米国 債務上限引き上げ問題
上限引き上げができず、単純に財政収支ゼロならGDPは7%減少する計算
米国では6月1日にも政府の資金繰り策が尽き、債務上限を引き上げなければいけない状態になると言われる。
筆者がこのレポートを書いている、日本時間5月20日朝現在、財政赤字削減を巡るバイデン政権と議会共和党の話し合いはなお紛糾しているようだ。
仮に、国債の元利払いがなされず、デフォルトという事態に陥った場合、どうなるか。
国債は借入のための担保になっており、デフォルトとなった国債が担保価値を失えば、借入ができなくなり、金融機関が資金繰りに窮し、金融市場が混乱するといった事態が予想される。
もちろん、そうした場合、各国中銀による流動性供給など、非常事態に対応した措置が実施されるだろうが、国際金融市場の大きな混乱は避けられまい。
ただ、これまでに例のないことであるため、実際、どうなるかは予測不可能で、「なってみなければわからない」というのが本当のところだろう。
米大統領経済諮問員会(CEA)は、失業率が5%ポイント上昇し、成長率は年率6.1%ポイント低下するとの試算を示しているが、前提がはっきりしていない。
「債務上限引き上げを行わなければ経済は大変な状態になる」ということを言いたい、バイデン政権側の米議会に対する脅しのための試算だと言っていい。
ただ、米国債デフォルトによる金融面の影響を抜きにして考えると、債務上限引き上げがなされないことの影響についての試算は比較的簡単だ。
直近1年間の米国の連邦財政赤字は約1.94兆ドルで、これに対して、米国の名目GDPは26.5兆ドルだ。
仮に、債務上限引き上げができないとすれば、今後、歳出を歳入に見合った金額にして、財政赤字をゼロにしなければならない。
だとすれば、歳出を1.94兆ドル削減する必要があるが、そうすればGDPは7.3%ポイント減少する計算だ。
国債デフォルトによる金融面の影響を除いても、債務上限引き上げがなければ、実体経済に決定的な影響を及ぼすことになる。
2011年はデフォルト懸念ではなく、緊縮財政による景気悪化を懸念した市場動揺だった
米国債デフォルトが問題になった2011年時も、財政赤字削減による経済悪化が問題視された。
当時も債務上限引き上げができないまま国債デフォルトが起きるのではないかとの懸念が高まっていた。
デフォルトを意識して国債の利回りが上昇するなどの動きがあったのではないかと推測する向きが多いだろうが、実際の金融市場は直前までほとんど動揺がなかった。
同年8月2日、難航の末、米国議会の債務上限引き上げ法案が成立したが、市場が動揺し始めたのはそれ後だった。
債務引き上げ法案には今後10年間(2012~21年)で約9,000億ドルの歳出削減が盛り込まれていた。
議会は11月下旬までに1.5兆ドルの具体的な赤字削減措置を提示し、12月下旬までに採決することが必要になった。
赤字削減策が決められない場合には1.2兆ドルの歳出が強制的に削減される、という、おまけつきで、かなり厳しい赤字削減策になった。
赤字削減策は毎年の財政収支をGDP比約1%改善させる効果があると試算された。
これは言い換えれば、この赤字削減策によって、GDPが毎年1%減少する可能性があることを示していた。
米国経済はリーマンショックからまだ完全に立ち直っていなかった。
そのため、緊縮財政策によって景気の腰折れがあるのではないかとの懸念が強まった。さらに、S&Pは、8月5日、米国国債の格付けをAAAからAA+へ1段階引き下げた。
S&Pは格付け引き下げの理由として、下記を挙げた。
- 政府債務上限の引き上げとそれに関連した財政政策を巡る議論が長引いたことは、
社会保障給付金など歳出の伸びの早期抑制や歳入増加で与野党が合意する可能性が
想定より低く、引き続き議論が難航することを示唆していること - 議会と政権が合意した財政再建策もS&Pが考える規模を下回ったこと
短期的な財政緊縮の行き過ぎが景気に及ぼすデフレ効果、長期的な財政赤字削減見通し(そのためには増税や社会保障給付削減が不可欠)への不透明感などから、世界的に株価が急落した。
バイデン政権と議会が妥協し債務上限引き上げが成立しても一件落着ではない
マーケットは歳出削減を要求する下院共和党とそれを拒否するバイデン政権との妥協が成立するかどうか、固唾をのんで見守っているわけだが、仮に妥協の成立で債務上限引き上げがなされても、問題解決とみることはできない。
というのは、・・・
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本記事は2023/05/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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