イタリアがEUを打ちのめすか
ドラギ首相が匙を投げた
イタリア・ドラギ政権が崩壊(7月21日)し、9月25日に総選挙ということになった。
通常ならば、「またイタリア政局か。いい加減、まともな安定政権づくりに腰を入れんかい」と話題にもしないし、大体、イタリアレベルの国政が世界経済に大きな影響を与えることもない。
正直なところ、何度も首相を務めた同国の黒幕=ベルルスコーニ氏が、今回の政局でも動いていることから「勝手にすれば」と言いたいところである。
だが、明らかに事態は深刻な方向に向かっている。何よりもECBの「ミスター・マリオ」として長く総裁を務めたドラギ首相が、匙を投げたという意味である。
すなわち、ECBラガルド体制に今後、大きな動揺が広がりかねず、EUの政治的一体性に大きなヒビが入る可能性も出てきたということだ。
ましてや、ロシアが仕掛けたウクライナ戦争によって欧州経済のベースたるエネルギーの確保が死活問題化している矢先でのこの動きは、まともではない。
まず、政局動向について記しておこう。
2018年3月の総選挙で左派ポピュリスト政党「五つ星運動」が議会第一党に躍進。
同年6月、五つ星運動と右派=同盟による「コンテ連立政権」発足。
しかし19年8月、連立を解消し9月に五つ星運動と中道左派=民主党による「第2次コンテ政権」発足。
21年1月、連立政権内の少数与党が離反し、上院で過半数維持できず崩壊。
同年2月、6党連立の「挙国一致内閣」としてドラギ政権が発足。
親EU路線を強力に推し進め、ウクライナへの武器供与や対露制裁を続けるなどして政権維持に努めてきた。
6月21日、連立政党内の議会最大勢力=「五つ星運動」が分裂。
ウクライナへの武器供与などを巡って政権の積極方針を支持する前党首のディマイオ外相を中心としたグループと、武器供与が紛争長期化につながるとして反対する現党首のコンテ前首相を中心としたグループとの間で物別れとなり上下院62名が同党を離脱(229名中)し、ディマイオ外相を党首とする新党「IPF」を結党した。
そうした中で7月14日、物価高騰による家計負担の軽減措置を巡って、ドラギ政権内がまとまらず下院で内閣信任投票を実施。
しかし、「五つ星運動」が棄権したことを受け、ドラギ首相は直ちに、マッタレッラ大統領に辞任の意向を伝えたが大統領は政治危機を回避するため、首相の辞任要求を受け入れなかった。というのも信任投票としては下院の過半数が政権を支持し、信任自体はクリアーしていたからだ。
だが、ドラギ首相は政権与党の右派ポピュリスト=同盟が同じく右派ポピュリストで急速に支持を伸ばしている「イタリアの同胞」に接近し、政権に造反する動きを強めていることを察知していたのである。
そこで7月20日、今度は上院(定数321)での内閣信任投票に臨んだ。
結果は賛成95、反対38で、またも信任となったのだが「同盟」と中道右派の「フォルツァ・イタリア」の右派2派が五つ星運動とともに棄権したことで、ドラギ首相の辞任の決意は不動のものとなったのである。
「右派連合の政権となれば自分の出番はなくなる」との確信を得たことを意味する。
最新の世論調査では、主要政党でドラギ政権に参加しなかった「イタリアの同胞」(右派ポピュリスト)が20%台前半でリードし、これを今回の信任投票でも政権を支持した民主党(左派)が僅差で追っている。
「イタリアの同胞」が単独で政権を発足することは難しいが、同盟と「フォルツァ・イタリア」とで右派の統一会派を結成すれば、議会の過半数確保が視野に入る。
右派3党の支持率の合計は50%に届かないが、投票態度を決めていない調査対象者や、議席獲得に至らない小政党もいることから、選挙後の議席数では過半数に届く可能性が高い。
対する左派は、今回の政権崩壊の引き金を引いた五つ星運動と、ドラギ政権を支え続けた民主党の間の亀裂が広がり、統一会派の結成が難しい。
選挙後は、EUに懐疑的な右派ポピュリストが率いる連立政権が誕生する可能性が高い。
しかも選挙後の次期首相の最有力候補と目されているのは、かつてベルルスコーニ政権でイタリア史上最年少の閣僚に就いた経験を持つメローニ氏。
同氏が率いる「イタリアの同胞」政党は、第二次大戦時代のファシスト指導者ムッソリーニの側近や支持者が結成した「イタリア社会運動」政党の流れを汲む。
前回18年の選挙では僅か4.4%の得票率にすぎなかったが、7月13~18日の世論調査での支持率は23.8%と国内トップの勢いとなっている。
ドラギ首相が早々と匙を投げた真の意味がここにある。
つかの間の政治的安定を維持していたイタリアだったが、右派ポピュリスト政権の誕生で政権後退やEUとの関係悪化が懸念される。
ドラギ政権発足後のイタリアは復興基金の稼働に必要な復興計画をまとめ、コロナ禍克服や、ロシアへのガス依存解消に取り組み、仏独とともにEUの中心国としての存在感を高めていた。
ECBによる利上げ開始が近づいた6月には一時イタリアの10年物国債利回りが、4%(現在も3.8%台)を突破し、深刻な利回り格差(スプレッド)を形成してきた。
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(この記事は 2022年7月26日に書かれたものです)