ゾルタンポズサー【4】2023年 何に投資をすべきか
前回の記事はこちら(全4部構成記事)
【1】ブレトンウッズ体制3は起きるのか?
https://real-int.jp/articles/1932/
【2】米ドル時代の終焉と人民元時代の到来
https://real-int.jp/articles/1933/
【3】2023年 FXでの勝者と敗者
https://real-int.jp/articles/1934/
ゾルタンポズサーの寄稿で気付かされる現在と第2次大戦前夜との類似点
1.米国を中心とした西側諸国と中国、ロシア、イランの勢力の対立に第3勢力がどう対応するかが不透明
第2次大戦前の世界は、戦後の冷戦時代と同じで、西側の民主主義国家はソ連の革命が波及することを恐れていました。フランス革命後と同じといってもよいかもしれません。そのため、英国とフランスは宥和政策を取り、ドイツのヒトラー政権にオーストリアとチェコスロヴァキアの併合を許してしまいました。そして1939年に独ソ不可侵条約を結び世界に衝撃を与えました。天敵である極左と極右が同盟したわけです。
その後、ポーランドやフランスを占領したドイツが英国占領を諦め、独ソ不可侵条約を破りソ連を攻撃すると、英国と米国はソ連を財政面で援助します。現在のウクライナへの援助と同じ構図です。
しかし、米国は孤立主義を取り、欧州の大戦へ関与することに国民は無関心でした。そのためルーズベルト大統領は日本を経済的に追い詰め、事前に無線で察知していたパール・ハーバー襲撃を起こさせて世論を見方につけると、日本に宣戦布告、ドイツとイタリアも3国同盟に従い米国に宣戦布告し、米国が第2次世界大戦に参戦することになりました。本来敵であったはずの共産圏のソ連と西側連合国が同盟することになったわけです。
このように、全体主義と共産主義が手を組み、その後は民主主義と共産主義が同盟したわけです。主義・思想などは実はあまり重要ではなく、人間とは、自己の利益の追求しか考えないことの証明と言えるでしょう。
現在に目を向けると、サウジアラビアを盟主とする中東のOPEC(石油輸出国機構)主要国はイスラム教スンナ派を信仰しており、シーア派の盟主であるイランとは敵対関係にあります。地政学上の問題から長年米国の同盟国であり、西側に立っていました。しかし、バイデン大統領がトランプ政権時代にサウジの実権を握るムハンマド皇太子をジャーナリスト暗殺事件で批判、米国との関係が冷え込んでいました。
さらに、昨年11月の中間選挙を意識したのかバイデン政権が原油価格を操作しているとの疑念が報道され、湾岸諸国は米国への不満を募らせていました。世界中でロックダウンが解除され、戦争が起きているにも関わらず、原油価格がロックダウン時の2021年の価格を下回っていたためです。その結果、バイデン大統領の要請にも関わらず、OPECプラスは2022年11月に日量200万バレルの減産に踏み切り、12月も減産を維持しました。
このように湾岸諸国はOPECプラスとしてロシアなどの非加盟国と行動をともにしており、ロシアとの関係が強まっていました。さらに、上述のように、12月には中国の習近平主席がサウジを電撃訪問、中東主要国からなる湾岸協力会議に出席、石油取引での中国人民元決済を提唱するなど蜜月関係を築き始めました。
つまり、2023年現在、湾岸諸国も、もはや西側とはいえない状況となっています。体制も王家による独裁であり、民主主義の西側諸国とは相容れない関係でした。
イランはロシアにドローンに続き、ミサイルも提供、ロシアの同盟国であるのは言うまでもありません。このイランにレバノン、シリア、シーア派が多数派を占める新しいイラクを加えたロシア側諸国と極右政権が誕生したイスラエルとの地政学リスクも高まっています。
この結果、長年の宿敵だったアラブの盟主のサウジアラビアとイスラエルが接近、イスラエル飛行機のサウジ領空通過が許可され、国交正常化への動きが強まっています。一方で、サウジなどの湾岸諸国は、犬猿の仲であるイランと同盟関係にあるロシアや中国との関係を強めているわけで、もうぐちゃぐちゃです。
インドはクアッドのメンバーで、米国、日本、豪州と経済や安全保障上協力する関係にあります。中国と国境紛争も抱えています。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシアから石油や武器を購入するという中立的立場を取っています。中国は脅威だが、ロシアは別だということでしょう。
上記の第2次世界大戦前夜のように、現在は敵の敵は味方というような状況になりつつあります。ゾルタンの寄稿にあるように、コモディティを持つ湾岸諸国がロシア・中国と結びついても不思議はないということです。
2.グローバリゼーションが終わり、自国優先経済が復活する
自国優先を掲げたトランプ元大統領がバイデン大統領に破れたことで危機は去ったように思われました。しかしゾルタンによると、資源の奪い合いが起き、自国優先が復活するということです。
中国・ロシア・イラン・北朝鮮とG7を中心とする西側諸国との対立は西側優位だったはずなのですが、欧州や日本の衰退とインドやトルコ、湾岸諸国の自国優先主義でどうなるか分からなくなってきたということでしょうか?
