金融不安への当局の対応をどうみるか?
預金全額保護の功罪は
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の経営破綻に対応して、当局は、2行を救済せず、株式投資家の損失を容認する一方で、債権者の一部である預金者の預金は全額保護するという異例の対応を決めた。
預金保険制度のルールによれば、預金保護の上限は25万ドルだが、預金保険の対象外の預金を含めて、預金の全額保護を決めた。
預金者を安心させ、預金引き出しの動きを抑えるためであり、「これらの銀行の預金者は大口預金者が多く、これらを保護しなければ預金流出の動きが広がるから」という理由だが、逆に、全額保護の対応は、モラルハザードの弊害を生む。
本来、預金者は自分が預金を預けようとする銀行が健全な銀行かどうかを選ぶのが普通だが、預金が全額保護されるとなると、預金者は、例えば、経営に問題があり高金利で預金を集め、ハイリスクな投資を行おうとする銀行にでも、平気で預金を預けられる。
バイデン大統領は「この2つの銀行の破綻処理で国民には負担が発生しない」と述べた。
確かに、FDIC(連邦預金保険公社)の預金保険基金が底をつくまでは、表面上、国民負担は生じない。
だが、預金保険基金残高は昨年末時点で1,282億ドルで、預金保険の対象になる預金(10兆680億ドル)の1.3%でしかない。
銀行の経営不安の動きがこの2行で終わるというのあればいいが、シリコンバレー銀行と同様に債券投資に傾倒していた銀行を中心に、中小銀行クラスの破綻は今後も続く可能性がある。
だとすれば、預金保険基金はすぐに底をつくだろう。
そうなれば、破綻した銀行の預金者保護のコストを銀行全体で負担するか、さもなくば、税金での負担で預金者を保護しなければいけなくなる。
したがって、すべてのケースで預金の全額保護を約束することはできない。
FRBが救済できるのは流動性不足問題だけ
案の定、預金者の預金引き出しの動きに歯止めはかからなかった。
中堅銀行のファースト・リパブリックに取り付けの動きが波及し、これに対して、JPモルガンなど主要米銀11行は、合計300億ドルの預金を預け入れるという救済策を決めた。
「奉加帳」方式と言われる同救済策は、イエレン財務長官とJPモルガンのダイモンCEOが中心となってまとめ上げたとされる。
ファースト・リパブリックも大口預金が多く、預金保険でカバーされる上限25万ドル以上の大口預金の残高が全体の7割を占めている。
前2行の例にならえば、破綻すれば預金の全額保護になるところだが、ファースト・リパブリックについては、その前に、破綻させないという選択肢がとられた。
だが、銀行が破綻状態か、それとも破綻しなくてもいい状態かは、財務状況によって決まる。
ソルベンシー(支払い能力の問題、債務超過かそうでないか)の問題は、預金流出などの流動性とは別問題である。
ファースト・リパブリックが、もし、債券投資による含み損などによって、実質的な債務超過状態になっているとすれば、いくら預金預け入れによって流動性を供給したとしても、助かる見込みは少ない。
助かる見込みがない銀行に対し流動性供給のために預金を預け入れ、しかも、その預金が全額保護されるとすれば、預け入れられた300億ドルの預金は預金保険基金がカバーすることになる。
つまり、昨年末の残高(1,282億ドル)のうち300億ドルが使われてしまうことになる。
FRBは3月12日、通常の連銀貸出に加えて、バンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)を導入した。
足もとで連銀貸出は1,500億ドルを超え、リーマンショック時の最大金額(1,110億ドル)を上回った。
これは、FRBが流動性の面において、無制限な資金を供給し、徹底的に銀行システムを支える姿勢を示し、金融市場に安心感を与えようとするものだ。
一方、今回の状況がいかに混乱しているかを示すものでもある。
ただ、FRBと言えども、解消できるのは流動性不足だけだ。
ソルベンシーの問題を解決しようとすれば、銀行自身が増資などで出資資金を募るか、当局が税金(公的資金)を投入して救済しなければいけない。
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2023/03/20の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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