金の物語 宇宙の輝きから現代の貴重な資産まで

星から生まれた輝き
金はどこから来たのでしょう?普通に考えるとそれは「金鉱山において深い地中から掘り出される」が答えになります。しかし、その前は?実は金は遠い遠い昔に、宇宙のどこかで起きた超新星爆発の中で誕生しています。恒星が燃え尽きて起きる星の最後の瞬間です。この時、軽い元素同士が衝突し合い核融合が起き、その結果として金が生まれたのです。それが宇宙にばらまかれました(一定以上の質量の元素はこのようにして誕生しています)
そして、新たな惑星が誕生するときにその中に取り込まれました。それが地球の鉱山に眠っている金なのです。
金は単なる金属ではありません。宇宙の歴史を宿し、人々の夢や文化、経済を輝かせる鏡のような存在です。それでは、金が星の光から現代の貴重な資産へと変わる物語を始めましょう!
★1 星の贈り物と金の魅力
まさに星の贈り物と言える金の魅力は、見た目の美しさだけではありません。
金は、非常に柔らかく、1オンス(約31グラム)の金は長さ80キロメートルのワイヤーに伸ばしたり、9平方メートルの薄いシートに延ばしたりすることができます。
金は、錆びず腐食せず、汗や体液にも強いので、結婚指輪やネックレス、腕時計のバンドにも最適です。そして、驚くことに、わたしたちの血液にもごく少量ですが金が含まれています(一般的な成人の場合で0.2ミリグラム〜0.4ミリグラム)自分の体内に金が含まれているなんて不思議に思いませんか?
現代では、金は科学技術の最前線で活躍します。金は優れた導電体なので、スマートフォンやオーディオ機器の回路に金のコネクタが使われることにより高品質の信号を伝えます。宇宙飛行士のヘルメットでは厚さ0.00005ミリメートルの金メッキが太陽の熱を遮ります。数々の精密な星の写真を撮影したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のミラーも金の薄膜でコーティングされています。これにより高い性能を発揮しているのです。
医療分野では、金ナノ粒子ががん治療に役立っています。特定のがん細胞に選択的に結合させて死滅させることができるのです。
このようにして、宇宙から来た金が、わたしたちの生活を支えているのです。
★2 金貨と人間の夢
ここで、時代をぐっと遡ります。
紀元前600年、現在のトルコにあたるリディア王国。クロイソス王は知恵と富で知られ、ここで人類初の金貨が作られました。金と銀の合金(エレクトラムと呼ばれる自然界でできた合金)でできた硬貨には、王の肖像や、ライオンや、牛の像が刻まれ、力と繁栄を象徴しました。ある商人、アリオンは、この金貨を手に地中海を旅しました。どこでも通用する金貨は、まるで魔法の通行証のようでした。
アリオンがギリシャに着くと、パルテノン神殿でで、金で飾られたアテナの像に驚きました。金は神々とのつながりを表し、寺院を荘厳に彩りました。ローマでは、皇帝が自らの肖像を刻んだ金貨「アウレウス」を作り、兵士の給料や公共事業に使いました。金は権力の象徴だったのです。
中世ヨーロッパでは、商人が金貨を噛んで本物か確かめていたこともあったようです。金は柔らかいので、歯で噛むと跡が残ります。少しユーモラスな光景ですよね。錬金術師たちは、金を飲めば不老不死になれると信じ、なんと「飲む金」を調合しました。効果はなかったものの、金への憧れは尽きませんでした。
エジプトのツタンカーメン王の重さ11キログラムの黄金のマスクは、永遠の命を願う心を映します。インカ帝国では、金は太陽神の汗とされました。これらは、金がどれほど人を惹きつけるかを物語っています。
1848年、アメリカのゴールドラッシュ。ある農夫、ジョンは一攫千金を夢見てカリフォルニアへ旅立ちました。冷たい川で砂金をすくい、小さな金塊を手に入れ、新しい生活を始めました。しかし、ゴールドラッシュは先住アメリカ人に深い傷を残しました。金は輝く夢と、時に悲しい影を併せ持つのです。
★3 日本の金と美しい文化
日本での話をしましょう。
日本の金の物語は、独特の美意識と深く結びついています。奈良時代、東北地方や九州地方で産出された金は、奈良の東大寺大仏を金箔で覆うのに使われました。できた当時の大仏は金色に輝いていたのです!
