中国経済の低迷はさらに長期化
4~6月は消費に急ブレーキがかかり、成長は4%台に鈍化
4~6月の中国のGDP成長率は前年同期比4.7%と1~3月の同5.3%から伸びが鈍化し、23年1~3月(4.5%)以来の低い成長となった。
1~6月を均してみると5%で、政府の年間目標である「5%前後」に沿った水準となったが、中国経済が低迷の度合いを強めているのは明らかだ。
中国のGDP統計では個人消費、設備投資、輸出など需要項目別の数値が発表されていない。
ただ、当該期の成長率に対する、1.消費、2.投資(設備投資と公共投資の合計)、3.純輸出(輸出から輸入を引いたもの)の寄与度がわかるので、その動きから中国経済の詳細が多少とも明らかになる。
23年通年の成長率は5.2%だったが、その需要項目別寄与度をみると、消費が4.3%、投資が1.5%、純輸出がマイナス0.6%だった。
24年1~3月の成長率は前年同期比5.3%と23年とほぼ同水準だったが、同寄与度は、消費が3.9%、投資が0.6%、純輸出が0.8%だった。続く4~6月の成長率は4.7%と低下したが、同寄与度は、消費が2.2%、投資が1.9%、純輸出が0.6%だった。
この動きから次のようなことが推測できる。
23年の成長はコロナショックからの経済再開を背景とした消費主導の成長だったことがわかる。投資も堅調で、内需(消費+投資)がそろって好調だったため、輸出に依存する必要がなく、外需はマイナスだった。
24年1~3月になると、消費主導の状況は変わらなかったが、消費の勢いはやや鈍化した。不動産投資などを中心に投資も落ち込んだため、全体として内需は23年ほど盛り上がらず、外需に依存しなければならない状況になった。
さらに、4~6月には、消費に急ブレーキがかかり、それが成長率を低下させた。
消費の落ち込みは、
(1)住宅価格の下落により住宅ローンの返済に苦しむ家計が増えていること、
(2)若年層を中心とした失業の増加、
(3)成長鈍化に伴い所得が伸び悩み始めたこと、
などが原因とみられる。
インフラ投資などの投資が下支えになり、過剰生産品の輸出も増加して純輸出がプラスになったが、消費の落ち込みをカバーすることはできていない。
そうしたなか、足元では企業の景況感もさえない。
国家統計局が発表する製造業購買担当者指数は、23年4月以降、23年9月(50.2)を除き、ほぼ一貫して50を下回り、23年の中国の製造業景気が下向きであることを示していた。
国家統計局が発表する製造業購買担当者指数の調査対象は国有企業や大企業などが多い。
前述したとおり、23年の需要動向は消費主導で盛り上がったが、米中経済摩擦を背景とする輸出の伸び悩みが国有企業や大企業の景況感を低迷させたのだろう。
しかし、24年に入ると、同指数は24年3月50.8、4月50.4と2か月連続で50を上回った。
中国景気が回復する兆しかとも思われたが、結局はこれも一時的な上昇で、5月、6月はそれぞれ49.5と再び景気悪化を示唆する動きとなっている。
足もとで消費に急ブレーキがかかったことが、企業の景況感を再び悪化させたようだ。
住宅価格の下落により、今後は不良債権問題の発生も
現在の中国経済の低迷の背景には、
(1)人口減少を背景とした不動産不況、
(2)米中経済摩擦激化、
(3)習近平政権への不信感を背景とした中国からの資金逃避、
といった構造的な下押し要因があり、簡単に低迷から脱することは難しい。
この(1)~(3)の要因が現状でどうなっているかを点検しておこう。
(1)人口減少を背景とした不動産不況
「人口減少を背景とした不動産不況」だが、前提となる中国の人口は21年末の14億1,260万人をピークに減少している。
22年末14億1,175万人(前年比85万人減)、23年末14億967万人(前年比208万人減)と、人口の頭打ちははっきりしてきた。人口減少は住宅需要減少を通じて住宅価格の下落や不動産不況につながる。
これまで中国で行われてきた不動産開発投資については、住宅需要の増加傾向が続くという楽観的な見通しを背景とした、過大な投資であったように思われる。
