タームプレミアム主導の米長期金利上昇は続く
米長期金利上昇は「利下げ観測が遠のいた」ためではない
米10年国債利回りは9月16日の3.62%を底に、10月25日に4.27%と1か月強で0.65%ポイント上昇した。
この長期金利上昇は、「米国景気が予想以上に強く、利下げ観測が遠のいたから」、言い換えれば「大幅に低下すると予想されていたFF金利の見通しが上方修正されたから」だという見方が一般的だろう。
実際、9月半ば時点のFF金利の年内利下げ幅は、1.2%ポイントと予想されていた。つまり、11月、12月のFOMCでの利下げ幅が、それぞれ0.5%ポイント以上と予想されていたことになる。
それが現時点での年内利下げ予想は、0.4%ポイント程度と大幅に縮小している。今や、金融市場は11月、12月にそれぞれ0.25%ポイントの利下げがあるかどうかを確実視していない。
確かに、このような利下げ予想の修正が長期債利回りを上昇させた可能性がある。だが、ニューヨーク連銀が推計するタームプレミアムのデータは「最近の10年国債利回り上昇が金利見通しの上方修正である」との仮説が間違っていることを示している。
通常、長期金利は、今後の短期金利がどう予想されているかによって、かなりの部分、説明が可能だ。例えば、3年債利回りは、現実の1年債利回り、1年後の1年債利回り、2年後の1年債利回りの平均値になる。
現在の短期金利と将来の短期金利の予想によって、長期金利が説明される。
仮に、今後1年間の金利が5%、1年後~2年後の金利が4%、2年後~3年後の金利が3%だとすると、現在の3年債利回りは、(5+4+3)÷3≒4%になる。
ただ、実際に投資家が長期の債券を保有する場合、想定外の金利上昇などによって、損失を被る場合がある。
長期債を買おうとする投資家は、そうした損失のリスクに見合う余分の利回り(リスクプレミアム)を要求するはずで、それが長期債利回りに付け加わる。
そのリスクプレミアムをタームプレミアムと呼び、長期金利=予想短期金利(平均値)+タームプレミアム、となる。
このタームプレミアムについては計算方法はいくつかあるが、ニューヨーク連銀が試算し公表しているデータをみてみよう(図1参照)。
同タームプレミアムの推計値は、1980年代~1990年代前半の高インフレの時期においては2~5%という高い数値だった。その後、1990年代後半~2010年頃においては、タームプレミアムは幾分低下し、ゼロ~3%程度のプラス圏で推移した。
しかし、2010年以降、タームプレミアムは低下傾向を辿り、2012年には一時マイナスとなった。2016年以降はマイナス圏での推移が日常化した。さらに、2020年3月にはコロナショックにより、マイナス1.6%という大幅なマイナスとなった。
だが、2020年3月のマイナス1.6%を底に、タームプレミアムは上昇傾向を辿っている。
前述した通り、タームプレミアムは「投資家が長期の債券を保有する場合、想定外の損失のリスクに見合って投資家が要求する利回り」であるため、本来、その数値はプラスになるのが自然であり、マイナスは異常だと言わざるをえない。
なぜ、異常な状態が続いたのか。
2000年代以降、グローバル化に伴うディスインフレによって、世界的な低金利化、ゼロ金利化が進んだ。そのため、投資リターンが必要な投資家は、リスクを軽視して利回りを追求せざるをえなくなった。
一方、リーマンショック以降、経済の長期停滞やデフレを懸念したFRBは、量的金融緩和という名目で、国債の大量購入を始めた。
FRBによる巨額の国債購入によって、もともと利回り志向を強めていた投資家は、長期国債投資へのリスクをさらに軽視するようになり、安心して長期債投資を進めた。
こうしたことが、タームプレミアムの低下、マイナス化という形で現れたと考えられる。
1995年~リーマンショック前(2008年7月)のタームプレミアムは、下限が約ゼロ%、上限が約3%、平均が1.4%という値で推移していたが、この水準がFRBによる量的金融緩和がない、正常値であると言っていいだろう。
米10年国債利回りは9月16日の3.62%を底に、10月25日に4.27%と1か月強で0.65%ポイント上昇したが、これを、10年国債利回り=今後10年間の予想短期金利(平均値)+タームプレミアム、の計算式に沿って、今後10年間の予想短期金利(平均値)とタームプレミアムの2つに分けてみよう。
前者の「今後10年間の予想短期金利(平均値)」の上昇幅は約0.2%ポイント、後者の「タームプレミアム」の上昇幅は約0.5%ポイントとなっている。
最近の米10年国債利回りの上昇の主因は「FF金利などの見通しの上方修正」ではなく、「軽視されていた投資家のリスク意識が元に戻りつつあること」にあることを示している。
現在、タームプレミアムはプラス転換し、0.2~0.3%程度に上昇している。だが、上昇はこれで終わりではない。
FRBによる量的金融緩和がなかった1995年~リーマンショック前(2008年7月)のタームプレミアムが下限が約ゼロ%、上限が約3%、平均が1.4%だった。
現在のタームプレミアムは下限に近い状態だと考えられる。平均が1.4%だったことからすれば、タームプレミアムはあと1%ポイント強上昇してもおかしくない。
つまり、現在4.2%程度の米10年国債利回りは、5%台半ばまで上昇してもおかしくないことになる。
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2024/10/28の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。