インフレ懸念再燃で米長期金利が上昇
米景気全般が好調ななか「雇用だけがさほど良くない」という見方があったが…
米国経済は力強く拡大している。
GDP経済成長率は2024年1~3月に前期比年率1.6%と一時鈍化していたが、4~6月に同3.0%に加速、7~9月は10月末に発表された暫定推計値が同2.8%と伸びは4~6月に比べやや鈍化するという数値だったが、12月に発表された最終推計値は同3.1%と結局、成長率は一段と加速していたことが明らかになった。
月次の経済指標は、10月以降の経済が引き続き力強く拡大していることを示している。1月10日に発表された12月の雇用統計によれば、非農業雇用者は前月比25.6万人と増加した。前月(同21.2万人増)から減速するとの予想(事前予想は同13万人増)に反して、増加幅が加速した。
米景気は全体として良好だが、そのなかで雇用関連指標は良くないという見方が根強かった。理由としては、下記などが挙げられる。
1.求人数の減少
求人数は2022年3月の1,218万人から24年12月は810万人に減少、ただし、24年9月の737万人をボトムに10、11月は2か月連続で増加した
2.自発的離職率の低下
自発的離職率は11月に1.9%に低下し、労働者にとって割の良い職を探すことが困難になっていることを示す
3.長期失業者の増加
失業保険継続受給者数が188万人と高止まっている
また、事業所調査ベースの雇用者数の増加幅に比べて、家計調査ベースの就業者数の増加幅が小さい(その結果、失業率もさほど低下していない)ことから、掛け持ちでダブルワークをしている労働者も多いのではないか、といった推測もでき、労働市場が構造的に変化している可能性が窺われる。
9月以降の急速な利下げに関しても、景気全体としては良好ながらも、雇用の減速が利下げの理由の一つになっていた。
金融市場は、8月初めに発表された7月の雇用統計で失業率が4.3%に上昇(その後4.2%に下方修正された)し、景気後退懸念が高まったことを問題視した。
そのため、9月以降のFEDの利下げが正当なものだと受け入れた。だが、サンプルも多く、統計としても信頼性の高い、事業所調査ベースの「非農業雇用者数」の増加は、雇用指標の良さを示すにほかならない。
3か月を均した非農業雇用者の増加幅は、昨年4~6月が月平均14.7万人、7~9月が同15.9万人、10~12月が同17.0万人と増加幅は次第に加速している。
労働生産性の伸びが4~6月、7~9月と同程度であるとすれば、10~12月の成長率は4~6月、7~9月を上回ることになり、3%を超える計算になる。
毎日発表される経済指標から当期のGDP成長率を推計するアトランタ連銀のGDPナウによれば、10~12月の成長率は、10日に発表された12月の雇用統計の数値を織り込んでいない1月9日現在の推計値で2.7%となっていた。
今回の雇用統計を織り込んだ10~12月のGDP推計値は、年率3%程度に上方修正されるだろう。もはや「景気全般が堅調ななかで雇用関連指標はさほど良くない」とは言いにくい。
FEDは昨年9月FOMC時点で1.0%と予想していた25年中の利下げ幅を、12月FOMCでは0.5%に縮小した。
今回の雇用統計を受けて「利下げ休止の論拠が裏付けられた」といった、FEDが25年の利下げ幅を小さくしたことについて、好意的な見方も多い。
だが、後述する通り、2%目標に向けて低下しているはずだったインフレについて「低下の動きが足踏みしている」どころか「上向きに転じ始めている」ことは、もはや否めない。
インフレ懸念が再燃していることを考えると、雇用の悪さを理由に行なった9月以降の大幅利下げは「間違い」だったか、あるいはバイデン大統領の選挙戦を支援するための「政治的な思惑」によるものだった、と言われても仕方がないだろう。
景気過熱によりインフレ懸念が再燃へ
結局、成長率は、潜在成長率(2%程度)を大きく上回り、スピード違反気味に拡大していることになる。経済が好調なのは良いことだが、強すぎると過熱気味になり問題だ。
実際、昨年12月の失業率は4.1%と前月(4.2%)に比べ低下した。ちなみに、12月FOMCでの24年末失業率の予想も4.2%だった。失業率が低いことは、労働需給がひっ迫していることを示している。
ヒトやモノの需給逼迫を反映して、鈍化傾向だった賃金や物価は上向きつつある(図1参照)。
このグラフからは「インフレが目標の2%に向けて低下傾向を辿っている」、あるいは「2%に向けて低下傾向を辿っているが、足元は低下の動きが足踏みしている」とは言いにくいだろう。
加えて、トランプ新大統領の関税引き上げなどの政策を反映してか、消費者のインフレ期待も高まっている。
1月のミシガン大の調査による5~10年先のインフレ期待は3.3%と前月の3.0%から上昇し、2008年以来の高水準になった。
消費者のインフレ期待は、実際のインフレ動向を反映して動くこともあるが、高いインフレ期待が高い賃上げや旺盛な消費需要につながり、実際のインフレ率を押し上げることにもなる。
実際の賃金や物価が上向きつつあり、しかもインフレ期待が上向きつつあるなかでは、本来、それを抑えるために金融政策は引き締めに向かわなければいけないはずだ。
ところが、FOMCの金利予想は、利下げ幅が少なめに修正されたとはいえ、いまだに25年中の0.5%利下げが予想されており、金融市場でも利下げを支持する向きが多い。
・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2025/1/14の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
関連記事
https://real-int.jp/articles/2738/
https://real-int.jp/articles/2737/