米国長短金利逆イールドの意味
必要以上に懸念することはない
景気後退を予測する際に必要なのは多くの相関関係であって、多くの因果関係ではない。米国の景気後退を示唆する最も優れた指標は米国債市場にあるというのが大方の見方だ。
それが現在、再び注目を集めている。短期債利回りが長期債利回りを上回る「逆イールド」に接近してきたからだ。
こうした(逆イールドと景気後退の)相関関係を踏まえて、多くの人は今、警告サインの点灯は近いと確信している。景気後退に陥る前に毎回、利曲り曲線(イールドカーブ)が逆イールドを形成してきた。
そして現在、利回り曲線として一般的な2年・10年のカーブが再び逆イールドに近づいている(3月25日時点では0.2ポイントを下回っている)。これは2020年の景気後退以来だ。
では、実際に米国の景気後退は必至なのか。しかし、少なくとも直近の2回は利回り曲線が予告していたとは信じがたい。1973年~1974年の景気後退は、米国がイスラエルの防衛を支援したことを受け、アラブ諸国が73年10月に始めた石油禁輸が原因だったことは明らかだ。
同年3月に利回り曲線が逆イールド化し(当時は2年債のデータはないものの、1年債利回りが10年債利回りを上回っていた)、景気後退を予告したとされている。
だが、米国債トレーダーは戦争や禁輸を想定していなかったのだから、景気後退を予測できたはずがない。2020年の一時的な景気後退は、この例と同じくらい原因がはっきりしていて「新型コロナウィルス禍」だった。
利回り曲線は19年に逆イールド化したが、どれだけ過激なコロナ陰謀論者でも、債券トレーダーが新型コロナの到来について事前に警告を受けていたと考えるのは無理があるだろう。現在にしても「逆イールド」が近い将来の一大事を予言する警報だとは断定できない。
実際、欧州、特にロシアへのエネルギー依存が高いドイツは、近いうちに景気後退突入は必至とエコノミストから指摘されていて、3月25日に発表された3月のIfo企業期待指数が急降下しIfoの所長自身、「ドイツ経済におけるセンチメントが崩壊した。企業は厳しい局面に立たされた」とコメントした。
しかし、ドイツの利回り曲線はウクライナ侵攻後、スティープ化(利回り差拡大)し、逆イールドの兆候はない。
一方、景気後退前(ただし、直前なのか相当以前からなのかはバラつきなし)には毎回、逆イールド化が起きたというのは事実だ。ただ、景気後退入りする前の1~3年の間に警報が出ても、投資家がそれに基づいて行動するのは難しい。
株価が何年も上昇し続けているなら、下がるはずだという信念を持ち続けるのは困難だ。チャンスをみすみす逃してしまう。
例えば、1989年に利回り曲線が逆イールド化し、90年半ばに景気後退入りするまでの間に、米国株価は30%以上の上昇となった。
同様に、2005年終盤に逆イールド化した際に株式から安全性の高い資産に移した投資家は、S&P500種指数が25%余り上昇する中で耐え忍び、安全資産への投資が実を結ぶまで2年も待つ必要があった。
その当時に何が正しくて何が間違いだったのかを区別するのは難しい。もう、こうなると運を天に任すしかない。
敢えて言えば、逆イールドは景気後退の警報というより、経済が景気サイクルの終盤にあることを投資家に示すサインと受け止めるべきであろう。言い換えれば、FRBが景気を減速させるために政策を引き締めているという解釈でよろしいかと。
もう少し分かりやすく言うと、「逆イールドが進むにつれ景気拡大期が終わりに近づく。そしてソフトランディングした場合を除き、景気後退が迫ってくる」ということである。
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(この記事は 2022年3月27日に書かれたものです)
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