円安は本当に日本株の上昇要因なのか?
円安が株価を押し上げる理屈とは?
日本の株式市場には根強い円安志向がある。円安になれば株価は高くなるし、円高になれば株価は安くなるという考え方だ。
実際、今年夏場の株価急落の際には、米国景気の後退懸念の高まりと日本の利上げで、円高が進んだ。
7月29日の154円から8月5日に144円と1週間で10円超の円高になった。そして、この円高に連れて、日経平均株価は8月1日の3万8,126円から2営業日後の8月5日3万1,456円と急落した。
そうしたこともあってか、今や、日本の株式市場では円高恐怖症に近いものがある。
では、なぜ、円安が株価にとってプラスで、円高が株価にとってマイナスなのか。
しばしば言われている理屈は、以下の点だ。
(1)円安になれば、輸出企業などか得る外貨建て収益が膨れ上がり、
企業の利益が増加しやすい、
(2)円安になれば、外貨建てでみた株価(例えば、ドル建て日経平均株価)が
下落することになり、日本株が外国株に比べて割安にみえる、
だが、円安→株高、円高→株安という因果関係が本当にあるのかどうかは疑問だ。まず、理論的な考え方を整理してみよう。
株価の説明要因として、企業の将来の利益を現在価値に還元したものが株価であるという説明が一般的であり、その説明から言えば、
株価 = 企業の現在の当期利益 ÷( 割引率 - 予想利益成長率 )、になる。
この式の中の「割引率」は、企業の将来の利益を現在価値に割り引くためのもので、金利がこれに影響する。このため、金利が高ければ高いほど、割引率は大きくなり、その際、株価は下落する。
また 同式からわかるように、企業の利益の成長率予想が高ければ高いほど、株価は高くなる。企業の現在の当期利益水準が高ければその分、株価は高くなるが、仮に、当該企業の現在の利益水準が低くとも、成長性が高いと見込まれるのであれば、株価は高くなるというわけだ。
この説明からすると、確かに金利の動きは株価に影響する。だが、為替相場の動きについては、直接、株価に影響するわけではない。
為替相場が株価に影響するとすれば、為替相場の動きが企業の当期利益水準を左右するかどうかにかかってくる。
円安は企業の利益を増加させるのか?
そこで、為替相場の動きが本当に企業の利益に影響するのかを調べてみよう。
1970年代以降のドル円相場の前年同期比騰落率と法人企業統計による金融・保険を除く全規模・全産業の経常利益の前年同期比増減率を並べてみたものが図1だ。
これをみると、2010年代の一時期を除いて、両者の相関関係はそれほど明らかではない。1971年~2024年の全期間での相関係数はマイナス0.03で、「相関関係はない」と言っていい。
約20年刻みで、両者の相関係数を測ってみても、1971~1989年がマイナス0.17、1990~2009年がプラス0.08、2010~24年がプラス0.06といずれもゼロに近く、やはり、相関関係はない。
ただし、異次元緩和が始まった2013年からコロナショック前の2013~19年だけをみると、相関係数は0.60と高い。
この当時、異次元緩和が円安につながったことは事実だが、東日本大震災によって低迷する経済状況のなかで、財政金融両面での景気刺激策が実施され、景気が上向いたことが企業の利益を押し上げた。
このため、円安が直接的に企業の利益増加にどの程度寄与したのかははっきりしない。
両者の関係ははっきりしないが、円安と株高が同時に進んだ、こうした2013~19年の記憶を頼りに、円安が株価にとってプラスだと言われているのかもしれない。
実際、両者の動きの先行・遅行関係をみると、経常利益の動きが先行し、ドル円相場が遅行しているようにみえる。
そうした先行・遅行関係から言えば、両者に、円安(円高)→利益増加(減少)という因果関係があるとは言いにくい。どちらかと言えば、逆に、利益増加(減少)→円安(円高)になったと言わなければならなくなる。
最近の両者の動きをみても、やはり、利益の動きが先行し、円相場が遅行しているようにみえる。最近の利益が円相場に先行しているようにみえるのは、以下のようなことなのではないだろうか。
世界的なインフレに伴う売上増加で、日本企業の利益は増加した。一方、インフレに対応した日本と海外中銀の引き締め時期に差があったため、ドル高円安になった。
つまり、・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/12/16の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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