米国物価動向
低下傾向を続けている前年比の動きをみて「物価が沈静化し続けている」と勘違いした人が多いのではないか
3月の米消費者物価上昇率は全体で前月比0.4%上昇、食品・エネルギーを除くコア部分も同0.4%上昇し、事前のコンセンサス予想(それそれ0.3%上昇)を上回って上昇した。
ただ、予想外とされるが、米国経済が潜在成長率とされる約2%を上回って力強く拡大し、労働市場も逼迫が続いているなかで、物価上昇率が鈍化していくという予想がむしろ不自然だったと言える。
「物価の沈静化が続く」という、事前のコンセンサス予想は、「利下げ先にありき」のシナリオに沿った「期待」に近い。
「利下げ先にありき」のシナリオが、いまだにコンセンサスになっている背景には、パウエルFRB議長の姿勢がある。
3月18~19日のFOMCでは、昨年12月以降にみられた、パウエル議長の、前のめりの利下げ姿勢が維持されていることが確認された。
パウエル議長は、記者会見で、1月の物価が前月比で大きく上昇したことは「季節調整の問題」だとし、2月も続けて高めの上昇になったことについては「インフレの道筋におけるバンプ」と指摘した。
「この2か月のデータに過剰反応するつもりはない」「インフレ抑制に向けた良好な進展は続いている」と述べ、昨年後半以降のディスインフレ傾向が続いているとの見方を示した。
実際はどうなのか。「インフレ抑制に向けた良好な進展」は続いていない。
物価上昇率について、メディアでよくとりあげられる前年比や前月比の数値は、それぞれ難点があり、表面的な数字だけをみて判断しようとすると、間違いを犯す。
例えば、コア消費者物価上昇率の前年比の動きをみると、上昇率は2022年9月の6.5%をピークに鈍化傾向を続けた(図1参照)。
昨年後半ごろから、鈍化のペースは明らかに緩やかになっていったが、鈍化傾向自体は続いている。
FRBの目標は、インフレ率(PCEデフレータ)の「前年比」上昇率2%であり、確かに、前年比の数値が重視されている。
消費者物価前年比の、緩やかな鈍化傾向の動きだけをみると、急速ではないが、時間をかけて目標の2%に向かっていくのではないかと思う人がいるかもしれない。
だが、「前年比2%」を達成するためには、月換算して、前月比は月平均0.17%未満で推移しなければいけない。
実際には、この1年間で前月比が最も低かったのは2023年6月の0.19%で、前月比が0.17%未満になったのは、2021年2月(0.15%)以来、一度もない。
図1をみてわかるように、前月比上昇率は昨年6月の0.19%を底にむしろ上向いていった。こうした状況では、2%に届くはずがない。
前年比の数字が低下傾向を辿っている様子をみて「インフレ率は目標の2%に向けて鈍化している」という間違った判断を下してしまった人は多いのではないか。
このままでは今年末の前年比物価上昇率は4%超に跳ね上がる
この前年比の数値をみる場合、「鈍化が続いている」点よりも、「鈍化のペースが緩やかになった」点を重視しなければいけなかった。
というのは、前年比の数値は、いわば、過去12か月の前月比を累積したものだからだ。
例えば、今年1月の前年比は3.9%だったが、これは昨年2月から今年1月までの前月比の累積値が3.9%だったことになる。
また、今年2月の前年比は3.8%だったが、これは昨年3月から今年2月までの前月比の累積値が3.8%だったということになる。
前者は、昨年2月の前月比+昨年3月から今年1月までの累積値の合計で、一方、後者は昨年3月から今年1月までの累積値+今年2月の前月比である。
両者の違いは昨年2月の前月比と今年2月の前月比であり、前年比で低下傾向が続いているというのは、前年の同時期に比べて、今年の前月比物価上昇率が低いことを意味する。
そして、前年比上昇率が同じだということは、昨年の同時期と今の物価上昇率が同じだと言うことになる。
図1をみても明らかなように、コア消費者物価の前月比上昇率は昨年5月頃までは、かなり高い水準で推移していた。
前月比は6月から秋頃にかけて低水準になったが、年末頃からは再び加速していった。
現在、前年比上昇率の低下が止まりつつあるというのは、まだ、前月比で高い上昇が続いていた前年の今頃と現在の物価上昇テンポがほぼ同じであるということを意味する。
前年比の数値が低位で推移しているからと言って、物価が落ち着いているわけではない。
今年2月と3月の前月比上昇率は小数点第2位まで計算すると、
それぞれ0.36%だった。仮に、0.36%の前月比上昇率がこのまま年末まで続くとすればどうなるかを図1で示している。
それによれば、前年比は5月までは鈍化傾向を辿る。前年の4、5月の前月比が0.36%より高かったためだ。だが、6月以降は急速に上昇していく。年末には4.4%に跳ね上がる計算だ。
これは、昨年の6月以降の前月比上昇率が低く、ここで前提とした前月比0.36%という数値がその前年の数値に比べ高いためだ。
この試算では前月比の物価上昇率を現状のままと想定しているわけだが、金融政策を司る立場から言えば、前年比上昇率が上向いてから政策を見直そうとしてもすでに手遅れであることを示している。
過去、パウエル議長は、同様にインフレ対応で後手に回った前科がある。もちろん、前年比よりも前月比を重視すべきだというわけではない。
前月比の動きは毎月の数字の振れが大きいことが難点だ。季節調整の問題や一時的な影響が数字を押し上げたり、逆に、その反動で、押し下げたりする可能性がある。
実際、図1でみる通り、22年頃の前月比の数値は大きく振れていた。
1月の物価が前月比で大きく上昇したことを「季節調整の問題」だとしいたパウエル議長の見解もわからなくもない。
ただ、「季節調整の問題」が1月に続いて、2月、3月と連続することは考えにくい。
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2024/4/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。