黒海からの穀物輸出再開とトルコ政権
2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから5カ月以上が過ぎたが、戦局は膠着状態にあり、終結の兆しはまだ見えない。
この戦争は、世界経済に直接的にも間接的にも悪影響を与えており、とりわけ開発途上国への影響は深刻化しつつある。
国連開発計画によれば、食料、エネルギー産品、肥料などの価格高騰により、途上国を中心に7000万人以上が貧困状態に陥っている。
また、米国のデータ分析会社「ベリスク」は7月29日、社会不安により民衆の抗議運動が活発化する可能性がある国75カ国を発表した。
日用品の価格高騰が社会不安を生み、政治への不満の表明へと連鎖するリスクが世界各地で高まっているのである。
その中、8月1日に、黒海経由での海上輸送の再開というほのかな明かりが灯った。この明かりの点灯に大きく寄与したのは、トルコのエルドアン政権である。
トルコは、ロシア・ウクライナ戦争で、現在のところ唯一、仲介役として実績を残しており、8月5日にも、エルドアン大統領はロシアのソチを訪問し、プーチン大統領と会談する予定である。
そこで、以下では、このエルドアン政権の国内外の政策について検討し、間接的ではあるが、ロシア・ウクライナ紛争の今後を考える一助としたい。
結論を先取りすれば、現在、エルドアン政権は、ロシア・ウクライナ戦争を「活用」した外交を展開し、国際社会でのトルコの地位を高めることで、政権の求心力を高めようとしている。
一方、同政権は、国内的には物価高騰、通貨安という経済不安を抱えている。したがって、国際社会が、ロシア・ウクライナ戦争の長期化のリスク・マネジメントとして、エルドアン政権に仲介役を期待し続けるのであれば、トルコ経済の安定化を支援することが望まれる。
与党「公正発展党」の危機感
トルコの世論調査会社メトロポールは、2023年6月に予定されている大統領選挙・議会選挙について、今年6月に投票調査を実施した。
その結果、公正発展党(AKP)を中心とする与党の得票率は約32%で、野党の37%を下回っていた。
また、6月30日には、6野党の連携を進める共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首が、次期大統領選挙では第1回投票で野党候補が勝利すると述べ、自信をのぞかせた。
こうした状況を受け、AKPは、党勢の巻き返しをはかるため、7月26日に党中央執行委員会会議を開催した。
エルドアン大統領は、同会議で、支持率低下の要因である物価高騰について、(1)食糧価格の上昇速度は低下しつつある、(2)インフレ率の低下が2023年2月頃になるよう指示したと述べている。
さらに、同大統領は、外交政策にも言及し、世界に影響を与えている実績を今後も続けなくてはならないと述べ、選挙活動を本格化させる意向を示した。
このところ、エルドアン政権は、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、イスラエルとの関係正常化、カタール、イランとの関係強化など、近隣諸国外交を展開し、経済状況の改善に努めている。
また、増加する移民対策として、外国人の居住制限の厳格化、シリア難民の自主帰還の奨励にも取り組んでいる。
しかし、これらの政策では、支持者のAKP離れを食い止め切れておらず、投票先を決めていない有権者の支持を得るにはいたっていない。
経済回復は選挙に間に合うか
国際的信用格付け会社のフィッチは、7月9日、トルコの信用格付を「B+」から「B」に引き下げた。
また、同社は、7月19日、トルコの2022年の平均インフレ率が71.4%になるとの予測を示し、金利引き上げによる金融政策の必要性を指摘した。
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(この記事は 2022年08月03日に書かれたものです)
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