米国は中国製品に関税をかけるだけでなく、機密情報保持のために次世代モバイル規格の5Gではファ−ウェイ、ZTEなど中国企業を排除しています。先端半導体と製造装置の中国への輸出禁止を同盟国の日本(エッチングの東京エレクトロン、洗浄装置のスクリーン)やオランダ(露光装置シェア9割のASMLがある)に呼びかけています。
しかし、中国が巨大市場であるだけに、ASMLトップはこの要請に疑問を投げかけています。資源を持つ米国と異なり、欧州は資源を持たないので、全てについて米国の言いなりなるわけにはいかないということでしょう。米国の51番目の州として揶揄される日本でさえ、ロシアとの天然ガス共同プロジェクトのサハリン2からは撤退していないのです。
このように西側諸国の一体感も資源が豊富に入手できたからこそ成立していたわけで、ゾルタンの主張する資源の取り合いの世界の中では砂上の楼閣のようなものだということでしょう。
3.極右政権の出現と移民排斥
第2次世界大戦前夜は西側民主主義の一員だったイタリア、ドイツ、日本が、上述のブロック経済により国民が疲弊・貧窮し、自国のことしか考えられなくなり、極右化し、西側から離脱したわけです。第2次大戦後の独裁国家は中国、ソ連(ロシア)、北朝鮮など左翼の共産主義国家であり、極右政権は西側諸国には存在していませんでした。
しかし、2022年のフランス大統領選挙ではマクロン大統領が勝利したものの、極右のルペン党首が42%の得票率を挙げ予想外の善戦を果たしました。そしてスウェーデン総選挙では移民排斥を掲げる極右のスウェーデン民主党が第2党となり、イタリアの総選挙では極右「イタリア同盟」が勝利、メローニ氏が首相に就きました。
それだけ多くの国で人々がインフレに苦しみ、疲弊してきているということです。今年総選挙のあるスペインやポーランドもどうなるのでしょうか?両国とも経済的に強くなく、極右がはびこる土壌はあるわけです。第2次世界大戦前においても最初の極右政権は1925年のイタリアのムッソリーニ政権でした。ドイツでヒトラーが首相となるのは1933年、スペインのフランコ政権は1938年、日本の東條政権は1941年です。
民主主義の砦である米国でもポピュリストで移民排斥主義のトランプ氏が2017年に大統領に就任し、国境に壁を作ろうとし、2020年の選挙での敗北を認めずにその支持者は翌年1月に議会襲撃事件を起こしました。2023年1月8日に起きた「ブラジルのトランプ」と言われたボルソナーロ元大統領支持派による議会襲撃事件は、これと驚くほど類似しています。極右独裁国家はまだ出現していませんが、排他的な右翼の躍進には目を見張るものがあります。
極右政党が、社会福祉が充実し、移民に対して最も寛大だったスカンジナビア諸国であるスウェーデンで第2党となったのは誰にも予想できなかったことです。
これ以上の貧困には最も精神性が高いスウェーデン国民でさえ耐える気はないのでしょう。自国民のことしか考えられなくなる移民排斥はナチのユダヤ人迫害を想起させます。
問題は、米国にしろ、欧州にしろ、為政者が富を独占しており、中流以下の人々の苦しみを理解していないということです。インフレの早期の鎮静と中流階級の復活を願うばかりです。
4.自国民の多い地域と飛び地の併合、他国からの侵略の脅威となる地域への侵攻
クリミア併合の際のロシアのウクライナ侵攻の理由は、ロシア系住民の多い地方の併合でした。これはオーストリア併合やチェコスロヴァキアでドイツ系住民の多かったズデーデン地方割譲を要求したナチス・ドイツのそれと似ています。
そして、2022年の侵攻は中世のキエフ公国の中心であったウクライナはロシアのルーツであり、兄弟国のウクライナがNATOに参加することは許されないというNATOの東方拡大への拒絶です。
これは第1次世界大戦後にイギリスとフランスがドイツへの脅威からラインラントというライン川周辺地域を不武装地帯としたこと、再軍備後にヒトラーがそこに侵攻した事件と重なります。もっとも、ズデーデン地方割譲要求はラインラント侵攻の後の事件でしたが。
