ゾルタンポズサー【2】 米ドル時代の終焉と人民元時代の到来
前回の記事はこちら(全4部構成記事)
https://real-int.jp/articles/1932/
ブレトンウッズ3体制における勝者と敗者は?
ゾルタン・ポズサー(ZoltanPozsar)が提唱するブレトンウッズ3体制では、原油や天然ガス、金などの資源、食料を持つ国が中心となる世界となり、元には戻らないそうです。ロシアや中国、中東の産油国などの独裁国家が勝者となり、西側の民主主義国家は苦しむことになります。
物の価格が上がるインフレに悩まされるということです。西側諸国の対ロシア原油制裁により、資源そのものの価格だけでなく、遠方に運ぶことなったために輸送コストであるタンカー運賃も急騰しているようです。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻は、それまで米国頼りだったNATOに属する欧州諸国や日本を軍備増強に駆り立てることになります。トランプ元大統領が2020年に西側同盟国にGDPの2%を軍事費にまわすように要請したのは実は正しかったということです。
そして、中国を中心に構成されたグローバル・サプライチェーンは見直しを迫られています。インフレに加え、軍事費の増強とサプライチェーン投資変更による支出増で、西側諸国は徐々に衰退することになるわけです。
しかし、西側諸国の中では米国はエネルギー、食料、金などにおいて世界有数の資源生産国でもあります。シェールガス革命により原油生産や天然ガスにおいては世界1位の産出国です。
石炭、小麦、金の生産では世界第4位、電気自動車やスマホなど電子機器の生産に欠かせないレアアースでも、米国地質調査所によると、中国が全体の6~7割、米国とミャンマーは2割弱、豪州は1割弱を占めており、世界2位となっています。世界一の軍事大国であり、軍事費増強の負担も少ないです。唯一の問題は、サプライ・チェーンの変更にコストがかかることでしょうか?
つまり、米国は勝者であり続けると最初は思ってしまいましたが、よくよく考えると、
ゾルタンは米国も凋落すると主張しているのです。ブレトンウッズ2という米ドルを中心とした体制が終わりを告げると語っているからです。
前回の記事で解説したように、このシステムは中国や日本、サウジアラビアなどの輸出国が膨大な貿易黒字で米国債を購入していることでその優位が保たれていたわけです。
その中国がロシアと共に金準備高を急速に積み上げていると噂されています。そして後述しますが、サウジも東側同盟に接近しているようです。
金や石油などのコモディティを中心とするブレトンウッズ3では外貨準備高における中心は米国国債から金へと移るわけです。米国の利上げにより価格が下落する中で、各国の米国債保有残高は2022年に減少しています。
その中で特に中国は、保有高が4月時点で12年ぶりの低水準となり、日本に首位を分け渡していたようです。
東側は既に米ドルから金へとシフトしており、米国国債を買い支えるのは西側諸国だけになると、米国の国力が低下するのは言うまでもありません。もっとも、徐々にシフトしていくわけであり、2023年中に急に起きる心配はないでしょう。
オーストラリア
豪州は上述のレアメタルは4位、鉄鋼石は1位、金は2位、石炭は5位の資源国です。欧州や日本に比べると地政学リスクは低いですが、軍事費はすでにGDPの約2%となっています。工業国ではないので、サプライ・チェーンの変更のコストもかかりません。西側では最も有望な勝者となります。
ニュージーランド
ニュージーランドも乳製品、肉類など輸出品の6割が農業製品であり、軍事費はまだGDPの1.4%ですが地政学リスクは低いので問題はなく、勝者でしょう。
カナダ
カナダは軍事費のGDP比率は1.4%ですが米国と国境を接しており、心配はないでしょう。石油は世界4位、金は5位、天然ガスと小麦は6位の資源産出国であり、勝者となります。
欧州・英国・日本
反対に、欧州、英国、日本は資源輸入国であり、軍事費の増強、サプライ・チェーンの変更も必要で、敗者となります。
ゾルタンのブレトンウッズ3体制では、コモディティとそれに支えられた通貨が強くなるわけです。
米国のリセッションは軽度で終わりそうですし、中国はゼロコロナ政策を放棄し2023年後半には経済も回復してくるでしょう。
原油や天然ガス、金や食料価格は上昇し(インフレが続く)、FXではユーロ、ポンド、円が弱くなるという構図です。
ここまでがゾルタンの3月の寄稿の趣旨です。
新G7と石油決済における米ドル時代の終焉と人民元時代の到来とは?