そのため今後は住宅のストック調整が必要になる。「ストック調整」というのは、人口などからみた住宅需要に対して、供給されている住宅が多すぎることから、ストックを減らしていかなければいけないことを示す。
過剰な住宅のストックが存在するため、当然ながら、新規の住宅投資などはほとんど必要ない状況が長期間続く。
日本では1990年初めの不動産バブル崩壊後、長期にわたり、不動産価格の下落が続き、建設不況が続いた。
そして不動産価格の下落は金融機関の不良債権問題にもつながった。
中国の現状をみると、不動産不況は、20~21年頃をピークに、すでに3年以上続いている。
中国の名目GDPは21年4~6月から24年4~6月までの3年間で13%増加(年率換算で4.3%増)したが、不動産業の名目GDPは同期間で11%減少(同3.7%減)している(図1参照)。
中国経済全体に占める不動産業の比率は6%程度だが、裾野の関連産業を含めると3割程度になるとも言われる。不動産業の落ち込みは中国の名目GDPを少なくとも年率0.2%程度(≒3.7%減×0.06)、関連産業を含めると年率1%程度(≒3.7%減×0.3)減少させる要因になっている。
一方、2020~21年頃から不動産不況が続いているのに対し、住宅価格の動きをみると、23年前半までは比較的安定していた。だが、23年後半から住宅価格の下落が始まった。その点で言えば、住宅のストック調整は始まったばかりだと言える。
図2は、北京、上海、広州、深圳の中古住宅前年比上昇率の単純平均値をみたものだ。
23年6月時点では前年比0.5%下落にとどまっていたが、23年12月3.5%下落、24年3月7.3%下落、6月末9.0%下落と下落ペースが速まっている。
日本の不動産バブル崩壊の経験をみると、不動産価格(6大都市市街地価格指数)は1990年9年の410.8をピークに2005年3月に96.8と約15年かけて不動産価格はピーク時の4分の1程度に下落した。
中国の住宅価格はようやく下落し始めたが、住宅ストック調整は十分とは言えない。住宅価格下落は今後も続く可能性が高い。住宅価格下落によって懸念されるのは、それが不良債権問題に発展する可能性だ。
住宅価格の値下がりの影響は、不動産開発企業だけでなく、地方融資平台(LGFV、Local Government Financing Vehicles)にも及ぶ。
LGFVは道路、空港、電力設備、地下鉄、工業団地など公共性の高い都市インフラを整備する資金を調達するために、地方政府が出資・設立した国営の投資会社のことで、LGFVは地方政府の意向を受けて必要に応じてインフラ投資を行ってきた。
4~6月のGDP成長率は消費が失速するなかで、投資が成長を下支えたが、不動産投資が減少するなかにあっても、投資全体が堅調に増加しているのは、インフラ投資の増加による(図3参照)。
IMFの推計によれば、LGFVの有利子負債は2023年末時点で66兆元(対GDP比53%)に上る。インフラ投資は、固定資産投資(設備投資と公共投資を合計したもの)のかなりの部分を占め、景気対策としてもしばしば用いられる。
だが、インフラ投資はそれに応じた直接的な収益の確保は期待できない。そのため、LGFVは、地方政府から土地使⽤権を購入し、それを売却することで、値上がり益を債務返済に充てていた。
住宅価格が右肩上がりで上昇していたうちは、土地使用権の値上がり益を膨大な債務の元利払いのための資金に充てることができた。
だが、住宅価格が下落し始めると、それはできなくなり、土地使用権自体が値下がりし、不良債権化する。住宅価格の値下がりによって地方政府の別動隊であるLGFVが不良債権を抱えることになれば、LGFVの本体である地方政府が責任を問われることになるだろう。
また、LGFVが不良債権を抱えることになれば、これまでLGFVが実施してきたインフラ投資による景気下支えができなくなる。
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2024/7/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。