公開日 2025年12月11日

米国との関係強化がもたらすサジアラビアへの影響

米国・サウジ戦略的防衛協定をはじめとする数多くの合意が、サウジの将来に何をもたらすかについて検討する。
米国との関係強化がもたらすサジアラビアへの影響

サウジアラビアは、イスラエルがカタールを攻撃(9月9日)した1週間後に、核保有国のパキスタンと相互防衛協定を締結した。そして、11月18日には、米国と戦略的防衛協定を結んだ。

サウジが同盟相手の多様化を図り、抑止力を高めようとしている背景には、中東地域でのイスラエルの無制限に近い軍事力行使があると考えられる。

以下では、サウジと周辺諸国および米国との関係を確認した上で、訪米したサウジのムハンマド皇太子とトランプ大統領により締結された米国・サウジ戦略的防衛協定をはじめとする数多くの合意が、サウジの将来に何をもたらすかについて検討する。

サウジと周辺諸国との関係

まず、サウジが置かれている環境を確認するため、周辺諸国との関係を概観しておく。

サウジは、マッカ、マディーナというイスラムの聖地を有する巡礼の受け入れ国であり、57カ国が加盟するイスラム協力機構(OIC)の常設事務局が置かれている。また、アラブ石油輸出国機構(OPEC)、アラブ連盟(LAS)、湾岸協力理事会(GCC)の中心的役割も担っている。

サウジの周辺には、イスラエルとイランという軍事的にバランスを取る必要がある国が存在しているが、近年、イランとは湾岸地域の安全な環境づくりの観点から緊張緩和が進んでいる。

また、もうひとつの非アラブ国家トルコについて、イスラム主義色の強いエルドアン政権と少し距離を置いている。

一方、近隣諸国からなるGCC諸国とは政治的な政策協調をはかっているものの、各国との関係には温度差がある。

トルコと同様にイスラム主義色の強いカタールとの関係はやや距離があり、アラブ首長国連邦(UAE)とは、イエメン政策およびスーダン政策で対立も見られている。

スーダンについては、2023年4月から内戦が続いており、サウジが同国軍を支援しているのに対し、UAEは準軍事組織の即応支援部隊(RSF)を支援しており、スーダンの農地から得られる食料の争奪などをめぐる両国の主導権争いともなっている。

さらに、UAEとは、石油輸出やAI大国化などでもライバル関係にあるなど、経済面では、GCC諸国間の産業調整が十分ではないことから、観光、情報、金融などの分野でも厳しい競争がある。

これまでのサウジ・米国関係

サウジは米国とは、1945年2月にスエズ運河沿いのグレート・ビター・レイクに浮かぶ船上で、アブドルアジーズ国王がルーズベルト大統領と会談して以来、良好な関係にある。

両国の2024年の物品貿易は総額259億ドルで、米国側の輸入は132億ドル、輸出は127億ドルである。また、サウジの2023年の対米直接投資は総額95億ドルで、不動産、自動車、運輸部門に重点が置かれている。

米国の共和、民主両党はサウジを中東政策の戦略的柱としており、経済関係以外にも、テロ対策や湾岸の安全保障、情報部門などで協力している。

ただ、2018年のサウジ人ジャーナリストカショギ氏(ワシントン・ポスト紙コラムニスト)殺人事件、イエメン内戦におけるサウジ軍の空爆実施、サウジでの死刑執行の増加、女性やマイノリティ、外国人労働者の人権問題など、ムハンマド皇太子の行動や施策に対し、米国の民主党政権下で厳しい批判の声が上がり、両国関係がゆらいだ時期もあった。

例えば、2021年からのバイデン政権下で国家情報長官事務局(OPNI)が、カショギ氏事件でムハンマド皇太子が拘束または殺害の計画を承認していたと結論付け、バイデン政権はムハンマド皇太子の人権対応を憂慮すべき問題として、同皇太子と距離を置いた。

一方、トランプ大統領は2025年5月、第2次政権の初の訪問先にサウジを入れ、同国での「米国・サウジ投資フォーラム」では両国間で3000億ドルに上る商談をまとめた。さらに、同フォーラムに出席したムハンマド皇太子は、6000億ドルの対米投資を検討していると公表した。

このようにトランプ大統領と良好な関係にあるムハンマド皇太子が、同大統領と距離を置いているのがパレスチナ問題である。

トランプ大統領はイスラエルとの国交正常化(「アブラハム合意」への参加)を求めているが、ムハンマド皇太子は、イスラエルとの関係改善はパレスチナ問題の2国家解決が前提との「アラブ和平イニシアチブ」(2002年に当時のアブドラ皇太子が提案)を堅持する姿勢を崩していない。