江戸時代のある武士、佐々木平蔵は、手柄をたてたため、佐渡金山の金でできた小判を手にすることができました。その輝きは、徳川幕府の力を象徴していました。佐渡金山は約400年間稼働し、今は観光地として金の歴史を伝えています。
京都の金閣寺は、金箔で覆われた姿が池に映り、夢のような美しさです。ある観光客、俊太郎は、太陽の光を反射する金閣寺に心を奪われました。
石川県金沢は、日本の金箔の生産の中心であり国内の金箔の98%以上を生産していて、それは仏壇や漆器等に使われます。金箔は1/10,000ミリメートルの薄さであり、繊細な輝きを放ちます。江戸時代の金屏風は、将軍の権威を示しました。江戸幕府おかかえの絵師、狩野派の画家が、金の背景に自然や動物を描き、空間を豪華に彩ったのです。
金は食文化にも溶け込みます。金沢の金箔ソフトクリームは、見た目の贅沢さが人気です。「金継ぎ」をご存知でしょうか。ある陶芸家、美穂は、割れた茶碗を金で修復し、新たな美しさを生み出します。壊れたものを愛でる日本の心は、とても美しいですよね。
冒険家マルコ・ポーロは日本を「ジパング(金の国)」として西洋世界に紹介しました。これが後にコロンブスの新大陸発見につながります。コロンブスは西廻り航路でインド(香辛料が目当て)やジパング(金が目当て)に行こうとしたのです。
★4 現代の金と世界の経済
2025年4月18日、東京の金融街。ある投資家、健太は、スマートフォンで金価格をチェックしました。1オンス3,300ドル! 過去最高をまた更新しました。健太は金ETFに投資し、経済の変動から資産を守ります。米中貿易戦争や地政学的緊張が、金価格を押し上げています。ゴールドマン・サックスは、2025年末に3,700ドルに達すると予想。金は、動揺する時代に頼りになる存在です。
世界の中央銀行は、37,75トンの金を保有しています。アメリカが8,133トンでトップ、ドイツ、イタリア、フランス、ロシア、中国が続きます。2022年のロシア資産凍結以来、ポーランドやトルコなど新興国が金を買い足しています。インドは879トン、中国は2025年2月に5トンを追加しました。金は、経済危機の命綱なのです。
投資家も金を愛しています。世界の金ETFは合計では約3,300トンの金を保有しています。インフレやドル安による資産の目減りを防ぐために金を保有することは魅力的な選択肢です。
日本では、電子廃棄物から金をリサイクルする「都市鉱山」が注目されています。1トンの廃棄物から約500グラムの金を回収することができます。環境に優しい方法です。
★5 インドと中国の金の需要
インドと中国は世界の二大金重要国です。
ムンバイの賑やかな市場。ある花嫁プリヤは、結婚式のために22金のネックレスとバングルを手に取ります。インドでは、金は幸福と繁栄の象徴です。ディワリなどの祭りで金は大人気。特に結婚においては、父親が娘に贈る「花嫁道具」として、金のジュエリーが欠かせません。これは娘の新生活を支え、家族の名誉を示す伝統でもあります。2024年、インドは802.8トンの金を消費し、2025年は700~800トンと予測されます。プリヤの家族は、金を貯蓄と投資の両方と考え、将来の安心につなげます。
中国では、もともと金が人気の商品でしたが、不動産市場の暴落よる景気後退懸念、人民元への信頼の薄さから、近年、個人投資家は資産保全のためにも金を求めています。2024年、個人投資家は金ETFに14億人民元(約19億ドル)を投資しました。
インドと中国の金需要は、世界市場を動かします。インドの花嫁道具や中国の安全資産需要が、価格高騰でも需要を支えます。両国の金への渇望は今後も続いていくでしょう。
★6 金の意外な話
オリンピックの金メダルは、実はほぼ銀です! 2020年東京オリンピックでは、556グラムの銀に6グラムの金メッキが施されました。アスリートにとって、栄光こそが本当の金なのですね。
海洋には1500万トンもの金が含まれますが、濃度が低いために採取は難しい。また取れたとしても商業的にはとても採算が合わないようです。火山の溶岩にも金が混じりますが、商業的採掘は難しいようです。
★7 なぜ今、金が注目されるのか?投資家と中央銀行の動き
2025年、金は大きな注目を集めています。なぜこれほど人気なのか、投資家や中央銀行の動きから探ってみましょう。世界の金市場の規模や、毎日どれだけの金が取引されているかも見ていきます。
