企業景気拡大の持続性は疑問
低調な日本経済の全体像に比べ企業の景況感の高まりは顕著
日本では企業景気が盛り上がっている。
企業の景況感を示し、景気動向を端的に示す日銀短観(12月調査)によれば、大企業・製造業の業況判断DIはプラス12と9月のプラス9から3ポイント上昇した。大企業・非製造業の業況判断DIも、やはり9月に比べ3ポイント上昇し、プラス30となった。
とくに、大企業・非製造業の業況判断DIはプラス30と32年ぶりの水準に上昇し、今回の景気拡大が非製造業中心であることを示している。
コロナ禍からの経済再開が、今の景気拡大を支えていることは明らかだ。ただ、日本経済の全体像は必ずしもさほど良くない。
7~9月の実質GDPは前年比1.5%増と、1~3月2.5%増、4~6月2.2%増から伸びが鈍化した。しかも、前年比増加率である1.5%のうち、1.2%ポイントは輸入減少の寄与による。
個人消費や住宅・設備投資など民需は1~3月前年比3.4%増、4~6月1.0%増、7~9月0.6%減と失速気味だ。
日本経済全体でみるとさほど良くないなかで、企業の景況感だけが突出して高まっている背景には、以下のような4つの要因が影響している。
第1 インフレの影響
インフレが影響している。つまり、企業が価格転嫁を順調に行っており、そのために名目でみた売上高などの数値がその分だけ高くなっている。
第2 賃金の抑制
実質賃金がマイナスで推移し、製品価格に比べ、賃金が抑制されている。
第3 円安の影響
円安により海外での売上が水増しされている。
第4 政府のエネルギー価格抑制策
「燃料油価格激変緩和対策事業」、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」など政府のエネルギー価格抑制策による補助金が企業の利益を押し上げている。
順調な価格転嫁や賃金抑制が企業分配率を押し上げている
第1のインフレについて言えば、短観によれば、全産業の売上高は23年度に前年比2.5%増加する見込みだ。
だが、3%近いインフレが続くなかで、2.5%の名目売上高の増加率は、物価変動を除く実質でみるとマイナスを意味する。
実際、GDP統計をみても、名目国内需要は4~6月前年比3.8%増、7~9月同2.5%増と伸びは鈍化しつつも、増勢を保っているが、実質国内需要は4~6月前年比1.0%増のあと、7~9月は同0.1%減と減少に転じた。
極端に言えば、名目でみた売上などの数値が増加していることで、企業は「景気が良い」と錯覚している可能性もある。
第2の実質賃金について言えば、毎月勤労統計による10月の実質賃金(名目賃金÷消費者物価)は前年比2.3%減少し、マイナス2%超の実質賃金減少が続いている。
名目GDP×労働分配率=名目雇用者報酬 であり、これは、
(実質GDP×物価)×労働分配率=労働投入量×名目賃金、
(実質GDP÷労働投入量)×労働分配率=名目賃金÷物価、
と書き換えることができるため、
結果的に 労働生産性×労働分配率=実質賃金、となる。
7~9月の実質GDPは前年比1.5%増で、雇用の伸びは常用雇用指数が10月時点で同1.9%となっているため、現在の日本の労働生産性は前年比マイナス0.4%程度と計算できる。
労働生産性が前年比マイナス0.4%に対して、実質賃金が前年比2.3%減少していることは、「労働生産性×労働分配率=実質賃金」から言えば、労働分配率が低下していることを示す。
本来なら、あと2%ポイント程度、賃金上昇率が高まっても良いわけだが、賃金が抑制され、結果的に、それが企業の利益を押し上げ、企業の景況感を上向かせる要因になっていることになる。
ちなみに、家計は適切な分配が行われず、賃金上昇率に比べ高めの物価上昇に対して不満を抱くことになるため、個人の景況感はさほど良くない状態だ。
実際、消費者の暮らし向きなどから消費者の消費に対する態度を計測した指標である消費者態度指数は、22年ボトム時の約30から経済再開の効果を受けて23年7月には37.1に上昇したが、その後、上昇は一服し、35~36程度で推移している。
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2023/12/25の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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