2025年7月、フランスとともに2国家解決の推進を内容とするニューヨーク宣言をまとめ上げてもいる。この他、サウジは、ロシアや中国とも緊密な関係を築いており、米国偏重の対外政策をとっているわけでもない。

11月18日のムハンマド皇太子のワシントン訪問

今回のムハンマド皇太子の米国公式訪問(11月18日~19日)では、サウジ・米国の戦略的パートナーシップの強化だけでなく、サウジのイスラエル関係の改善が進むかが国際的に注目された。

11月20日のサウジ側の公式発表によると、両国が合意、署名した主要事項は以下のとおりであり、イスラエル関係については含まれていない。

(1)戦略的防衛協定(SDA)
(2)AI戦略的パートナーシップ
(3)民間原子力協力に関する交渉の完了に関する共同宣言
(4)ウラン・永久磁石・重要鉱物のサプライチェーンの確保に関する協力の戦略的枠組み
(5)サウジの投資を加速させるための手続きを促進するための合意
(6)経済繁栄のための金融・経済連携協定
(7)金融市場当局センターにおける協力に関する取り決め
(8)米国の自動車安全基準の相互承認
(9)教育・訓練分野の覚書

また、11月19日のサウジ投資庁主催の「サウジ・米国投資フォーラム」では、両国の企業間で新規投資や技術協力などが見られ、トランプ大統領によると「数十の企業間で、2700億ドル規模で商談が締結された」。

両首脳の共同記者会見では、ムハンマド皇太子が対米投資額を5月に発言した6000億ドルから1兆ドルに引き上げるとも述べている。さらに、サウジ政府の発表では言及されなかったが、両国にとって大きな出来事は、米国がサウジを「主要非NATO同盟国」(MNNA)に正式に指定し、軍事協力を一層強化したことである。

それに合わせるように、トランプ大統領は最新鋭戦闘機F-35(サウジは48機を検討中)と戦車300両の売却を承認している。

今回の訪米について、ムハンマド皇太子は「われわれの歴史の中で、非常に重要な時」と表現し、数々の合意は「両国にとって互恵的なものだった」と述べている。

一方、トランプ大統領は、「より強力で有能な同盟関係が構築され」、中東地域がこれまでで最も「真に永遠の平和」に近づいていると語り、今後の支援にも言及した。

ムハンマド皇太子の評価向上への寄与

ムハンマド皇太子の訪米で合意された両国間の戦略的防衛協定は、サウジ側が希望した米国議会の承認を得たものにはなっておらず、F-35戦闘機の売却も期待したものより低性能になる可能性がある。

それでも、両国間のパートナーシップが強化されたことは、サウジの安全保障の確保という国益に資するもので、ムハンマド皇太子が挙げた大きな成果といえる。

また、トランプ大統領に2023年4月から続くスーダン内戦への仲介強化を承諾させたことは、同問題でのUAEとの対立において優位性を得ることにつながるため、同皇太子の国内評価を上げる可能性がある。さらに、巨額の商談の合意が発表されたことは国際的な注目を浴びた。

例えば、AI分野では、米国の半導体企業エヌビディアの最先端AI半導体ブラックウェル(GB300)のサウジへの輸出承認、イーロン・マスク氏率いるxAIのサウジが支援するAIベンチャー・ヒューメインによるサウジでのデータセンター建設などが挙げられる。

また、米国のレアアース生産企業MPマテリアルズとサウジ国営鉱業会社マアデンとの協力で、サウジにレアアース精錬所を建設することも合意された。

これらの商談の成立と、サウジによる1兆ドルの対米投資の発表は、国内外でのムハンマド皇太子の評価を向上させた。

トランプ大統領が得た実利

一方、トランプ大統領にとっても、物価高対策で十分な効果が上けられない中、自身の交渉手腕を国内外にアピールするよい機会となった。

しかし、同大統領にとってより重要だったのは、より個人的な実利を得たことかもしれない。

今回のサウジとの交渉で、次男エリック氏が取り仕切っているトランプ・オーガニゼーションがリヤド郊外のディルイール(サウド王家の最初の拠点があった場所)の開発に参画したとの報道があるからである。

トランプ・オーガニゼーションは、すでにリヤド、ジェッダでのトランプタワーの建設をはじめ、カタール、オマーンでのゴルフ場建設など湾岸アラブ産油国の政府と関係を結ぶことで不動産開発を行っており、今回のディルイールの開発はさらなるビジネス拡大につながる可能性がある。

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全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2025年12月7日に書かれたものです)

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プロフィール

水口章

水口章

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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