米中関税合意をどうみるか?

対中関税率を145%から30%に引き下げ
5月12日、米中両政府は互いに課した高関税の応酬を一時停止することを合意した。トランプ政権誕生後の、両国の関税引き上げの動きを振り返っておこう。
トランプ政権は2月4日、違法薬物対策として10%の追加関税を課し、中国は同月10日、報復措置としてLNGや石炭などに石炭15%の追加関税を課した。これに対し、米国は3月4日、関税率を20%に引き上げたが、中国は同月10日、大豆やトウモロコシに対し、最大15%の追加関税を課した。
さらにトランプ政権は、4月2日に公表した相互関税で、中国に対する関税として、基本税率10%と上乗せ部分24%で、合わせて34%の関税をかけることを決めた。
これに対して、中国が同率の報復関税を課し、さらに、米国側も追加関税をかけ、中国がそれに報復するという、チキンゲーム的な関税引き上げの応酬となった。
最終的に、米国の対中関税率は累計145%に、中国の対米関税はLNGや大豆、トウモロコシへの関税のほか、125%の報復関税率がかけられるという異常な事態になっていた。
そこで今回の米中合意については、次のようなものになった。
米国が中国の報復措置を理由に引き上げた分の相互関税の税率(91%ポイント分)を撤回し、相互関税を当初の34%(基本税率10%プラス上乗せ部分24%)に戻したうえで、上乗せ部分の24%については90日間停止し、基本税率の10%とすることとした。
米国の対中関税率は違法薬物対策としての20%に、基本税率の10%を加えた30%となった。最高145%に引き上げられた関税率は、少なくとも8月上旬までの90日間は、115%ポイント引き下げられることになった。
中国側も同様な措置をとり、125%に引き上げられた報復関税のうち91%ポイント分を撤回し、関税率を当初の34%に戻したうえで、米国の上乗せ部分に相当する24%については90日間停止することとした。
中国の対米関税は違法薬物対策として米国が中国に課した関税への報復措置として実施されているLNGや大豆への関税は残るが、最高125%に引き上げられた関税率は115%ポイント引き下げられ、10%となった。
予想以上の関税率引き下げの背景は?
米中間で関税率引き上げの応酬がエスカレートするなかで、予想以上の関税率引き下げとなったのは、トランプ政権がそうしたチキンゲームに耐えられなかったからだとみる向きが多い。
100%を超える関税率は、相互の貿易がほとんど停止するレベルだ。消費過剰国である米国と生産過剰国である中国は、グローバル経済下では、貿易によってウィン・ウィンの関係を続け、それぞれ高い成長を維持していくことができた。
ところが、米中の貿易が停止すれば、米国は供給不足になり、中国は需要不足になる。需要不足に陥る中国は内需拡大策によって、需要不足分を、ある程度補うことができるが、米国は供給不足を乗り切る方策がなかなか見当たらなかった。
また、一党独裁により国民の支持を得る必要のない習近平政権は、多少の景気悪化があっても、世論を無視することができるが、トランプ大統領は選挙での国民の支持を得なければいけない。
4月21日には、ウォルマートとターゲット、ホーム・デポといった、米国を代表する3つの小売業者の幹部らがホワイトハウスを訪れてトランプ大統領と会談し、関税が消費者物価を押し上げ、サプライチェーンに混乱をもたらし、供給不足を引き起こす可能性があるとして、関税負担の軽減を要請していた。
また、中国側はこの間、関税以外にも、米ボーイングの航空機の納入停止やレアアースの輸出制限などの措置を実施し、米国内企業を通じたトランプ政権への圧力を強めていた。
4月2日にトランプ政権が公表した相互関税は、金融市場の動揺に合い、上乗せ部分の発動を見送らざるをえなかった。
その結果、関税への報復措置を実施しなかった日本、韓国など多くの国に対する相互関税は、基本税率の10%だけとなり、上乗せ部分の発動が90日間、延期されることになった。
90日経過後の7月上旬に、上乗せ部分の発動がなされるかどうかは、今後の対米交渉次第となる。
それとほぼ同様に、関税への報復措置を実施した中国に対しても、関税は、米国民世論の反対と中国からの揺さぶりに合って、トランプ政権は軟化せざるを得なかった。
結果として、少なくとも非現実的な水準に引き上げられた関税については撤廃せざるをえず、他国同様に、相互関税は基本税率の10%だけとなり、上乗せ部分である24%は、90日間停止して、8月中旬までは、基本税率だけとなった。
中国がトランプ政権の要求に応ずる可能性は小さい
関税率の大幅引き下げによって、金融市場では米中の貿易摩擦が緩和に向かい、世界経済の悪化が避けられるのではないかという期待が強まり、株価も急反発した。
足元の米国の経済指標をみると、駆け込み需要などのために、むしろ好調な推移を示している指標も多く、今回の米中関税合意によって、この先の景気減速も避けられるといった楽観的な期待もあるようだ。
だが、 ・・・
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2025/5/19の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。