ゾルタンポズサー【13】世界秩序への挑戦者の出現
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https://real-int.jp/articles/1932/
G20はG7+豪州とBRICS+に分断されるが、実は西欧は中立?
ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏が「戦争とコモディティの負担」の次に読むべきとしているのが、今回の記事「戦争と通貨の政治的手腕」です。
ポズサー氏によると、G7国家の政治家、金利トレーダー、ストラテジストが脱米ドル、多方面からの米国一極体制への脅威に対して何をすべきかが問われているそうです。BRICS+のG7への挑戦、NATOの対抗軍事同盟であるSCO拡大などを指していると思われます。
脅威を無視するべきではないのに、気づかないふりをしているのです。繰り返しになりますが、父親の生きた時代から2世代に渡り地政学リスクがない世界に生きてきたためです。
第二次大戦後、投資家は冷戦に対処しなくてはなりませんでしたが、冷戦終了後は一極時代を謳歌していました。グローバリゼーションが実現され、米国は紛うことない覇者であり、米ドルが基幹通貨でした。
しかし現在は地政学リスクが再び起こり、戦後初めて米国と対等の、ある面では凌ぐ、世界秩序への挑戦者が現れたわけです。中国は一帯一路やBRICS+、SCO(上海協力機構)という新たなグロバリゼーション機構を生み出し、新秩序を唱えています。
ロックダウンの間に中国は、ロシアを始めとするBRICS+との同盟を築いていたのです。資源が豊富なアフリカがコモディティの負担の最先端にいます。
「一帯一路」とは、世界に2つのシステムが存在することです。この脅威が米ドルと米国国債と無関係なふりをするのはやめるべきだとポズサー氏は主張しています。
G20はもう一体ではなく、G7+オーストラリア、BRICSにトルコ、サウジ、アルゼンチンを加えたBRICS+、中立国に分けられるそうです。
確かにウクライナ紛争後のG20では、共同声明見送りが5回連続で続いています。国連決議でもロシア批判国、支持国、棄権国、とに分かれており、棄権国が増えているのも米国の主導力が落ちてきていることの証左でしょう。
前回の記事で触れたBRICS+への拡大ですが、アルゼンチンとイランが申請、サウジ、トルコ、アルジェリアが申請中、湾岸諸国は来年申請予定だそうです。BRICSと途上国の外相会議によるとインドネシア、タイ、ナイジェリアやセネガルも参加検討中だそうです。
そしてインドネシアは前回の記事にあったようにリチウムOPEC構想をかかげ、メキシコはリチウム鉱山を国有化、韓国はAUKUSから除外され米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)をこれ以上拡大しないよう中国から釘をさされているそうです。
結果としてポズサー氏の意見では、G20は、EUを除くと19カ国ですが、実質上はG7+オーストラリアの8カ国(NZは参加国ではない)、BRICSとその参加表明国、国有化などで歩調を合わせている他の11カ国に分類されるようです。
そしてこの分断で最も影響を受けるのが、欧州だそうです。EUはロシアの天然ガスの軌道からは外れたが、中国の経済軌道上には留まると予言していましたが、まさにそのとおりになっているのではないのでしょうか?
「ゾルタンポズサー【10】地政学リスクによるインフレが始まった!」で触れた欧州首脳の中国への次々の訪問から見ると、中国とのデカップリングは無理なのではという予想はやはり当たっていたようです。
https://real-int.jp/articles/2058/
ロイターの4月7日の英語記事では、マクロン大統領が習近平主席にお世辞を言っているとされています。中国とのデカップリングは起きず、貿易関係を強化していく。以前から唱えていた米国、中国とは異なる第3極としての欧州の戦略的自立を目指すというのです。
フランスに気兼ねしていたのか日本のマスコミでは取り上げられていませんでしたが、米国共和党のルビオ議員やトランプ元大統領などが不快感を示すと4月11日になって読売新聞にあるように各メディアから批判記事がこぞって掲載されました。4日間も遅れています。まるで米国の許可を取ってから掲載しているようで、報道の自由はどこにあるのでしょうか?
また読売新聞の記事ではドイツの元環境相の批判コメントが載っていますが、もはや政府内にない記事の論調に都合の良い一人の意見に過ぎません。
ロイターの記事ではマクロン大統領とEU議長に続き、EUの外交トップとドイツの外相が訪問する(China-EU engagement will continue in the coming weeks with foreign policy chief Josep Borrell and Germany's foreign minister due in Beijing.)とあります。
読売の記事は中国との関係を強化したいのはフランスだけであるという印象を抱かせますが、ロイターにあるようにドイツも米国に追随していないのです。OECの表に見られるように、基幹産業の自動車の最大の輸出国は中国なのです。
その後マクロン大統領への欧米で批判が高まっているとの日本での報道はさらにエスカレートし、裏切りという意見も見受けられましたが、英文記事を読んでいると真実とは異なるようです。
例えばゼロヘッジにあるように、EU議会議長のミシェル氏らは米国に追随しないという意見に賛成しており、マクロン大統領は謝罪する気はないそうです。ミシェル氏は「言葉にしたのは間違いだがEUの立場は変化しており、心の中ではマクロン大統領に同意しているものは多い」と擁護しています。
ドイツの与党社会民主党内でも、意見は分かれたそうです。台湾に関する発言はもちろんマクロン大統領の失言であり、ロイターにあるように、ショルツ首相よりもタカ派で反中のドイツ外相は訪中前に、「台湾についての中国の姿勢は容認し難い、反面、依存を弱めることが必要だが、中国とのデカップリングはない」と語っています。
戦略的自立はトランプ大統領時代に突きつけられた欧州の課題であり、新しいものではありません。発言の一部のみを強調する日本のマスコミだけを読んでいるのは、松島社長が仰っているように、非常に危険だと痛感されました。
https://real-int.jp/articles/2027/
このように、ロシアやウクライナと国境を接する東欧や北欧とは異なり、西欧は米中対立においては中立の立場を取りつつあるのではないでしょうか?サウジとイランの国交回復により形成が逆転し、G20でもアングロサクソン系の英豪加と日本のみが米国と歩調を合わせているように見えます。
ユーラシア大陸を支配すると自動的にアフリカをも支配できるそうですが、BRICSの拡大により覇者は米国ではなくBRICS+に代わりつつあるようです。
そしてコモディティと工場を支配するとインフレ=金利、間接的に株式市場をコントロールできるのです。BRICSの拡大とコモディティの独占により、米国と米ドル支配の時代は終焉に向かっているのです。
上述のタカ派の共和党のルビオ議員はこの事態に気づき、非常に苛立っているようですが、民主党政権はどうなのでしょうか?
つづく・・・
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