*なぜ金が人気なのか
最近、金の価格は1オンス3,300ドルを突破し、過去最高を更新しています。人気の主な理由は3つあります。
(1) 世界経済の不安定さと安全資産の魅力
米中貿易戦争、中東や台湾の緊張、トランプ政権の関税政策により、世界の経済は不安定感覚に包まれています。ドルや株式の信頼に揺らぎを感じ始めた投資家によって、金が「安全な避難所」として注目されています。金はインフレや通貨価値の低下に強く、投資家にとって頼れる存在なのです。
(2) ドル安と金ETFの人気
金はドルで取引されるため、ドルが弱まると外国の投資家にとって金が割安と判断されることから、購入が増える動きが見られます。2025年、ドルは弱含みで、金ETFに資金が流れ込んでいます。2025年第1四半期には226.5トン(約90億ドル)の金ETFが買い越されました。インフレが続き、株式や債券のリターンが不安定な中、金は魅力的な選択肢です。金の現物と違い、ETFは手軽に金に投資できるので、若い投資家にも人気です。
(3)中央銀行の積極的な購入
中央銀行の金購入も価格を押し上げています。2024年、世界の中央銀行は1,044.6トンの金を買い足し、3年連続で1,000トンを超えています。特に中国、インド、トルコなど新興国の中央銀行が、ドル依存を減らすため金を増やしています。2025年11月、中国人民銀行は5トン、12月に10トンを追加。ポーランドは2024年に89.54トン、トルコは第1四半期に30トンを購入しました。金は経済危機や制裁リスクに強い「保険」なのです。
*中央銀行の金備蓄量
世界の中央銀行は、2024年末時点で37,755トンの金を保有しています。これは、史上掘られた金の約17%に相当します。トップ10の国の備蓄量は以下の通りです:
アメリカ: 8,133トン(外貨準備の79%)
ドイツ: 3,352トン(国内およびニューヨークやロンドンに保管)
イタリア: 2,451トン(国内1,100トン、残りは海外)
フランス: 2,437トン(すべて国内)
ロシア: 2,332トン(モスクワとサンクトペテルブルク)
中国: 2,262トン(2025年12月時点)
スイス: 1,040トン
日本: 846トン
インド: 879トン(外貨準備の11.5%)
オランダ: 612トン
国際通貨基金(IMF)も2,814トンを持ち、3番目に多い保有量です。中央銀行は、金を経済の安定剤として重視し、特に新興国はドルやユーロの代わりに金を増やして制裁リスクや通貨安に備えています。
*世界の金市場の総額
これまでに掘られた金は、2022年末時点で約209,000トン、約22.1兆ドルの価値です。
内訳は:
宝飾品:約半分
投資用(金塊、コイン、金ETF):約4分の1
中央銀行の備蓄:約16%(約2兆ドル)
です。
世界の金融市場における金市場の規模は約18兆ドルと推計されています(様々な推計あり)それは世界の金融資産(460兆ドル〜510兆ドルと推計。2022年時点)の4%くらいと推計されます。金は大きく値動きがある場合もありますが、株式に比べ安定性が高いとされ、投資家に人気です。
*毎日どれだけの金が取引されるか
金の取引は非常に活発です。2024年の平均で、毎日約2,300億ドルの金が取引されたと推計されています。
*金の未来
金の人気は2025年も続きそうです。世界金評議会(World Gold Council)の調査では、81%の中央銀行が今後1年で金備蓄を増やすと回答。投資家も、インフレや金利低下で金ETFに資金を投入する可能性があります。J.P.モルガンは、2025年に金価格がさらに上昇すると予測。特に中国の投資家は、人民元の価値下落リスクから金を求める傾向です。金の輝きは、これからも目が離せません。
★永遠に輝く金
金は、星の爆発から始まり、地球を旅してわたしたちの手に届きました。
商人アリオンの金貨、佐々木平蔵の小判、金閣寺の輝き、銀行員マリアの管理する金、花嫁プリヤのジュエリー、投資家健太のETF。金は、さまざまな人の物語を紡ぎ、時代を越えていきます。
これからも、金は輝き続けるでしょう。宇宙で星から誕生し、地球では人々の富を守ります。指輪の小さな輝きに、宇宙の歴史と職人の心が宿っています。金は、過去と未来、地球と宇宙をつなぐ永遠の宝物なのです。