米国経済 スタグフレーションの可能性
シリコンバレー問題で3月の雇用は鈍化したが4月は復調
4月の米雇用統計によれば非農業雇用者数は前月比25.3万人増と前月の16.5万人増に比べ増加幅が加速した。ちなみに昨年12月、今年1、2月の3か月間の非農業雇用増加幅は月平均32.0万人だった。
その後、シリコンバレー銀行破綻以降の3、4月の雇用増加幅は2か月間平均で20.9万人と鈍化した。金融不安の影響が雇用面にも表れているといえるかもしれない。
だが、見方を変えると、シリコンバレー銀行破綻によって3月に16.5万人増まで鈍化した雇用は4月に25.3万人増と再び増加した。そして、4月の25.3万人増という雇用増加ペースは、直近1年間の労働力人口の月平均増加幅(22.8万人増)を上回っている。これでは失業率は低下する。
実際、雇用増加ペースが鈍化するなかにあっても、失業率は2月の3.6%から3月3.5%、4月3.4%と低下した。労働需給逼迫度合いが強まっていることを示す。
平均時給も4月は前月比0.5%上昇と前月(同0.3%上昇)に比べ、伸びが加速した。労働需給逼迫により、賃金上昇テンポが加速していることがわかる。
年率5%の粘着的インフレが続く。労働生産性低下も物価押し上げ要因
一方、4月の消費者物価統計によれば、エネルギー、食料品を除くコア消費者物価の前月比は0.4%上昇し、伸びは前月と同水準だった。
昨年12月以降のコア消費者物価前月比をみると、12月0.4%、1月0.4%、2月0.5%、3月0.4%、4月0.4%と、安定的に前月比0.4%程度(年率換算では4.9%)の物価上昇が続いている。
エネルギー価格の変動はあるが、コア部分については、年率5%程度の粘着的なインフレが続いている。
他方、米国では、最近の労働生産性低下も、基調的なインフレを押し上げる要因になっていることがわかる。
労働生産性統計によれば、1~3月の労働生産性は前年比0.9%低下した。労働投入量が同2.3%増加したのに対し、生産が同1.3%と小幅な増加にとどまったためだ。労働生産性水準が低いサービス業主導で、経済が拡大していることが理由だ。
一方、時間当たり給与は同4.8%とかなりのペースで増加している。企業としては、労働需給逼迫を受けて賃金コストが増加していても、労働生産性が上昇していれば、コスト増分を生産性で吸収でき、最終製品価格に転嫁する必要がない。
しかし、賃金(時間当たり給与)がかなりのペースで増加しているのに、労働生産性も低下していては、コスト分だけでなく、生産性低下分も含めて、最終製品価格を引き上げざるをえなくなる。
結果として、基調的なインフレの動向を示す、単位当たり労働コスト(=労働生産性÷時間当たり給与)は、同5.8%増加している。
この数値からみると、現在の米国の基調的なインフレの水準は5~6%程度だとみられる。それがコア消費者物価の数値(年率5%程度の上昇)にみられる粘着的なインフレに結び付いていると考えられる。
結局、金融不安などの影響もあって雇用の伸びは減速しているが、それは労働需給を緩和させるほどの減速ではなく、労働需給逼迫は続き、賃金を上昇させている。
しかも、労働生産性が低下するなかでの賃金上昇がインフレの高止まりにつながっている。
インフレ抑制には7~9%へのFF金利引き上げが必要
こうした賃金上昇をともなう粘着的なインフレに対応しようとすれば、本来、一段の金融引き締めが必要だ。
テイラールールに基づくFF金利の適正水準を計算すると、以下の通りである。
FF金利適正水準=均衡実質金利+現在のインフレ率+0.5×(現在のインフレ率-2.0)
+(完全雇用失業率-現在の失業率)
だが、この式中の「均衡実質金利」に1.0%、「現在のインフレ率」にコア消費者物価の前年比5.5%、「完全雇用失業率」に4.0%、「現在の失業率」に3.4%を代入すると、FF金利の適正水準は8.9%となる。
一方、「現在のインフレ率」について、コア消費者物価5.5%の代わりに、比較的低めの数字の、コア個人消費デフレータの前年比4.6%を代入して計算した場合、FF金利の適正水準は7.5%となる。
図1は、後者のコア個人消費デフレータを用いてFF金利の適正水準を計算したものだ。
7.5%~8.9%と、かなり違いはあるが、いずれにしても、現在の5%程度のFF金利の水準でインフレが収まることはないだろう。
にもかかわらず、金融市場では、金融不安が銀行の貸出抑制を通じて実体経済を悪化させるおそれがあるとの理由から、利上げ打ち止めが期待されている。さらに年後半以降は利下げが期待されている。
だが、金融不安が利上げの代わりに過熱気味の景気を適度に減速させてくれるわけではない。
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本記事は2023/05/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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