米国の対イラン武力行使がイランと国際社会にもたらす影響

ニューヨークの原油先物市場では1月30日、ブレント原油が1バレル70.69ドル、WTI原油も65.21ドルで取引を終えた。この1週間の原油価格は上昇基調となった。
その主要因は、
(1)カザフスタンの最大油田テンギスの火災による稼働停止と回復の遅れ、
(2)米国での厳しい寒波とシェールオイルの減産、
(3)米国・イラン関係の緊張の高まりなどによる供給不安などである。
しかし、供給の回復の目安が立った週末には価格上昇の勢いに陰りが見え、1月31日にトランプ大統領が大統領専用機内で記者に対し、イランが米国に「真剣に協議している」と述べたことで、2月1日のWTI先物は1バレル63.32ドルの安値を付けた。
ただし、OPECプラスのなかで、イラク、UAE、オマーン、カザフスタンが生産削減計画を公表しており、何らかの要因で原油供給不足が生じた場合、OPECプラスが素早くそれを埋める「予備生産能力」は大きく低下している。
このため、仮に、現在緊張が高まっている米国とイランの間で軍事衝突が発生した場合、供給が一時的に支障をきたすリスクは高くなっている。
この軍事衝突が原油価格に与える影響については、短期間で1バレル当たり3~4ドルの上昇が見込まれ、戦闘がペルシャ湾周辺に拡大した場合は1バレル当たり70ドル超えが長期的に続くと予想されている。
そうなれば、エネルギー価格の上昇にともない世界的にインフレが起きる可能性があり、状況次第では米国で中央銀行の利下げの幅や回数に影響が及ぶとの分析もある。
そこで、以下では、米国・イラン関係について、トランプ政権が望んでいるとみられるイランの体制転換の可能性と影響を中心に考察する。
大幅な譲歩を迫られるイラン
米国とイランの間で緊張が高まる中、1月22日にイラン革命防衛隊(IRGC)のパクプール司令官が、米国に対し「最高司令官(ハーメネイ師)の命令と措置を実行する準備ができており、これまで以上に引き金に指をかけている」と述べた。
翌1月23日付のAFP通信も革命防衛隊高官の話として、米国がイランを攻撃した場合、「米国のすべての基地、拠点」がイラン軍にとっての正当な標的になると述べたと報じている。
2月1日、イランの国営メディアは、ハーメネイ最高指導者がテヘランでの演説で、「イランはいかなる国も攻撃する意図はないが」とした上で、イランを攻撃する者には「断固として打撃を加える」と述べたと報じ、また、同最高指導者は、自身のX(旧ツイッター)で、米国が戦争を始めるなら「今度は地域紛争になる」と投稿した。
このハーメネイ師の発言に対し、トランプ大統領は、フロリダの私邸で記者団を前に、われわれは世界最強の艦船を派遣しているとした上で、交渉が「合意できなければ、彼(ハーメネイ師)の主張が正しかったかどうかが明らかになる」と述べ、力による交渉合意の成功に自信を示した。
この日、ロイター通信は、米国防総省でケイン統合参謀本部議長とイスラエルのザミール参謀総長が会談したと報じている。軍事的緊張の一方で、米国とイランの交渉の話も進んでいる。
1月31日には、イラン最高安全保障委員会のラリジャニ事務局長が、Xで、米国との協議の枠組みを構築する作業が進められていると投稿している。
また、2月1日、イランのアラグチ外相がCNNの取材に答え、現地の友好国を通じ、米国・イラン間でメッセージの交換がなされており、実りある協議が行われていると語った。
同外相は、その上で、イランが核兵器を保有しないことを保証する合意を達成する機会を逃すべきではないと述べ、合意の条件として、
(1)対イラン経済制裁の解除、
(2)平和目的での核濃縮を続ける権利の尊重を挙げている。
しかし、トランプ政権が提示している交渉項目は、
(1)イランの核兵器開発だけでなく、
(2)射程500㎞以上のミサイル開発、
(3)国外の親イラン組織(フーシ派など)への支援、
(4)イラン国内の人権侵害であり、
いずれもイラン側に中止するよう求めている。
つまり、イランが軍事衝突を回避し、米国との交渉で合意するということは、かなり譲歩をしなければならないことになる。
トランプ政権の本気度
トランプ大統領は、2025年6月、イランに対し「ミッドナイト・ハンマー」作戦を実施し、B2ステルス爆撃機を含む100機以上の軍用機を使用して、イランの核施設を空爆した。
トランプ大統領は、核開発でイランとの合意がなければ、「次の攻撃ははるかに深刻なものになる」と語っていた。
1月30日付BBCニュースによると、現在、多数の米軍機が中東地域内の米軍基地(ヨルダン、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、UAE、カタール)に到着しており、早期警戒機、偵察機、戦域空中通信端末(BACN)を搭載したE11A、F-15戦闘機など多様な航空戦力が集められている。
また、2025年にイランからの攻撃を受けたカタールの米軍基地アル・ウデイドには新たに対空防衛システムが設置されていると報じられている。さらに、1月26日には、空母エイブラハム・リンカーンを中心とした空母打撃群が湾岸地域の沖合に到着している。
同空母の艦載機はステルス戦闘機F-35を含む約70機で、打撃群には対地攻撃巡航ミサイルのトマホークを搭載した駆逐艦や原子力潜水艦が随伴していると報じられている。
このような配備状況は、米軍がイランへの再攻撃の準備を終えつつあり、イランとの交渉結果を待つのみであることを示唆している。
ニューヨーク・タイムズ紙(1月10日付)は、トランプ大統領がすでに軍事的選択肢について説明を受けているものの、最終決定は下していないと報じた。
この報道の前日、同大統領は、イラン攻撃に関し「最も弱いところを非常に激しく攻撃する」と述べ、地上部隊の投入については否定した。
トランプ大統領の発言を踏まえれば、仮に、米軍が攻撃を実施するとすれば、次のようなケースが考えられる。
- ベネズエラの首都カラカスを急襲したように、ハーメネイ師の潜伏場所を正確に把握し、
身柄拘束もしくは殺害する(2025年6月時点でもハーメネイ師の行動は把握されていた)。 - イラン革命防衛隊(IRGC)、その傘下の民兵組織(バシージ)、
警官隊の司令部や拠点に限定して攻撃する。 - イランの軍事関連施設(ミサイル基地、軍事工場など)を標的とし、
イラン側の報復攻撃が不可能になるまで破壊する。 - 上記の3に加えて、IRGCが関係する営利事業、石油施設も攻撃する。
イラン攻撃のリスク
これらの攻撃の実行は、トランプ大統領の「強さ」を誇示するには有効だが、リスクもある。
第1のリスクはイランの報復攻撃があった場合の被害の大きさ、
第2は他国での軍事行動の増加により米国内で政権批判が強まること、
第3はイラン国内の政治不安の高まりが国内外に与える影響の不透明さである。
第3のリスクについては、米国の攻撃でイラン市民の生命が多数失われた場合、イラン国内で米国に憎悪を抱く人が増え、現政権がこれを利用して反政府運動を分裂させる可能性もある。
また、仮にイランの体制崩壊に成功したとしても、イランで権力の空白が生まれ、その後、革命防衛隊関係者が権力を掌握する可能性も考えられるなど、次なる体制がいかなるものになるかは不確実である。
さらに、・・・
全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2026年2月3日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/3037/
https://real-int.jp/articles/3016/















