円高の背景に日本の物価上昇
植田総裁、内田副総裁は両者とも金融緩和政策の継続を示唆するが…
米10年国債利回りが4%台乗せとなるなか、ドル円は142円に下落した。
確かに、6月の米雇用統計は事前予想に比べ雇用者の伸びが鈍かったが、米金利が上昇するなかでの円高は意外だ。
円高の理由としては、日本株反落などにみられるリスク選好一巡や円売りポジションの調整なども言われているが、日本の金融政策正常化への思惑もあるものと思われる。
確かに、日銀首脳の発言はさほど変わっていない。
植田日銀総裁は、6月28日、ポルトガルのシントラで開かれているECBフォーラムで
以下のように述べた。
「今年インフレ率が鈍化した後、24年に入ってインフレの伸びは幾分加速すると予想しているが、24年以降のインフレ加速についてはさほど確信できていない。この予想が妥当だとの確信が持てれば、政策を変更する理由となる可能性がある」
また、内田副総裁は、日本経済新聞とのインタビューで、イールドカーブコントロール(YCC)の修正について、当面YCCを続けていくと強調し、金融仲介や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点から「バランスをとって判断していきたい」と述べた。
副総裁は、物価上昇率について、ようやく企業の賃金・価格設定行動に変化の兆しが出てきていると評価しつつ、2%の物価目標を変えることはないとも述べた。
こうした両者の発言を素直にみると、当面、日銀は政策を変更することはないとみるのが自然だ。
今後の日銀の金融政策変更についての、標準的なシナリオとしては、例えば「来年の春闘賃上げ率も高い水準となり、賃金上昇を伴った物価上昇が実現すると確信できるようになった場合に、満を持して金融政策を転換する」といったところだろう。
欧米中銀も物価上昇が一過性だとみて政策変更が後手に回った
だが、欧米中銀の昨年以降の経験によれば、金融政策が引き締めに転換されたきっかけは、物価上昇が当初予想されていたような一過性ではないことが判明したことだった。
そして、植田総裁も年内のインフレ率鈍化を当然のこととしてみているようだが、前述した発言にある「24年に入ってインフレの伸びが幾分加速する」かどうかより、まず「今年のインフレ率が鈍化する」かどうかが、極めて怪しい。
つまり、植田総裁が当然のこととして語っているような、今のインフレが一過性かどうかという点が問題だ。
前回4月の日銀「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望レポート)によれば、日銀は「生鮮食品を除く消費者物価」の前年比について、2023年度1.8%、24年度2.0%と予想している。
足元の消費者物価上昇率は前年比3%を超えているものの、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰していくため、同前年比はプラス幅を縮小していくというのが、日銀の当面のインフレについての予想だ。
また、植田総裁は「基調的なインフレ率は依然として2%をやや下回っている」と述べている。
日銀は3%を超える現在の物価上昇が輸入物価上昇による一過性の物価上昇だと考えていることになる。
欧米中銀が犯した間違いも、インフレが一過性と考えて、引き締めが後手に回ったことだった。
物価上昇の原因はパンデミックによる供給網の混乱、ロシアのウクライナ侵攻による資源高騰などだと考えて、供給網の混乱が収束し、原油など資源価格上昇が止まれば、インフレも落ち着くと欧米中銀は考えた。
しかし、実際にはそうならなかった。
デフレ下のデータを元にしたインフレ予想は常に低めの予想になってしまう
同じECBフォーラムでは、イングランド銀行、チーフエコノミストのヒュー・ピル氏が興味深い発言をしている。
ピル氏は、イングランド銀行がインフレの持続性について予測を繰り返し誤ったのは、ウクライナでの戦争を予測できなかったからではなく、イングランド銀行の予測モデルがエネルギー価格の高騰と労働市場の逼迫の相互作用を過小評価したことだと述べた。
イングランド銀行は、価格のラチェット効果(価格がいったん上がるとそれが基準となり元にもどらなくなること)や、エネルギー価格上昇で目減りした実質所得の回復を目指す労働者の動きなどを考慮していなかった。
また、イングランド銀行のインフレ予想は、インフレ期待が十分に抑制され、長引く形跡もなかった過去四半世紀をモデルとしていた。
ピル氏は、もっと昔の1970、80年代の高インフレ期に目を向けるべきだったと述べた。
重要なポイントは、・・・
2023/07/10の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
関連記事
https://real-int.jp/articles/2199/
https://real-int.jp/articles/2198/