圏加盟国の支払い能力を維持する仕事もECBに委ねられてきた。
そこで導入したのでTPI(トランスミッション・プロテクション・インスツルメント=金融政策の伝達保護措置)なる枠組みである。
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(この記事は 2022年8月16日に書かれたものです)
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