賃金上昇でインフレ懸念が再燃へ
米国では鈍化していた賃金上昇率に下げ止まりの兆し
欧米で再び賃金が再び上昇し始めた。12月の米雇用統計によれば、平均時給は前月比0.4%増と、11月(同0.4%増)に続く高めの増加率となった。
前年比でみた賃金増加率は22年3月の5.9%をピークに鈍化傾向を続けていたが、11月4.0%のあと、12月は4.1%と増加ペースはわずかながら高まった(図1参照)。
他の賃金統計でも、一時鈍化していた賃金上昇率が再び上向くような動きがみられる。雇用統計の「平均時給」は、産業別の雇用の変化の影響を受ける。
例えば、現在のように、賃金水準の低い、娯楽などの業種で雇用が大幅に増加している場合、「平均」の時給はむしろ減少して、その伸びは低下しやすくなる。
四半期統計ながら、そうした産業別の雇用変化の影響がなく、FRBも注目しているとされる「雇用コスト指数」の前期比増加率は、22年1~3月の1.4%増をピークに、23年4~6月に1.0%増に鈍化したが、7~9月は1.1%増と再加速した。
同様に、労働者一人ひとりの賃金を調べているため、産業別の雇用変化の影響がない、アトランタ連銀「賃金トラッカー」をみると、22年6、7、8月の前年比6.7%増をピークに伸びが鈍化していたが、23年秋以降、伸びの低下は止まり、23年9月、10月、11月は3か月連続で5.2%となった。
このように、米国の場合、22年以降続いていた賃金鈍化に歯止めがかかっているようにみえる。背景には、まず、労働需給の逼迫状況が続いていることがある。
12月の失業率は3.7%となり、前月比横ばいだった。失業率は23年1月、4月の3.4%を底に幾分上向き気味に推移し、23年8、9、10月は3.8%に上昇した。失業率は、そのまま上昇傾向が続き、4%超に上昇して景気後退に陥るとの見方もあった。
いわゆる「サーム・ルール」によれば、失業率の3か月移動平均が、過去12か月の最低値から0.5ポイント上昇した時にリセッションが始まるとされる。
しかし、実際の失業率は、さほど上昇せず、11月、12月に3.7%となった。この失業率の数値から言えば、23年初めの一時期に比べると労働需給はやや緩和していることになるが、4%を下回る失業率の水準からみると、労働需給はなおかなり逼迫状況にあると言っていい。
賃金上昇の動きが再び強まり始めたもう一つの要因は、労働組合主導の賃上げの動きが成功、実現し始めたためだ。
労働協約の改定をめぐる自動車大手3社と全米自動車労組(UAW、組合員数約15万人)との労使交渉は10月30日までに各社で暫定合意に達し、6週間にわたるストライキが終了した。
UAWは、自動車大手各社から、それぞれ「4年半で25%の賃上げ」や、賃金を物価に連動させる「生計費調整(COLA)」制度の復活などの労働条件引き上げを獲得した。
確かに、各種統計でみると現在の賃金上昇率は年率4~5%程度で、消費者物価上昇率(全体で3.1%、コアで4.0%)を上回り始め、
賃上げはもはや必要ないとも言える。
だが、こうした労働組合による賃上げ要求は、22年以降の急速な物価上昇によって失われた実質賃金を取り戻そうという動きにほかならない。
労働組合を擁護する姿勢の強い民主党バイデン政権の後ろ盾もあって、労働組合の賃上げ要求は続いている。
ユーロ圏の労働者も過去の物価上昇による実質賃金目減り分を取り戻そうとしている
米国同様、欧州でも、労働需給逼迫下で賃上げを要求する労働者のストライキが多発している。ユーロ圏やイギリスでは、鉄道や医療機関など、社会的に重要なインフラ部門でのストライキによって経済活動に悪影響が及んでいる。
この結果、賃上げ要求は徐々に実現しているとみられ、労働者の賃金上昇テンポは加速している。
ユーロ圏経済は米国に比べ低迷し、成長も止まっているが、賃金上昇テンポは米国にくらべても、むしろ高い。
ECBが注目する妥結賃金率(前年比)は、23年7~9月に4.7%に加速した(図2参照)。
ユーロ圏経済は全体として低迷しているものの、労働需給は逼迫気味で、それが賃金上昇の背景にあることは間違いない。
ユーロ圏の10月の失業率は6.5%で、米国に比べ高いが、歴史的に見れば過去の景気ピーク時である2000年、2008年、2020年の失業率(それぞれ8.5%、7.3%、7.2%)を下回る低水準だ。
そうしたなかで、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー価格等の高騰で22年には物価が急上昇し、22年10月に消費者物価は前年比10.6%に上昇した。
その後、物価上昇率は鈍化し23年11月には2.4%まで低下し、今や、賃金上昇率を下回った。
だが・・・
2024/1/9の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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