「賃上げによる景気の好循環」は実現しない
人件費の増加加速で企業利益の増加にブレーキがかかりつつある
日本経済はコロナ禍からの経済再開の効果で、昨年初めに急速な盛り上がりをみせたが、年後半以降、踊り場状態にある。
実質GDPは23年1~3月に前期比1.0%増、4~6月1.0%増と2四半期連続で高い成長を続けたが、7~9月は同0.8%減とマイナス成長と落ち込んだ。
10~12月は同0.1%に上方修正されたが、7~9月の落ち込み分を取り戻せていない。
23年後半以降、景気拡大のモメンタムが弱まったのは、物価上昇による個人消費の伸び悩みが原因だ。
実質個人消費は23年1~3月に前期比0.8%増加した後、4~6月同0.7%減、7~9月0.3%減、10~12月0.3%減と3四半期連続で減少している。名目個人消費は23年1~3月に大幅増加した後、4~6月以降はほぼ横ばいで推移している。
そのため、物価が上昇する分実質個人消費が目減りすることになる。
急増していた企業の利益も、足元では高水準ながら増加にブレーキがかかっている。
法人企業統計によれば、金融保険を除く全規模・全産業の営業利益は、23年10~12月に季節調整値で19.9兆円とコロナ前のピークであった19年1~3月の18.8兆円を6%程度上回る水準に増加した。
だが、前期比の伸びをみると23年4~6月の7.3%、7~9月5.6%から10~12月0.4%増と、増加テンポは鈍化している。
また、営業利益に利息等の受払いを合計した経常利益は、23年4~6月に季節調整値で27.0兆円とコロナ前のピークであった18年4~6月の23.7兆円を14%程度上回ったが、23年7~9月に26.9兆円、10~12月26.2兆円と減少した。
企業の売上高の動きをみると、23年4~6月季節調整済み前期比1.4%増、7~9月1.1%増、10~12月0.9%増と伸び率はやや鈍化しているが、増加傾向は続いている。
売上高が増加するなかで、企業の利益の増加にブレーキがかかったのは、売上の伸び鈍化もあるが、費用が売上以上に増加していることが原因だ。
特に、ここへきて増加し始めたのが人件費だ。人件費は23年4~6月に前年比2.7%と売上高の伸び(前年比5.8%増)を下回っていた。
しかし、23年7~9月同4.1%、10~12月同4.8%と伸びは加速している。人件費の伸びが加速していったのに対し、売上高の伸びは23年7~9月前年比5.0%増、10~12月4.2%増と鈍化し、売上の伸びを下回った。
人件費の増加が利益を圧迫しているようだ。
労働需給逼迫から人件費の増加は続く
政府の観光立国政策に加えて、コロナ禍からの経済再開で、現在の日本の経済拡大は労働集約的なサービス業主体になっている。
このため、企業の雇用ニーズも強く、雇用の増勢は続いている。
毎月勤労統計によれば、雇用は前年比2%程度のペースで増加し続けている。長期的に人口減少の続く日本で、雇用が増加し続ければ、労働需給は逼迫せざるをえない。
労働需給逼迫は賃金を押し上げる。
毎月勤労統計(共通事業所ベース)によれば、一般労働者(正規労働者など)の所定内給与は22年12月に前年比1.4%だったが、23年6月に同1.6%増、24年1月に同2.0%増と増加ペースが加速している。
さらに、労働需給の状況が賃金に反映しやすいパートターム労働者の場合、賃金上昇率加速の状況はより顕著で、所定内給与は22年12月に前年比0.4%だったが、23年6月同1.7%増、24年1月同3.4%増と一般労働者以上に急速に増加ペースが加速している。
今春闘では昨年に比べ労働組合員の賃上げは加速するとみられる。また、4月1日からは働き方改革関連法による物流・運送、建設、医療業界での時間外労働上限規制が適用される。
高水準の雇用増加と賃金上昇テンポの加速で、人件費の増加テンポは今後一段と加速する可能性が高い。
これは企業の利益を圧迫する。半面、企業にとっての人件費の増加は、労働者側からみれば雇用者所得の増加を意味し、それが個人消費を押し上げる効果も期待できる。
そのため、株式市場は、春闘での賃上げ率の高まりが、日本の景気を一段と押し上げ、さらには日本経済を長期停滞から脱却させると期待する。
そして、それが企業の利益を一段と押し上げ、株高につながると期待している。
果たして、人件費の増加は、企業の利益を圧迫し株安要因になるのか、それとも、個人消費増加などを通じて景気を一段と押し上げ、利益を増加させて株高要因になるのか。
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2024/3/11の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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