最近の注目される国際エネルギー動向とイラン情勢

北半球が冬に向かう中で、エネルギー価格の上昇を招く恐れのある3つの動きがある。
トランプ大統領が制裁措置の発表
第1は、米国のトランプ大統領が、10月21日のロシアのプーチン大統領との電話会談を受け、ロシアがウクライナとの和平に真剣に取り組んでいないとして、翌日、制裁措置を発表したことである。
制裁対象はロシアの2大石油企業「ロスネフチ」と「ルクオイル」で、23日には原油価格が前日より約5%上昇している。
カタールのカアビー・エネルギー相の見解
第2は、液化天然ガス(LNG)輸出国であるカタールのカアビー・エネルギー相が10月16日、EUが域内で事業を行う大企業に義務付けようとしている「企業の持続可能性デューデリジェンス指令」(CSDDD)について、廃止もしくは修正しなければ、EUへのLNG供給ができなくなるとの見解を示したことである。
現在、協議中のCSDDDの主な内容は、EU市場で事業を展開している域外企業に対し、
(1)サプライチェーンにおける人権基準の遵守、
(2)2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを達成する方針の策定、
(3)違反企業に対し世界売上高の最大5%の罰金を科すというものである。
カタールはロシアのウクライナ侵攻後、EUのLNG需要の12%~14%を供給している。10月22日には、米国がカタールと共同でEUに、CSDDDの廃止もしくは修正を求める内容の書簡を送付している。
EUは、ウクライナ戦争が続く中、脱ロシア政策としてLNGの調達先を米国に転換しており、冬期に向かって厳しい選択を迫られている。
スナップバック採択
第3の動きは、9月27日(日本時間28日)に、国連安保理でイランの核開発問題をめぐり2015年の核合意で解除した制裁の再発動(スナップバック)が採択されたことである。
スナップバックにより、イランの石油輸出はさらに厳しい状況になるとみられる。そのことに加え、イランでは、ハーメネイ最高指導者の政治顧問のアリー・シャムハニ氏に関するスキャンダルなどで、体制批判が高まっており政情不安が懸念されている。
以下では、上記3つの動きについて、石油・LNGの輸出国であるイランの国内外の情勢を中心に考察し、冬期のエネルギー供給側の動向を考える一助としたい。
対ロシア制裁の原油価格への影響は小さい
国際エネルギー機関(IEA)は、原油需要のピークを2029年と予測し、2025年には日量300万バレル、2026年には240万バレルの供給過剰を予測しており、石油輸出国機構(OPEC)も、原油価格の低下を阻止するため減産調整を行っている。
一方、米コンサルティング会社のマッキンゼーは、10月17日、世界各地でのデータセンターの建設による電力需要が2022年から2030年にかけて、経済協力開発機構(OECD)諸国を中心に年平均17%増加するとの見通しを示した。
このため、石油、ガス、石炭の化石燃料は今後も継続的に使用されるとの見方から、OPECは、石油、ガス産業へのさらなる投資が必要との従来の見解を改めて表明している。
このように化石燃料についての見解が分かれる中、トランプ政権はロシアの石油企業への制裁措置を発動した。
これを受けて10月23日にクウェートのローミー石油相がOPEC諸国で減産量の縮小をする用意があると表明した。
原油価格については短期的には、供給不安はなく、現状の1バレル60ドル~70ドルのレンジ内で推移すると考えられる。
LNG市場の見通しは不透明
一方、LNGに関しては、IEAのビロル事務局長が10月27日、今年から来年にかけてLNGの供給が急増し、LNG価格を押し下げるとの見方を示した。
ただ、10月22日、国連環境計画(UNEP)が衛星システムを使って観測した結果、メタンガスの大量湧出(約3500件)が明らかになっている。
そのことで、11月にブラジルで開催される国連気候変動枠組み条約国際会議(COP30)を前にして、メタンガス、二酸化炭素の排出削減をすべきとの意見も出ている。とりわけ、石油・ガス部門で排出されるメタンガスについて対策強化を求める声がある。
その背景には、2021年に、150カ国余りが2020年代にメタン排出量を30%削減することで合意していることがある。
したがって、EUがカタールと米国によるCSDDDの廃止もしくは修正要求をすんなりと受け入れる蓋然性は小さいと見られ、仮に、EUが妥協案を提示しない場合、LNG市場が供給過剰であっても、短期的には買い先変更にともなう混乱が予想される。
注視が必要なイラン情勢
このところ、イランの政権は国内外の圧力にさらされている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2025年10月27日に書かれたものです)
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