そして、飛び地の存在も格好の侵略の材料となります。ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋爆破は日本でも大きく報道されましたが、飛び地となったクリミア半島とロシアを結ぶためにウクライナとの共同ではなくロシア単独で大橋は建設されました。
再び歴史を遡ると、第1次大戦後のヴェルサイユ条約で西プロイセンがポーランド領となり東プロイセンがポーランド領の中にドイツの飛び地として残されました。このドイツ人が多く居住する飛び地を奪回することを掲げて、ナチスのポーランド侵攻、第2次大戦が開始されました。
そして、現在、カリーニングラードという地域がロシアの飛び地となっています。ロシア本土との間にはエストニア、ラトヴィア、リトアニアのNATO加盟国であるバルト三国が存在しています。もしもウクライナが簡単に占領されていたならば、ロシアは18世紀から自国領となっていたこの三国に侵攻した可能性も否定できません。そうなれば第3次世界大戦となっていたかもしれません。
5.国際的に孤立した国々が接近する
トランプ大統領時代には、北朝鮮とイランが国際的に孤立していました。現在は、これにロシアが加わりました。
そして中国も、最先端半導体の輸出禁止などで相当追い詰められています。ゾルタンは自然界の原材料である資源を持つ国が制覇すると提唱していますが、半導体は「産業の米」です。半導体なくしては中国が世界シェアを拡大している電気自動車から、PC、スマホまで電化製品が製造できなくなります。
半導体はコモデティ−と同等に重要であり、このままでは中国のGDP成長率はコロナ前に戻らず、ロシアと同じ単なる資源国になってしまいます。西側諸国との国際貿易が国益だったためにウクライナ侵攻後には距離を置いていたロシアと、2022年12月30日に首脳会談を行い、再び蜜月状態に入りつつあるのはゾルタンの指摘するように西側と距離を置くことを決断したのでしょうか?
さらに、ゾルタンの12月の寄稿により、王家の独裁体制を批判されているサウジアラビアを筆頭とする湾岸諸国も東側に接近していたことがわかりました。エルドアン大統領の独裁政権が続くトルコもNATO加盟国でありながらロシアとも緊密な関係を維持しています。インドと同じく、西側ではなく中立と見るべきでしょう。
現在の世界情勢は、第1次世界大戦までは連合国側だった日本が満州国樹立を、イタリアがエチオピア侵攻を認められずに国際連盟を離脱、日独伊三国同盟を締結した状況と似てきているのではないでしょうか?
以上のように、平和な日本では全く話題にすらなっていないゾルタンの寄稿ですが、世界を取り巻く状況は非常に困難な時代に入ったのは確かなようです。追い詰められているように見える中国が実は追い詰めている側なのかもしれません。米国に肯定的な日本のマスコミに惑わされず真実を知るには、リアルインテリジェンスの記事を引き続きお読みください。
そして、ゾルタンの予言のように、資源獲得戦争が既に起きていることを日本も認識すべきでしょう。最も大切な資源の一つである水資源を持つ土地が北海道などで中国に購入されている事実に向き合うべきではないでしょうか?一刻も早い法律の改正が望まれます。
最後に・・・
最後に、何に投資をすべきか、です。30年間株価もほとんど上昇していない円資産だけに頼っているのは危ないと思われる方が多くなり、近年は米国株式や米国国債が人気となっていました。
しかし、ゾルタンの予言が正しいとなると、米ドル資産だけに頼るのも危ないということになります。1昨年まで人気だったオルカンも、利上げでカントリーリスクの高い国からの資産が引き上げられる昨年からの新環境ではおすすめできません。
松島社長が提唱されているように、今年は、2022年同様に株式の売りポジションを持つこととゴールドの買いポジションを持つことは王道なのでしょう。
どうしても長期の買いポジションを持ちたい場合は、ゾルタンおすすめの金などのコモデティティ以外では中国に代わる世界の工場候補となっているインド株が良さそうです。
【全4部構成記事】
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