トランプ輸入関税 米国経済への影響は!?
トランプ氏は就任早々、公約通りに輸入関税を導入へ
1月20日に大統領に就任予定のトランプ氏は、11月25日、SNSへの投稿で、メキシコとカナダからの輸入に25%、中国からの輸入に10%の追加関税を就任初日に課す意向を示した。
トランプ氏は大統領選挙期間中に、対中輸入に60%の追加関税、そのほか全世界からの輸入に一律10~20%の関税、メキシコからの自動車輸入に200%以上の関税を課す、といった公約を提示していた。11月25日に発表された輸入関税措置はその一部と考えられる。
メキシコ、カナダに対する輸入関税は、両国から流入する麻薬と違法な入国者が理由とされる。「数千の人々がメキシコとカナダを通じて米国に流入しており、犯罪と麻薬を持ち込んでいる」と述べ、麻薬と違法入国者の流入が止まるまで、関税措置は続けられるとした。
米国はメキシコとカナダの間に、20年7月に、北米自由貿易協定(NAFTA)の後継である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を締結している。同協定の原産地規則を満たした製品の域内貿易については、基本的に関税が免除されている。
そうしたなか、メキシコ・カナダを通じて他国、特に中国製の部品を使った自動車などの完成品が米国に関税なしで流入することに、トランプ氏は強い不満を持っていた。
今回のメキシコとカナダに対する輸入関税はそうしたことへの対応と考えられる。世界各国の多くの企業が、メキシコ、カナダ両国に拠点を置いて米国に輸出するサプライチェーンを構築している。実際に、輸入関税がかけられれば、こうしたサプライチェーンが寸断されることになる。
一方、対中輸入には既存の追加関税にさらに10%上乗せされる。この追加関税も、同様に、麻薬の流入が理由とされる。
トランプ氏は、中国側の取り締まり対策が効果を上げておらず、中国製の麻薬の大部分がメキシコ経由で米国に流入しているとし、この流れが止まるまで、やはり、中国からの全ての輸入に対して10%の上乗せ関税を課すと述べている。
中国原産品に対しては、18年7月以降、1974年通商法301条を基に、相当数の品目に対して7.5%ないしは25%の追加関税が課されている。
バイデン政権は同関税を維持したうえで、加えて、24年9月からは中国製EVなど一部品目に対する追加関税の100%への引き上げを含む追加的措置も実施している。
輸入関税は米国のIT産業に悪影響を及ぼす
米国経済は事実上、海外からの安価な輸入品に依存している。輸入関税を好むトランプ氏の考え方は、海外からの安価な輸入品の流入を止めれば、鉄鋼、自動車など衰退産業を含めて、米国の産業が活性化するはず、というものだ。
確かに、鉄鋼など一部の衰退産業だけをみると、海外からの輸入品の値段が輸入関税によって押し上げられれば、これまで価格競争力で負けていた米国の鉄鋼業は価格面で優位に立てるようになり、米国の鉄鋼業は復活するかもしれない。トランプ氏を支持して投票した「ラストベルト」地域は盛り上がるだろう。
だが、衰退産業を過剰に保護する政策が、経済全体としてマイナスになるというのは、いわゆるゾンビ企業の救済を続けたために、経済成長率が低迷してしまった日本の例からみても明らかだ。
産業構造という面から言えば、輸入品への課税強化は、輸入競合品の価格を不必要に押し上げるため、本来、淘汰されるべき弱い産業を保護することになる。
鉄鋼の国内価格上昇は、場合によっては鉄鋼業の生産活動を必要以上に高め、一時的にしろ、優秀な人材も鉄鋼業に流れる可能性がある。
そうなれば、米国において、もともと競争力の強い産業、例えばITなどの産業では労働力不足になり、それが産業の経済活動を圧迫するおそれがある。
国際経済学では、輸入財の国際価格に対する関税と、輸出財の国内価格に対する同率の輸出税とは財の生産、消費社会的厚生に対して同じ効果を持つとされ、「ラーナーの対称性定理」と呼ばれる。
つまり、輸入関税は、IT産業など米国で比較優位を持つ輸出産業に悪影響を及ぼすことになる。
輸入関税により米国経済は賃金、物価のスパイラル的上昇に見舞われる
確かに、米国経済が酷い不況下にあり、失業者が街に溢れている状況であれば、IT産業で人手不足に陥ることなく、輸入関税で活性化した鉄鋼業に優秀な人材が流れていいかもしれない。だが、現在の米国経済はそうではない。
米国経済は潜在成長率(2%程度)を上回る成長は続けており、ヒト、モノの需給はひっ迫状態になる。失業率はほぼ完全雇用に近い水準で、労働需給逼迫により賃金も再び上向きつつある。
しかも、 ・・・
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2024/12/2の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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