来年のドル円相場を見通す
今年の外為市場では歴史的な円安ドル高が生じた。
ドル円は10月21日に一時151円台と1990年以来の円安水準を記録、年間の値幅も38円強と1986年以来の大きさになっている。
昨年末に130円前後にあったユーロ円も一時148円台まで円安が進行するなど、今年は円がほぼ前面安となった。
米国を中心とした世界的なインフレ圧力の高まりを受け、FRBを中心とした海外主要中銀の利上げが想定以上に積極化した。
一方、日本でもインフレ圧力が高まる中、日銀は遂に12月20日、政策修正に踏み切ったものの、秋口までは海外と日本の金利差は大きく拡大し、歴史的なペースでの円安につながった。
主要国での大幅な金利上昇もあり、先進国を中心に世界的に景気後退懸念が台頭、株価も軟調となる中でも円安であり、過去の景気サイクルとの関係では異例の円安加速とも言える。
新型コロナとウクライナ戦争という歴史的な供給ショックが発生し、想定以上にスタグフレーション(インフレ下の景気後退)的な経済環境になったことで、景気減速が明確となる中でも円安の賞味期限が半年程度延長したと考えられる。
円安ピークアウトが明確化へ
23年も円安が継続するかを考える上では歴史的と言えるインフレ圧力が鎮静化するかが重要になる。
この点では、足下では米コアCPIの伸びに減速感がで始めていることが注目される。
コロナショックによる供給制約が徐々に正常化に向かう中、財インフレ(モノの物価上昇)の減速が世界的に明確になりつつある。
さらに、FRBによる積極的な利上げにより、金利上昇に敏感な米住宅市場の調整も既に鮮明となっている。
今年半ばには住宅価格も下落に転じており、23年央に向けた家賃インフレの伸び鈍化も視野に入ってきたと言えるだろう。
賃金上昇率が高まっており、少なくともインフレ加速局面は終わった公算が大きい。23年前半には米国を中心にインフレピークアウトが明確化する可能性が高いだろう。
外為市場の注目はスタグフレーションからリセッションへと移行、円高圧力につながることが予想される。
23年前半の世界の金融市場の重要テーマとしては、以下2つの重要なピポット(方向転換)が実現するかが挙げられる。
- FRBの利上げ休止
- 中国当局のゼロコロナ政策解除
米国でのインフレピークアウトの可能性が高まってきたことで、外為市場ではFRBのピポットへの期待が高まっているが、そのタイミングは特にドル円相場にとって重要度が高い。
円は歴史的に金利差に対する感応度が高く、FRBのピポットにより米債利回りが低下に転じれば、円全面高の圧力が強まっても不思議ではない。
一方、主要国が行動制限を緩め、ウィズコロナへの移行を進める中、中国当局はゼロコロナ政策の下で厳しい行動制限を維持してきたが、足下で柔軟化の姿勢を強めていることが世界の金融市場にとって重要だ。
仮にゼロコロナ政策解除を公式に決定するなら、1四半期程度のパニック状況を経た後、中国人の海外旅行再開による旅行収支改善、供給制約の一段の改善による世界的なインフレ圧力の低下、リスク心理改善によるドル高圧力の一巡が円高ドル安圧力につながる可能性が高い。
2つのピポットが23年前半中に共に実現する場合、円は特に恩恵を受けやすい。
主要通貨の対ドル相場について、対米5年金利差と中国市場ストレス指数(人民元対ドル相場の予想変動率や中国株価、商品市況などを合成)に対する直近1年半の感応度を分布グラフ化すると、円は金利差に対してダントツに反応する傾向が確認できる。
FRBのピポットが明確化、米5年債利回りが低下に転じれば、対円でのドル高インパクトは大きくなる公算は大きい。
一方、中国市場ストレスに対する感応度については、今局面では円やタイバーツ、韓国ウォンが恩恵を受けやすい構図になっていることが注目される。
外為市場では、中国のゼロコロナ政策解除後の施行収支改善を通じた需給への注目が強いことが影響していよう。
尚、ここに来て日銀政策修正という3つ目のピポットが浮上した。日本でもコアCPIが前年比+3.7%(11月)まで加速している。
23年1-3月期中には日銀が注目してきた春闘が行われるとともに、新日銀総裁・副総裁が決定する予定にあり、海外勢を中心に日銀も政策修正に踏み切るとの見方も根強い。
12月会合で日銀が長期金利の許容変動幅拡大に踏み切ったことを受け、金利市場でも既に1年先の10年金利が0.9%弱まで上昇しており、政策修正期待は外為市場でも相応に織り込まれているのが現状だ。
ドル円相場にとっては10年金利差など以上に5年金利差の重要度が高く、23年を通じて追加的な政策修正が行われなければ、日本の5年債利回りの上昇は限定され、円高インパクトは限定的となる可能性が高い。
しかし、仮に日銀がYCCを撤廃し、5年債利回りを含めたイールドカーブ全体の上昇を許容するようであれば(現段階では24年あたりと予想され、直近で一気に決定することはあり得ないとの見方が多いが)、円高インパクトは大きくなり、1ドル=120円あたりまで進むことになろう。
そこまで政策修正がなくても、10年債利回り目標の25bp引き上げや、10年債利回り目標を5年債にシフトする、とした段階的政策修正は十分にあり得る。
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(この記事は 2022年12月25日に書かれたものです)
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