日銀は12月に再利上げへ
「時間的余裕」という表現が使われなくなったのはなぜか?
日銀は10月30~31日の政策決定会合で、政策金利とされる無担保コール翌日ものレートを0.25%で据え置くことを決めた。
ただ、インフレ目標の達成を前提に、金融正常化に向け、現在の金融緩和環境を徐々に修正し、政策金利を引き上げていこうという意向に変化はないようだ。
今回発表された10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)によれば、物価見通しについて、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024 年度に2%台半ばとなったあと、2025 年度および 2026 年度は、概ね2%程度で推移すると予想される」
「既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」と述べた。
物価見通しは、7月展望レポートでは「2025 年度にかけては、政府による施策の反動等が前年比を押し上げる方向に作用する」としていた。
実際には、政府によるエネルギー価格抑制策は続けられており、「反動」の影響が小さくなることから、25年度の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比の見通しは1.9%と前回7月見通し(2.1%)から下方修正されたが、それ以外に数値の変化はない。
この物価見通しを前提に、展望レポートでは金融政策運営について、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と述べており、日銀の経済・物価見通しとそれに応じた金融政策運営の大枠は変わっていないことがわかる。
今回の政策決定会議後の植田日銀総裁の記者会見で、記者の質問が集中したのは、前回会合で用いられた「時間的余裕」の表現と衆議院選挙での自民党大敗を受けた日銀の政策についてだった。
9月会合後の記者会見で植田総裁は「政策判断に当たって、時間的な余裕はある」と述べていた。だが、今回の記者会見で、植田総裁は「時間的余裕という表現は今後使わない」と述べた。
「今後使わない」というのは、あたかも、時間的余裕という表現を使ったことが間違いだったことを後悔しているかのような説明だ。おそらくは、「時間的余裕」という言葉を使ったことにより、金融・為替市場では「日銀は当面利上げしない」との思惑が強まり、円安が進んだことについての反省があるのではないかと思われる。
植田総裁は、「時間的余裕はあるのか?」との記者の質問に対し、「毎回の決定会合までに得られたデータ、情報を基に判断したい」と述べた。現時点では、時間的余裕を持って政策判断をすることはないという意味だろう。
9月会合での「時間的余裕」がどういうものだったのかをもう一度、振り返っておこう。植田総裁はこの時、次のように述べていた。
「(米国経済の見通しについては)、端的に申し上げればソフトランディングをメインシナリオとみているという点には変わりはないです。ただし、8月初め以降のアメリカ経済に関するデータは少し弱いものが続いたりしていますので、
リスクは少し高まっているかなと。
これはソフトランディングの方にまとまっていくのか、もう少し調整が強まる方向にまとまっていくのか、ソフトランディングにしてもFedの大幅な利下げを必要とする、したうえでのソフトランディングなのか、この辺を見極めていきたいと思っています」
「金融資本市場では、アメリカをはじめとする海外経済の先行きを巡る不透明感が意識されていまして、引き続き不安定な状況にあると認識しています。
当面は、きわめて高い緊張感を持って注視し、わが国経済の見通しやリスク、見通し実現の確度への影響を、しっかり見極めていく必要があると思います。
政策判断に当たっては、内外の金融資本市場の動きそのものだけではなくて、その変動の背後にある、申し上げましたような米国をはじめとする海外経済の状況などについて、丁寧に確認していくことが重要であると考えています。
この点、最近の為替動向も踏まえますと、年初以降の為替円安に伴う輸入物価上昇を受けた物価上振れリスクは相応に減少しているとみています。
従って、政策判断に当たって、先ほど来申し上げてきたような点を確認していく時間的な余裕はあると考えています」
つまり、この時の日銀の考えは、米国経済の下振れリスクが強まっており、一方で、円安に伴う輸入物価上昇を受けた物価上振れリスクが減少していることから、再利上げを急がず、当面、米国経済の動きを見極めていく、というスタンスだったように思われる。
だが、ここへきて米国経済のリセッション入りの懸念は薄らいでいる。
8月初めに発表された7月雇用統計では、サームルールにより、失業率上昇が米国経済のリセッション入りの可能性が示唆したものの、この時の指標の悪化は一時的なもので、その後に発表された景気指標は、軒並み米国経済の強さを示すものが増えた。
FEDは米国経済のソフトランディングを前提に、9月に大幅利下げを実施したが、米景気指標の強さとインフレ鈍化が足踏みしていることから、米長期金利は逆に上昇し、為替相場は円安に振れた。
つまり、日銀は、米国のリセッション懸念から当面、円高傾向で続くとみて、利上げを急がず、余裕を持って政策判断をする予定だった。
だが、予想に反して、実際には、リセッション入りが懸念された米国経済の堅調さが確認された。
また、米国のリセッション懸念から円高に振れていた為替相場については、米長期金利上昇などによって一転して円安に戻った。
結果として、余裕を持って政策判断をすることができなくなった。それが、今回の「時間的余裕」という表現を使わなくなったことの背景だろう。
日銀は「企業の価格設定行動が積極化し、円安が物価に及ぼす影響が大きくなっている」とみている。
為替相場が再び円安に振れていることで、物価が予想以上に上昇する可能性があり、円安を牽制する必要があったのではないかと思える。
日銀は12月にも再利上げに踏み切るのではないか。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/11/5の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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