高まるドル安円高リスク
インフレが沈静化しないままFRBが金融緩和を進めれば信認低下でドル暴落も
ドル円相場は130円割れの円高となった。
ドル実効レート、円実効レートの動きをみると、ドル実効レートが下落、円実効レートが上昇しており、今回のドル円の下落はドルサイドのドル安要因、円サイドの円高要因が重なって起きたものと考えられる(図1参照)。
ドル安要因
まず、ドルサイドのドル安要因についてみてみよう。
昨年までのドル高の背景には、FRBがインフレに対応して、積極的な利上げを行なうという期待があった。
ドル高の原因は米国の金利上昇にあると言われる。
ただ、金利上昇の原因である米国のインフレは、ドルの価値を減価させるものでありドル安要因だ。
したがって、単にインフレに沿って利上げが行われても為替市場ではドル高にはならないはずだ。
ドル高が進んだのは、ドル安要因であるインフレの勢いよりも、ドル高要因である利上げの勢いが強かった、あるいは強いと予想されたからにほかならない。
言い換えれば、名目金利からインフレ分を差し引いた実質金利が上昇したことがドル高につながった(図2参照)。
ただ、このようにFRBが強力に利上げを推し進めることができたのは、いうまでもなく、景気が良かったためだ。
FRBの2つの責務
FRBには物価安定と雇用最大化という2つの責務がある。
昨年までは、インフレが加速する一方、労働市場は過熱気味でむしろ冷やす必要があったため、FRBはインフレ抑制に専念することができた。
だが、この先、FRBは景気や雇用にも留意しなければいけなくなる。
だとすれば、今後もインフレの勢いに比べ利上げの勢いの方が強いかどうか、つまり実質金利が上昇するかどうかについては疑問がある。
金融市場では、米国経済のリセッション入りとインフレのピークアウトに応じて、早ければ3月にも利上げが打ち止めとなり、さらに年後半にも利下げがあると予想している。
金融市場が想定するメインシナリオは、リセッションにより急速にインフレが沈静化し、利下げが十分可能になるというものだ。
インフレ沈静化に伴って金利が低下するわけだからドル相場にとっては中立だ。
一方、FRBが想定するメインシナリオはリセッションでもインフレ沈静化のペースは鈍く、23年中の利下げはないというものだ。
確かに、12月FOMC議事要旨によれば、メンバー全員が23年中の利下げに否定的だった。インフレがなかなか沈静化しないため、金利を下げないというのもドル相場にとって中立だ。
これに対して、為替市場が意識し始めたリスクシナリオは、両者の見方が混ざったシナリオだが、ドル相場にとっては大幅安になりかねない、問題のあるシナリオだ。
つまり、FRBが想定するようにインフレ沈静化のペースは鈍いが、金融市場が想定するようにリセッションに対応して利下げが行われるというものだ。
だとすれば、当然、ドル安になる。いざ景気がリセッション入りし、企業のレイオフで雇用が大幅に減少し、株価も下落する事態に陥った場合、今は利下げしないと言っているFOMCメンバーの考えも豹変するかもしれない。
実際、1970年代(1970年2月~1978年3月)にFRB議長を務めたアーサー・バーンズ議長は、1972年、76年の大統領選挙などに配慮して、インフレがなお十分に沈静化していなかったにもかかわらず、早期の金融緩和に踏み切った。
賃金上昇を伴った粘着的なインフレは、次の大統領選挙が実施される24年になっても簡単に収束しない可能性がある。
そうしたなかで、例えば「インフレ目標を現在の2%から3~4%に修正する」といった形で、パウエルFRB議長が政治的な金融緩和圧力に屈することも考えられる。
仮に、そうなれば単に実質金利が低下するというだけでなく、インフレ抑制を責務の一つとして掲げていたFRBへの信頼が失墜することにもなりかねない。
1970年代同様、インフレがドルを下落させ、ドル安がインフレを加速させるといった悪循環につながるおそれがある。
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2023/01/16の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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