そして、12月にブレトンウッズ3に関してのゾルタンの新しい寄稿がありました。中国の習近平主席が同月にサウジアラビアを訪れたことから書かれたそうです。
ブレトンウッズ3体制での統治国である西側のG7に変わる東側のG7が明らかにされました。コモディティ産出国であるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に
サウジアラビアとトルコ(またはエジプト)を加えた7カ国だそうです。
中国がどのようにして世界経済において西側諸国を凌駕しようと決断したかについて、焦点が置かれています。今後3年から5年かけて中国は湾岸諸国と協調していくそうです。
中国が大量の石油や天然ガスを湾岸諸国から購入し、上流のエンジニアリングから下流の備蓄、輸送、精製まで協力していき、米ドルだけでなく人民元で決済されるということです。
低価格の天然ガスや原油はBRICSプラスサウジとトルコでのみ利用可能で、西側諸国には渡らないそうです。ロシア産原油を低価格で購入したインドが精製後、欧州に輸出しているというニュースも目にしました。どちらが制裁を受けているのか分からなくなってきたということでしょうか?
米国1強体制が崩れる世界においては、通貨ではなくコモディティーが重要となり、西側諸国のインフレーションは収まらないそうです。中国が金だけでなく、石油や天然ガス、食料を備蓄し始めているというニュースを思い出しました。
上述のように、中国が米国国債ではなく、コモディティーを選んだということは、米ドル中心のブレトン・ウッズ2体制の終焉を意味します。ウクライナ侵攻直前に北京オリンピックでプーチン大統領と習近平主席が会談した際に既に決定されていたとゾルタンは言いたいのではないでしょうか?
ゾルタンは、石油との交換の標準としての米ドルの時代は終わりを告げ、人民元の時代が始まるとも書いています。安全保障と収入と交換に西側諸国は石油を手に入れていました。
しかし、米国とサウジとの関係は冷え込み、米国はシェール革命で中東のエネルギーを必要としなくなっていたわけです。いつのまにか中国が湾岸諸国からの最大の石油輸入国となっていました。そして、湾岸諸国が現在重視しているのは、尊敬であり、バイデン政権の行動は正反対となっています。
西側諸国が優位にある精製までを湾岸諸国にもたらす中国の協力姿勢は、サウジのヴィジョンに合致していると、ゾルタンは主張しています。湾岸諸国との通貨スワップ制度も開始されるようです。
人民元での石油の決済は2018年のBRICS会議において実は既に提唱されていたそうです。2016年以来、上海と香港の交換所では人民元と金は兌換可能であり、中国は金の備蓄を増やしきました。金との兌換が米ドルとの兌換よりも重要なのは当然ということです。
そしてデジタル人民元構想も、中国だけでなく、香港、親日であるタイ、そしてアラブ首長国連邦(UAE)の中央銀行で開始されているとも書いています。
調べたところ、確かにタイとUAEとのデジタル人民元の越境決済の共同研究が2021年2月に始まっていました。中国は石油の購入において、米ドルをもはや必要していないということのようです。
2022年からロシアは中国に石油を人民元決済、インドにはアラブ首長国連邦の通貨であるディルハム決済で販売しているそうです。ベネズエラの石油も人民元決済です。
アラブ首長国連邦は2023年中に自国の石油をディルハムで売れるように計画しているともあります。そして中国は、2025年までに上海交換所で湾岸諸国の石油を人民元建てで決済できるよう便宜をはかっているのです。
さらに、湾岸諸国の宿敵のイランとも値引き販売と交換に大規模な交通、製造石油精製のへの経済援助を約束しているそうです。ゾルタンによると、ロシア、イラン、ベネズエラと湾岸諸国は世界の石油備蓄のそれぞれ40%を占めるとのことです。
つまり80%は米ドルではなく、人民元決済になります。確かに石油決済においては、米ドル時代から人民元時代へと既に進んでいるようです。
そして、精製で大きな利益を上げていた西側諸国のエクソン・モービルなどの石油メジャーの凋落が始まることになります。